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放課後、七不思議クラブに入ったら、学校の怪談が味方になりました 〜怖がり小学生と口の悪い座敷わらしの、謎解きサバイバル日記〜  作者: Deresuke・ごじゃっぺ・太郎


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第6話 半分こにしたプリン

「それ、おれが昨日、思ってたことだ」


 大地の声は、教室中を飛び回る鉛筆の音に消えそうなくらい小さかった。


 でも、ぼくには聞こえた。


 ひまりにも聞こえたらしい。

 さっきまで頭の上を飛ぶ消しゴムから身を守っていたのに、大地の方を向いて動かなくなった。


 黒板には、白い文字が残っている。


『おなかすいた』


『だれもわかってくれない』


 小鬼は、ぼくのランドセルの後ろで震えていた。


「おれじゃない」


 小鬼がもう一度言った。


「文字を書いたのも、物を飛ばしてるのも、おれじゃない。こんなにいっぱい食べたくない」


「じゃあ、誰がやってるの」


 ひまりが聞く。


 小鬼は、大地を指さした。


「こいつの腹の穴」


「おれのせいだって言うのかよ」


 大地の顔が険しくなる。


「結局、おれが悪いってことだろ」


「違う!」


 小鬼が怒鳴り返した。


 小さい体なのに、声だけは教室いっぱいに響いた。


「おまえが我慢するからだ! おなかすいてるのに、すいてないって言う! つらいのに、平気だって言う! 腹の穴がどんどん大きくなるから、おれまで何を食べたらいいか分かんなくなったんだ!」


「勝手についてきたくせに!」


「おまえが呼んだ!」


「呼んでねえよ!」


「呼んだ! ずっと呼んでた!」


 大地と小鬼の声がぶつかった瞬間、宙に浮いていた机が一斉に揺れた。


 教室の後ろに積んであった椅子が、がたがたと音を立てる。

 チョークが黒板を勝手に走り、新しい文字を書き始めた。


『おれががまんすればいい』


 大地の顔から血の気が引いた。


「やめろ」


 大地が黒板へ駆け寄る。


 文字を消そうと、黒板消しをつかんだ。

 けれど黒板消しは大地の手を離れ、天井近くまで飛んでいった。


『おれがたべなければいい』


「やめろって!」


『おれがほしいっていわなければいい』


「やめろ!」


 大地が黒板をこぶしでたたいた。


 大きな音がした。


 ぼくは肩をすくめた。

 怖かった。


 大地が怒っていることも怖いし、机が飛んでいるのも怖い。窓ガラスがびりびり震えているのも、黒板に大地の考えていたことが勝手に書かれていくのも、全部怖い。


 でも、大地の手が震えているのが見えた。


 怒っているからだけではない。


「山岸くん」


「来るな」


「でも」


「来るなよ!」


 怒鳴られて、足が止まった。


 すずめが、ぼくの横へ来る。


「怖いなら下がってな」


「すずめが止められる?」


「止めるだけならね。でも、穴をふさぐのは無理だよ」


「どうして?」


「これは怪談の問題じゃない。人間が、自分で開けた穴だから」


 すずめは黒板を見上げた。


「本人が、腹の中にあるものを出さないと、小鬼を追い出してもまた別の何かが入る」


「出すって、どうやって」


「聞くんだよ」


「また、それ?」


「あんたは、それしかできないだろ」


 それしかできない。


 少しひどい言い方だけれど、本当だった。


 ぼくは強くない。

 机を押さえられない。

 怪談を退治する方法も知らない。


 できるのは、聞くことくらいだ。


 でも、聞くのだって簡単じゃない。


 話したくない人に話してもらうのは、女子トイレへ入るのとは違う種類の怖さがある。間違ったことを聞いたら、嫌われるかもしれない。怒らせるかもしれない。もう二度と話してくれなくなるかもしれない。


