2-1-2.システム介入
リリアは静かに息を吸い込んだ。
右手の手首――そこに淡く光るUIウィンドウが浮かび上がる。
誰にも見えない、世界の“裏面”。
「……ここで、止める。」
指先で一度だけ、画面をタップ。
刹那、世界が軋む音がした。
《システムコマンド:恋愛進行フラグ=停止》
《強制介入権限:Observer_002》
――パチン。
乾いた音とともに、風が止まった。
舞い上がっていた桜の花びらが、空中でぴたりと静止する。
鳥のさえずりも、遠くのチャイムも消えた。
まるで世界そのものが、一時停止したかのように。
リリアの耳に残るのは、自分の鼓動だけ。
(……いつも通り。ここからが、“私の仕事”。)
中庭の中央で、カイトが不良を睨みつけたまま動かない。
ミナは涙の滲む瞳で、助けを求めるようにその顔を見上げている。
どちらも、完璧なイベントの構図。
だが――止まっている。
世界に動いているのは、リリアひとりだけだった。
「ここで守れば、二人の好感度が上がる……」
小さく呟きながら、彼女はミナへと歩み寄る。
そしてその腕を、強く掴んだ。
「……なら、壊す。」
リリアが力を込めて引き離した瞬間、
空間に亀裂が走った。
ピキ――ン。
光の線が弾け、静止した世界の中に赤い稲妻が走る。
コードの断片が飛び散り、空間がノイズ化する。
《恋愛フラグ:キャンセル》
《補正処理:未完了》
歪んだ電子音が空中に響いた。
凍りついていた花びらが、ひとつ、またひとつと粉々に砕けて消えていく。
リリアはその中で、ただ一人、目を伏せた。
(これで、断罪は起こらない……はず。)
だが、その胸の奥で――
わずかな違和感が疼いていた。




