第2話 幼なじみの既視感 2-2-1 放課後の廊下 ― 運命の転倒スチル
放課後の校舎を、黄金色の光が満たしていた。
窓ガラスに反射する夕陽は、まるで世界そのものが柔らかく燃えているようで。
リリアは教室の戸締まりを終え、階段を下りようとして――足を滑らせた。
視界が揺れる。
その瞬間、世界が“イベントカメラ”に切り替わる。
背景がふっとぼやけ、BGMが自動で流れ出した。
軽やかなストリングス、そして甘いピアノ。まさしく、恋愛イベント専用のメロディ。
《恋愛イベント:幼なじみルート01 発動》
《条件:物理接触+救出成功》
――画面上に、システムメッセージが淡く浮かぶ。
リリアは一瞬だけ、舌打ちをこらえた。
そんな彼女を受け止めるように、少年の腕が伸びてくる。
反射的に掴まれた手。
軽い衝撃とともに、背中が壁に触れ――抱き留められていた。
距離、約十二センチ。
甘い照明が差し込み、背景にはピンクのエフェクトが走る。
画面右上でハートアイコンが点灯。
ユウは、苦笑いを浮かべた。
制服の襟元が夕陽に照らされ、赤く光っている。
「危ないな。いつもみたいにドジして。」
リリアは息を呑む。
その声のトーン、台詞、タイミング――
どれも過去のイベントログと完全一致していた。
(……これも、プログラムされた偶然。)
彼の手の温もりさえ、データの一部。
だというのに、その温度だけは“現実”のように感じられてしまう。
システムが淡く点滅し、彼女の瞳に一瞬ノイズが走る。
《恋愛進行率+3%》
《感情トリガー:発動準備中》
リリアは静かに息を整え、心の奥でつぶやく。
(このまま進行させれば、フラグが立つ。
……そうなれば、また“断罪イベント”が始まる。)
彼女はそっと、ユウの腕から身を離した。
金色の光の中、微笑むふりをしながら――
その目だけが、冷たくシステムの奥を見つめていた。