 ひまりが、ぼくの隣へ来た。


「森野」


「うん」


「一緒に聞こう」


「朝倉さんも怖くないの?」


「怖いよ。机飛んでるし」


 ひまりは、頭の上を横切った筆箱をよけた。


「あと大地、今すごく怒ってるし。正直、近づきたくない」


「聞こえてるぞ!」


 大地が怒鳴った。


「じゃあ、ちょっと落ち着いてよ!」


「落ち着けるか!」


「落ち着けないなら、せめて話して!」


「何を!」


「何を我慢してるのか!」


 ひまりも負けずに声を張った。


 大地は、口を閉じた。


 ぼくより、ひまりの方がずっとまっすぐだ。

 その分、ときどき相手の痛いところへ迷わず踏みこむ。


 大地の顔が、ゆがんだ。


「おまえらに関係ない」


「関係ないけど、プリン盗んだって疑われたままでいいの?」


「別に」


「よくないでしょ」


「おまえに決められたくねえよ!」


「大地だって、自分だけで全部決めてるじゃん!」


「何を知ってるんだよ!」


「知らないから聞いてるんでしょ!」


 二人とも怒っていた。


 ひまりは大地を助けたいのだと思う。

 でも、助けたい気持ちが強すぎて、責めているみたいになっている。


 大地も、本当は話したいのかもしれない。

 でも、話したくないふりをしないと、立っていられないのかもしれない。


 人間って、本当に面倒くさい。


「あの」


 ぼくは二人の間に入った。


「森野は黙ってて!」


「森野は引っこんでろ!」


 二人から同時に言われた。


「……うん」


 ぼくは一歩下がった。


 すずめが、あきれた顔をした。


「下がるのかい」


「二人とも怖かったから」


「そこで正直にならなくていい」


 そのとき、ランドセルの陰に隠れていた小鬼が、大地へ向かって走り出した。


「だめだ!」


 小鬼は大地の足にしがみつく。


「もう我慢するな! おれ、おなかいっぱいなのに、まだ食べたい! 苦しい!」


「離せ!」


「嫌だ!」


「おれだって、好きで我慢してるんじゃねえよ!」


 大地の声が、教室に響いた。


 飛び回っていた物が、一瞬だけ止まった。


 大地も、自分が何を言ったのか分からないような顔をしていた。


 ひまりが、さっきまでの勢いをなくして言う。


「好きで……我慢してるんじゃないって、どういうこと?」


「だから、関係ない」


「関係ないなら、何でそんな顔してるの」


「どんな顔だよ」


「泣きそうな顔」


「泣いてねえ!」


「泣いてないけど、泣きそうじゃん!」


「朝倉さん」


 ぼくは、今度は少し強く言った。


「それ以上言ったら、たぶん話せなくなる」


 ひまりが振り向いた。


 何か言い返しそうになり、やめる。


「……分かった」


 ひまりは唇をかんで、少し後ろへ下がった。


 ぼくは大地を見た。


「山岸くん」


「何だよ」


「ぼくたちに言いたくないなら、全部は言わなくていい」


「じゃあ帰れよ」


「でも、一つだけ聞きたい」


「何」


「余ったプリン、本当はどうしたかった?」


 大地は黙った。


 黒板の文字が、また増える。


『もってかえりたかった』


 大地が黒板を振り返った。


「消えろよ」


 でも、文字は消えない。


「誰に?」


 ぼくが聞いた。


 大地は答えなかった。


