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【漫画シナリオ】たすけて!催眠術にかかったふりをしたら、私を嫌う義弟の恋人にされちゃいそうです  作者: 高八木レイナ


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第二話 昨日までの距離

【朝・リディアの部屋前】


朝。


自室の扉の前で、リディアが深く息を吐く。


リディア(心の声)

(今日こそ、ノエルに謝ろう)

(催眠術にかかったふりをしてしまったこと)

(軽率な冗談だったこと)

(もう続けられないと、きちんと伝えなくては)


扉を開ける。


廊下の先に、ノエルが立っていた。


黒髪を朝日に透かし、いつもの完璧な微笑みを浮かべている。


ノエル

「おはようございます、姉上」


リディアは言葉を詰まらせる。


リディア

「ノエル。昨日のことなのだけれど――」


ノエル

「朝食へ行きましょう」


ノエルは自然な仕草で、リディアの肩へ手を添える。


ノエル

「父上がお待ちです」


リディア(心の声)

(今、話を聞いてくれるつもりはないのね)

(それとも……昨夜の命令が、まだ続いていると思っているの?)


そのまま歩き出すノエル。


リディアも、肩に触れる手を振り払えないまま隣へ並ぶ。


廊下ですれ違った若いメイドたちが、目を丸くする。


若いメイドA(小声)

「お嬢様とノエル様が、ご一緒に……?」


若いメイドB(小声)

「昨日まで、ほとんどお話しにもならなかったのに」


リディアは顔が熱くなる。


リディア(心の声)

(違うのよ)

(仲直りしたわけではなくて……)


ノエルは何も言わず、肩の手も離さない。


---


【朝食】


アルヴェイン侯爵家の朝食室。


オズワルドが新聞を畳み、向かいに座る二人を見る。


オズワルド

「ずいぶん仲が良くなったものだな。まるで昔のようだ」


リディアが、紅茶を飲み損ねる。


ノエルはカップへ口をつけてから、微笑む。


ノエル

「姉上が、俺の頼みを聞いてくださるようになりましたので」


リディア(心の声)

(そんな言い方をしないで……!)


オズワルド

「それは都合がいい」

「後継者候補と娘が不仲では、屋敷の統制にも差し障る」


リディアの指先が、膝の上で小さく握られる。


オズワルド

「グレンヴィル伯爵家から、お前とレオンの婚約について正式な打診が来ている」


リディアの手が止まる。


リディア

「……レオンが?」


リディア(心の声)

(父の言っていた縁談は……レオンのことだったの?)


小さな回想コマ。


半年前の春。アルヴェイン家の温室。


花を眺めるリディアの隣で、レオンが柔らかく笑う。


レオン(回想)

「リディア。そろそろ本気で、僕との結婚を考えてくれてもいいんじゃない?」


リディア(回想)

「また、そんなことを」


現在へ戻る。


リディア(心の声)

(あの時は、からかわれているだけだと思っていた)


オズワルド

「グレンヴィル家は近年、宮廷での発言力を増している」

「家格も領地も申し分ない。縁を結んで損のない相手だ」


ノエルのカップが、音もなく皿へ戻される。


白い指先が、把手の上で一度だけ止まる。


リディア

「……私の意思は?」


オズワルドはナイフを皿の脇へ置く。


オズワルド

「聞く」

「だが、感情だけで判断するな。お前一人の問題ではない」


リディアの紫の瞳が揺れる。


オズワルド

「先方も急かすつもりはないそうだ」

「ただし、レオン本人の希望だと聞いている」


リディア(心の声)

(レオンが……本当に、私との婚約を望んでいたの?)


