2-1-3 破壊の代償と異変
世界が、軋む音を立てて動き出した。
止まっていた風が再び流れ、桜の花びらが宙を舞う。
だが――何かがおかしい。
風の音が、一拍遅れて耳に届く。
花びらは同じ軌道を描いて、何度も同じ角度で回転していた。
まるで時間そのものが、ぎこちなく再生されているようだった。
リリアの背筋を、冷たいものが走る。
(補正処理……失敗した? まさか……)
そのとき、カイトがゆっくりと振り返った。
彼の瞳に、黄金の光が一瞬だけ閃く。
まるで瞳の奥に、古代の魔紋が浮かび上がったようだった。
カイト:「……どうして邪魔を?」
リリアは息を呑む。
彼の声には、怒りでも戸惑いでもなく――悲しみの余韻が混ざっていた。
リリア:「恋なんて、ただの演算結果よ。」
淡々と返したその瞬間、
カイトの瞳の奥に――別の世界が瞬いた。
剣を握る手。
血に染まった戦場。
瓦礫の上で泣く少女。
そして、誰かの名を呼ぶ声。
――リリアーナ。
(……え?)
現実の音が遠ざかる。
リリアの心臓が一度、大きく跳ねた。
カイト:「……リリアーナ?」
その名が、確かに彼の唇からこぼれた。
その瞬間、リリアの身体は硬直する。
(どうして……? この世界で、その名前を知ってるはずがないのに……)
金の紋章がふっと消え、カイトは頭を押さえ、苦しげに目を伏せる。
カイト:「……くっ……なんだ、これ……頭が……」
ミナが駆け寄る。
静止した花びらが再び動き出し、風が取り戻したかのように吹き抜けた。
ミナ:「大丈夫? カイトくん!」
カイト:「……ああ、ただのデジャヴだ。」
その声は震えていた。
彼自身、何を見たのか分かっていない――だが、確かに覚えている何かがある。
リリアは一歩後ずさる。
耳の奥で、システムのノイズが鳴っていた。
《警告:干渉履歴に不整合》
《観測対象:朝倉カイト 記憶層=起動》
リリア(モノローグ):
「壊したはずなのに……。
なのに、彼の中で“何か”が動き始めた。」
淡い桜色が、赤くノイズを帯びて滲む。
壊した恋の代償が、ゆっくりと世界に浸透していく――。