 小鬼が、大地の足にしがみついたまま言った。


「弟」


「言うな!」


「弟に食べさせたかった!」


 小鬼が叫ぶ。


 大地は小鬼を振り払おうとした。

 けれど途中で手を止めた。


 小鬼の小さな体は、苦しそうにふくらんだり、しぼんだりしている。目には涙がたまっていた。


 大地は、長い間黙っていた。


 やがて、窓の外を見ながら言った。


「弟、今年一年生なんだ」


 声から、さっきまでの怒りが少しだけ抜けていた。


「学校は違う。おれんち、ここから少し遠いから。弟は家の近くの学校に行ってる」


「うん」


「母ちゃん、夜まで仕事。父ちゃんはいない」


 ひまりが何か言いかける。

 でも今度は、ちゃんと黙った。


「弟、学校から帰ると、おれが帰るまで一人で待ってる。学童に入れなかった日だけだけど。冷蔵庫におやつがある時もあるし、ない時もある」


「山岸くんが用意するの?」


「たまに。百円の菓子とか。パンとか」


 大地は、恥ずかしそうに眉を寄せた。


「昨日、弟が言ったんだ。学校の給食でプリンが出たって。おいしかったって。おれの学校も明日プリンだって言ったら、いいなって」


「それで、余ったら持って帰ろうと思ったの?」


 ぼくが聞くと、大地はうなずかなかった。


「持って帰っちゃだめなのは知ってる。給食は持ち帰れないって。だから、余っててもじゃんけんして、おれが食べるしかないと思った」


「弟にあげたいのに、自分で?」


「しょうがないだろ」


「先生に相談したら」


「何て言うんだよ」


 大地は、ひどく嫌そうな顔をした。


「弟にプリン食わせたいから持って帰っていいですかって? そんなこと言ったら、家が困ってるみたいじゃん」


「困ってないの?」


 ひまりが聞いた。


 大地がにらむ。


「朝倉さん」


 ぼくが止めると、ひまりは慌てて口元を押さえた。


「ごめん。今の言い方、悪かった」


 大地は少し黙り、それから言った。


「困ってる時もある。でも、ずっとじゃない。母ちゃんだって頑張ってる。弟だって我慢してる。だから、おれだけ、ほしいとか言えない」


「どうして山岸くんだけ?」


「お兄ちゃんだから」


 大地は、当たり前のように言った。


 その言い方が、ぼくには少し悲しかった。


 お兄ちゃんになったからって、急にお腹が空かなくなるわけじゃない。

 食べたいものがなくなるわけでもない。

 嫌なことを言われても平気になるわけでもない。


「大地」


 ひまりが、さっきより柔らかい声で言った。


「私、弟いるよ」


「知ってる」


「私も、お姉ちゃんだから我慢することある。テレビのチャンネルとか、最後のお菓子とか、お母さんが忙しい時に迎えに行くとか」


「おまえの家と一緒にすんなよ」


「一緒じゃないよ」


 ひまりは言い返した。


 でも怒鳴らなかった。


「一緒じゃないから、全部分かるとは言わない。でも、“お姉ちゃんだから”って言われるのが腹立つのは分かる。自分から我慢したくせに、誰にも気づかれないともっと腹立つのも」


「……おまえも?」


「うん。めちゃくちゃ面倒くさいよ」


 ひまりは自分で言って、少し笑った。


「我慢するって決めたのは自分なのに、誰かには『ありがとう』って言ってほしい。でも自分から言ったら、我慢じゃなくなる気がする。だから黙ってて、あとで勝手に機嫌悪くなる」