オズワルド

「今夜はグレンヴィル伯爵家のダンスパーティに招かれている」

「リディア、お前も出席してレオンと話してこい」


リディア

「……わかりました」


ノエル

「俺も同行します」


オズワルドがノエルを見る。


ノエル

「姉上が久しぶりにグレンヴィル家を訪ねるのです」

「何かあれば、そばにいたほうがよろしいでしょう」


オズワルド

「……いいだろう」

「アルヴェイン家の次期当主候補として、お前の顔も先方に覚えてもらう必要がある」


ノエル

「承知しました」


リディアの指先が、さらに強く握られる。


リディア(心の声)

(やっぱり……)

(皆、ノエルがこの家を継ぐのだと思っている)

(私はどこかへ嫁いで、ノエルはここに残る)

(レオンとの婚約も、そのための自然な形なのかもしれない)


ノエルは伏せられたリディアの横顔を見る。


小さく握られた指先を見る。


それから、静かに視線を逸らす。


---


【朝食後・庭園】


朝露の残る庭園。


白薔薇のアーチの下で、ノエルがリディアを待っている。


ノエル

「昨日の暗示は、まだ続いていますか?」


リディアの唇が、かすかに開く。


リディア(心の声)

(今なら、「もう終わっています」と言えばいい)

(そうすれば全部、元に戻せる)


昨夜、ノエルが見せた笑顔がよみがえる。


リディア(心の声)

(でも……また、あのぎこちない距離に戻ってしまうの?)


リディアは小さく頷く。


リディア(心の声)

(また、嘘を吐いてしまった……)


俯くリディア。


その前で、ノエルの口元がわずかに緩む。


ノエル

「そうですか」


ノエルはベンチへ視線を向ける。


ノエル

「俺の隣に座ってください」


リディアはベンチの端へ腰を下ろす。


ノエルも隣に座る。


ノエル

「もっと近くに」


リディアの肩が、ぴくりと揺れる。


少しだけ体を寄せる。


ノエル

「次の確認をします」


リディア

「……まだ、あるの?」


ノエル

「膝を貸してください」


リディア

「え……?」


ノエル

「暗示が深くかかっている者が、安心できる相手のそばでどれほど落ち着くのか」

「確かめる必要があります」


リディア(心の声)

(そんな確認、聞いたことがないわ……!)


小さな回想コマ。


熱に浮かされた幼いノエル。

リディアの膝の上で、ドレスをぎゅっと掴んでいる。


幼いノエル

「姉上がいれば、平気です」


現在へ戻る。


リディアはスカートを整える。


リディア

「……少しだけよ」


ノエルはためらいなく、リディアの膝へ頭を預ける。


黒髪が、リディアの指先に触れる。


リディア(心の声)

(近い……!)

(重い……!)

(どうして、こんなに自然に甘えられるの……?)


ノエルは目を閉じる。


リディアのドレスへ頬を寄せる。


すう、と小さく息を吸う。


長いまつ毛が、かすかに震える。


ノエル

「……やはり、落ち着きます」


リディア

「そ、そう……」


ノエル

「姉上の匂いは、昔から好きでした」


リディアの頬が、一気に赤くなる。


ノエルは目を閉じたまま、片手を少し持ち上げる。


ノエル

「頭を撫でてください」


リディア

「えっ」


ノエル

「できるでしょう?」


リディアは迷った末、そっと黒髪へ手を伸ばす。


一度。


二度。


撫でるたび、ノエルのまつ毛が揺れる。


リディア(心の声)

(こんな顔をされると)

(私は、また断れなくなってしまう)


ノエル

「今夜のパーティで、誰かに何かを頼まれたら」

「先に俺へ知らせてください」


リディア

「……はい」


ノエル

「誰かにダンスへ誘われても、同じです」


リディアの手が止まる。


リディア(心の声)

(どうして?)

(催眠術の確認に、そんなことまで必要なの?)

(まさか……レオンと踊ることを、気にしているの?)


