世界の再構築 ― “現実”の春へ【3-1:消える空】
――空が、波打っていた。
最初にそれに気づいたのは、風の音が歪んだからだった。
青空の端がゆらぎ、雲がノイズのようにざらついていく。まるで誰かが映像データを巻き戻しているように、世界そのものがピクセルの粒へと分解されていった。
リリアは立ち止まり、息を飲む。
空の向こうで、色彩がひとつ、またひとつ消えていく。
ピンクに染まっていた桜の残光も、白い校舎の輪郭も、デジタルの断片となって揺らめいていた。
《#Sky_Texture: Resetting…》
《#Rendering_Mode: Reality》
無機質なシステムログが、空の上を流れていく。
だが、その光文字すらもすぐに淡く溶け、風に消えた。
リリアはゆっくりと顔を上げる。
瞬間、淡い陽光が彼女の頬に触れた。
それはプログラムの再現光ではない――本物の太陽の光だった。
「……消えた。」
唇から、自然とその言葉がこぼれた。
けれど、不思議と恐怖はなかった。
風が髪を揺らし、頬を撫でる。
鳥の影が空を横切り、遠くでチャイムが鳴る。
すべてが“スクリプト”のない音。
そして彼女の声もまた、コードではなく――空気の震えとして確かに存在していた。
リリアは目を細め、静かに微笑んだ。
それは初めて“現実”を見上げる人間の顔だった。