「それ、ただ性格悪いだけじゃない?」


「大地に言われたくない」


 二人が、ほんの少しだけ笑った。


 その瞬間、黒板の文字が薄くなった。


 宙に浮いていた鉛筆が一本、床へ落ちる。


 からん。


「効いてる」


 すずめが言った。


「何が?」


「穴が小さくなってる。話したからね」


 小鬼のふくらんでいた腹も、少しずつ元に戻っていく。


 でも、まだ苦しそうだった。


「おなかすいた」


 小鬼が言う。


「まだ?」


 ひまりが驚く。


「こいつが話しても、なくなったわけじゃない」


 すずめは小鬼の頭を軽くたたいた。


「今度は本物の腹だね」


「何か食べさせればいい?」


「プリン」


 小鬼が即答した。


「プリンはないよ」


「ある」


 小鬼が、ぼくのランドセルを指さした。


 ぼくは首をかしげた。


「入ってないよ」


「黒い本」


 七不思議クラブのノートが、ランドセルの中で震えた。


 取り出すと、勝手にページが開く。


『第二の不思議。給食のプリンを盗む小さな手』


 その下に、丸い絵が浮かび上がった。


 プリンの絵だった。


「ノートがプリンを出すの?」


 ひまりが聞く。


「そんな便利なものなら、もっと早く出してよ」


 ぼくが言うと、すずめは首を振った。


「出すんじゃない。思い出を形にするんだよ」


「何の思い出?」


「今日、あんたが食べたプリン」


「もう食べたけど」


「味は覚えてる?」


「うん」


「じゃあ、半分だけ分けてやりな」


「味を?」


「気持ちを」


 朝、すずめに言われた言葉を思い出した。


 気持ちだけ分ける。


 そのときは、すずめしか得をしないと思った。

 でも今は、少し意味が違うらしい。


 ぼくはノートのプリンの絵に触れた。


 給食のプリンの味を思い出す。


 甘かった。

 少し冷たかった。

 高坂くんが最初に食べるか最後に食べるかで、ひまりと言い合っていた。

 大地が列に並んだ。

 嫌なことを言われて、列から離れた。


 ぼくは、プリンを一人で食べた。


 おいしかった。


 でも今思うと、あのときのプリンの味には、大地が食べられなかった分も混じっていたような気がする。


「半分でいい?」


 ぼくが聞くと、小鬼はうなずいた。


「半分こ」


 ノートの上に、淡い光が集まる。


 やがて、手のひらに乗るくらい小さなプリンが現れた。


 本物よりずっと小さい。

 おもちゃみたいだった。


 小鬼は目を輝かせた。


 でも、すぐには手を伸ばさない。


「大地」


 小鬼が言った。


「一緒に食べる」


「おれはいい」


「また我慢する!」


「そうじゃなくて、これはおまえのだろ」


「半分こ!」


 小鬼が大地へ飛びついた。


 小さなプリンを抱えたまま、大地の腕にしがみつく。


「落ちるだろ!」


「持って!」


「分かったから暴れるな!」


 大地は、仕方なさそうにプリンを受け取った。


 どうやって食べるのかと思ったら、プリンには小さなスプーンが二本ついていた。


「ずいぶん用意がいいね」


 ひまりが言う。


 すずめは得意そうに胸を張った。


「七不思議クラブだからね」


「すずめが出したわけじゃないでしょ」


「細かい」


 大地は、小さなスプーンでプリンをすくった。


 その半分を小鬼へ渡す。


 小鬼は、一口で食べた。


「うまい!」


「一口じゃん」


「うまいものは一口でもうまい!」


 大地も残りを口に入れた。


 目を閉じる。


「……普通のプリンだ」


「悪かったね」


 なぜかぼくが少し傷ついた。


「でも、今日のよりうまい気がする」


「どっちなの」


「分かんねえ。変な味」


「どんな?」


 大地は考えてから、照れくさそうに言った。


「一人で食べるより、うまい味」


 小鬼が笑った。


 その笑い声と一緒に、教室中を飛び回っていた物が床へ落ち始めた。


 鉛筆。

 消しゴム。

 ノート。

 筆箱。


 最後に黒板の文字が消える。


 空き教室は、元の静かな部屋へ戻った。


「終わった?」


 ひまりが聞く。


 すずめは大地と小鬼を見て、うなずいた。


「とりあえずね」


「とりあえず?」


「人間の腹は、また空くから」


「怖い言い方しないで」


「普通のことだよ。空いたら、ちゃんと言えばいい。腹が減った。助けてほしい。今日は無理だ。そういうのをね」


 大地は、小鬼を見下ろした。