ノエルはゆっくり身を起こす。


一度だけリディアの膝へ視線を落とし、手を差し出す。


ノエル

「立てますか?」


リディアはためらいながら、その手を取る。


ノエルはリディアを引き上げる。


手を離さないまま、呼ぶ。


ノエル

「リディア」


反射的に、リディアが顔を上げる。


紫の瞳と紫の瞳が重なる。


ノエル

「よくできました」


リディア(心の声)

(また、その言い方)

(どうして、こんなに落ち着かないのかしら)


---


【回想・父の書斎前】


数年前。


リディアが、父の書斎の前で足を止める。


扉の向こうから、低い声が聞こえる。


ノエル(回想)

「父上は、両親が陥れられていたと知っていたのですね」


オズワルド(回想)

「知っていた」

「助ければ、アルヴェイン家まで争いに巻き込まれた」


扉の隙間。


ノエルの握りしめた拳だけが見える。


ノエル(回想)

「……俺の両親は、死にました」

「陥れた者たちは、どこにいるのです」


オズワルド(回想)

「今も宮廷の中枢にいる」

「掘り返せば、アルヴェイン家ごと潰される」

「忘れろ」


長い沈黙。


ノエル(回想)

「……この家の人間を、俺は許しません」


扉の外で、リディアが口元を両手で押さえる。


現在へ戻る。


リディア(心の声)

(父の娘である私も、ノエルに嫌われている)

(だから、昔みたいに頼られると苦しい)

(それでも私は、また彼を傷つけるのが怖い)


ノエル

「どうしました?」


リディアははっとして、手を引っ込める。


リディア

「……いいえ」


ノエル

「では、昼まで自由にしていて構いません」

「ただし、俺が呼んだら来てください」


リディア

「……はい」


ノエルは、ゆるく微笑む。


---


【夕方・リディアの部屋】


鏡の前。


アデルが、リディアの髪へ銀細工の髪飾りを留める。


深い葡萄酒色のドレス。

鏡の中で、黒髪と紫の瞳が際立つ。


アデル

「ノエル様とまたお話しされるようになって、安心いたしました」

「昨日までのお二人は、少しぎくしゃくしていらっしゃいましたから」


リディアは、鏡の中の自分を見る。


リディア(心の声)

(違うのに)

(私はただ、罪悪感から断れないだけ)


ノックの音。


アデルが扉を開ける。


ノエル

「失礼します」


ノエルの視線が、リディアで止まる。


一拍。


ノエル

「……よく似合っています」


リディア

「ありがとう」


ノエルは、すぐにいつもの微笑みを作る。


ノエル

「そろそろ参りましょう、姉上」


---


【グレンヴィル伯爵邸・大広間前】


夜。


馬車から降りるリディア。


伯爵邸の窓から、金色の灯りと音楽がこぼれている。


父の少し後ろを、リディアとノエルが並んで歩く。


伯爵夫妻がオズワルドを出迎える。


オズワルド

「ご招待に感謝いたします」


父が伯爵夫妻の方へ進む。


リディアの足が、わずかに止まる。


その横へ、ノエルが手を差し出す。


ノエル

「足元に気をつけてください」


リディアはためらいながら、その手を取る。


ノエルの指が、彼女の指先を包む。


ノエル

「最後に、もう一つ」


リディアが見上げる。


ノエル

「今夜、レオン・グレンヴィルの前では」


紫の瞳が、まっすぐリディアを見つめる。


ノエル

「俺の婚約者として振る舞ってください」


リディアの表情が固まる。


リディア(心の声)

(婚約者……?)

(それは、さすがに……!)

(レオンが、私との婚約を望んでいると聞いたばかりなのに)


ノエルは優しく微笑む。


ノエル

「できますよね」


一歩、彼が距離を詰める。


ノエル

「姉上は、俺の言うことを聞いてくれるのでしょう?」


リディアは、唇を開きかけて閉じる。


リディア(心の声)

(助けて……!)

(このままじゃ本当に、義弟の恋人にされてしまう……!)


ノエルは繋いだ手を離さない。


大広間の扉が、二人の前でゆっくりと開く。


華やかな音楽と、人々の笑い声。


大広間の奥。


レオンの深緑色の瞳が、二人の繋いだ手で止まる。


――第二話・了


 

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