第2章 恋愛ルートの干渉 ―他人の恋愛を止める少女の葛藤―第1話「王子の残滓」恋愛イベントの発動
放課後の中庭には、春の風が吹いていた。
桜の花びらがゆっくりと舞い落ちる。
校舎の壁に反射する夕陽が、あまりにもドラマチックだ。
――まるで、誰かが“演出”しているみたいに。
リリアは中庭の端、ベンチに腰を下ろしてその光景を眺めていた。
スマホを手にするでもなく、ただ静かに。
だが、その視線はやけに冷めている。
「……始まった。」
声に出した瞬間、空気が変わった。
中庭の向こうで、ひとりの少女が数人の不良に囲まれていた。
泣きそうな顔。制服の袖を掴まれ、震えている。
《恋愛イベント:王子ルート01 発動》
《好感度トリガー条件:危機的状況+救出成功》
リリアの視界に、薄いホログラム文字が浮かび上がる。
彼女にしか見えない“ゲームシステム”の裏側。
次の瞬間――
風が舞い、光が差し込む。
画面奥から一人の男子が歩いてくる。
柔らかな金髪が桜の花びらを散らしながら揺れた。
その足取りは完璧なテンポで、照明の当たり方まで理想的。
カイト:「君を泣かせるなんて、見過ごせないな。」
BGMが自動的に切り替わる。
弦楽器が重なり、ピアノが甘く旋律を紡ぐ。
乙女ゲームお決まりの“王子登場”演出。
カイトが不良たちをまっすぐ見据える。
ミナの瞳にハイライトが差し込み、世界がきらめく。
リリアはその瞬間、吐息を漏らした。
(……これが、“恋愛フラグ”。)
彼女の視界だけがゆっくりとモノクロに染まっていく。
色が消え、時間の流れが歪む。
桜の花びらの軌跡の裏に、データコードの線が走っていた。
(危機的状況。救出。感情の変化。……完璧なテンプレートね。)
指先をひと振り。
その動きに反応して、視界の端でUIが点滅する。
《恋愛進行フラグ:発生確認》
《好感度上昇値:+10》
リリアは目を細めた。
「……見ていられない。」
「だって、好感度が上がれば――断罪が始まる。」
小さく呟いたその声は、風に溶けて誰にも届かない。
彼女だけが知っている。
“恋の始まり”は、“破滅の始まり”でもあることを。