「こいつ、消えないの?」


「消す?」


 小鬼が不安そうに大地を見る。


 大地は困った顔をした。


「いや。消えなくていいけど、勝手に食うのはなし」


「余ったら?」


「聞け」


「聞いたらくれる?」


「その時による」


「けち」


「盗んだやつに言われたくねえ」


 二人が言い合う。


 すずめは小さく笑った。


「机の守り神くらいにはなるかもね」


「守るの?」


 小鬼は胸を張った。


「消しゴム、なくさない!」


「おまえが食べなければな」


 大地は、今度は少し普通に笑った。


 翌日、吉田先生は教室でプリン事件について話した。


 ぼくたちは、小鬼のことをそのまま説明するわけにはいかなかった。だから先生には、余ったプリンのカップが大地の机へ入ったのは、大地がやったことではないとだけ伝えた。


 吉田先生は、最初は困った顔をした。

 でも、ぼくたち三人が同じことを言うと、クラスのみんなに話してくれた。


「見ていないことを、雰囲気だけで決めつけるのはやめましょう」


 プリンを盗んだ本当の犯人については、先生も聞きたそうだった。


 ぼくは「小さい子が食べました」と答えた。


 嘘ではない。


 先生は、もっと聞こうとして、やめた。


 大人も、ときどき知らない方がいいと思うことがあるらしい。


 大地をからかった男子は、休み時間に謝った。


「昨日は悪かった」


 大地は、すぐには返事をしなかった。


 男子が気まずそうに帰ろうとしたところで、


「次言ったら、本気で怒るからな」


 とだけ言った。


 許したのか、まだ許していないのか、ぼくには分からなかった。


 たぶん、どっちも少しずつだった。


 放課後、大地は吉田先生に呼び止められた。


「山岸くん。家庭科クラブの先生から聞いたんだけれど、今度、簡単なおやつ作りをするそうです。参加してみませんか」


「おれ、家庭科クラブじゃないけど」


「体験参加でも大丈夫です。牛乳と卵で作れる、簡単なプリンだそうですよ」


 大地は、ぼくたちを見た。


「おまえら、先生に言った?」


 ひまりが答える。


「困ってる子がいるって言っただけ」


「余計なことすんなよ」


「嫌なら行かなきゃいいじゃん」


「行かないとは言ってない」


「じゃあ行けば」


「おまえ、言い方むかつくな」


「大地もね」


 二人は、昨日よりずっと普通に言い合っていた。


 大地は結局、体験参加の紙を受け取った。


「弟の分も作れるかな」


 小さな声だった。


 吉田先生は聞こえたらしく、笑った。


「持ち帰れる作り方を、先生に相談しておきます」


 大地は「別に、弟のためとは言ってない」と答えた。


 でも、紙は丁寧にランドセルへしまった。


 その机の下では、小鬼が得意そうに胸を張っている。


「おれも食べる」


「おまえはだめ」


「守り神だぞ!」


「昨日からだろ」


 ぼくとひまりは、そのやり取りを見て笑った。


 七不思議クラブのノートを開く。


『第二の不思議。給食のプリンを盗む小さな手』


 その文字に線が引かれ、下に『解決』と浮かんだ。


「終わったね」


 ひまりが言う。


「今度こそ、普通に帰れるかな」


 ぼくが言うと、すずめは答えなかった。


 答えない時は、だいたい嫌なことが起きる。


 ページが勝手にめくれた。


『第三の不思議』


 ぼくは、見ないように目を閉じた。


「森野、もう出てるよ」


「朝倉さん、読まないで」


「でも気になる」


「気になっても読まないで」


 ひまりは、もう読んでいた。


「音楽室で、死んだ子の名前を弾くピアノ」


 ぼくは目を開けた。


「今、死んだ子って言った?」


「書いてある」


「プリンの次に急に怖くなりすぎじゃない?」


 すずめが、にやりと笑う。


「放課後の音楽室は、怪談の花形だからね」


 その瞬間。


 誰もいないはずの音楽室から、ピアノの音が聞こえた。


 ぽーん。


 間を置いて、もう一音。


 ぽーん。


 そして三つ目の音が、長く廊下に響いた。


 大地の机の下で、小鬼が震える。


「いまの、名前だ」


「誰の?」


 ぼくが聞くと、小鬼は音楽室の方を指さした。


「知らない。でも、誰かの名前を呼んでる」


 廊下の向こうから、もう一度ピアノが鳴った。


 今度は、さっきより少し近くで。


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