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決意の揺れ

 二日後


 アリスは自室で目覚めた。見覚えのある天井を目にしてから身体を起こして朧げな記憶を過去に辿った。そしてあの時味わった恐怖と天道という文字通りの救世主に救われた事を思い出した。


 するとタイミングよくエルナが入ってきた。


「アリスさん。目覚めてよかったです」


「エルナさん……私、どうしたのですか?」


 正確な事を知るためにアリスはエルナに質問した。エルナは本当のことを言うまいか迷ったが伝えなくても、いつか知ってしまうだろう。それなら今教えても変わりないという事で口を開いた。


「天道さんが衰弱したあなたを運んで帰ってきたのです。その後天道さんはどこかに行ったかと思うと数十分で血塗れになって帰ってきました。もう、びっくりして夜中なのに目が冴えてしまいました」


 二日前の夜


 エルナは自身を呼ぶ声で目が覚めた。たまたま起きていたのですぐに声のする方に向かったところ天道がアリスを背負って帰ってきた。


「ど、どうしたのですか!?」


「説明してる暇はない。とにかくこいつを頼む」


 そう言って天道が金打をするとどこかに消えた。情報量の多さに呆然としそうだったエルナはアリスに視線を落としてまず天道に言われた事を優先した。


 数十分後


 アリスの容体が落ち着いたのでエルナは一息ついていた。何があったのかは天道が帰ってきたから聞こうと考えていたところ。


「ふう……ただいま」


「あ、天道さん。おかえりな……ひゃああ!!」


 振り返るとそこには全身と鞘が血塗れになった天道が帰ってきていた。そのおかげでエルナは事情を聞くどころの話ではなくなった。


「あ、飛んできたばっかで気づかなかった。この格好不味かったか」


 天道は今更自分に非があることに気づいた。


「天道さん!!まずはその血を落としてきてください!!」


 一周回って怒ったエルナは力づくで天道を部屋から追い出した。


 現在


 エルナから一通り聞いたアリスは記憶を思い出していった。己の不甲斐なさ故に親しい人物を二人も迷惑をかけてしまったことに申し訳なさを感じていた。自身の招いたことなので埋め合わせをしなければという気持ちもあった。


「大変ご迷惑をおかけしました……」


「迷惑だなんてそんな。それに少なからず私にも責任はあります」


 アリスには何のことかわからなかった。今回の件において蚊帳の外同然のエルナに何の責任があるのか見当もつかなかった。


「私があなた達二人にギルドに行くように言いましたので。その結果アリスさんに危険な目に遭わせてしまいました……申し訳ありません」


 アリスに申し訳なさが増大した。エルナは自分のせいだと言うが、本来必要のない謝罪をさせてしまっていることが原因だった。だが、ここは彼女の謝罪を受け入れると同時に気を回すことにした。


「頭をあげてください。別に私は気にしてはいません。それに天道さんの故郷には喧嘩両成敗という言葉があります。悪いことがあればそれは片方ではなく、互いに悪いところがあったという意味です。私とエルナさんは互いにご迷惑をかけた認識ですのでこの言葉が通ると思います。今度一緒に食べ歩きでもしませんか?それでお互いに詫びをし合うという方法でどうでしょう?」


 同時刻 ギルド


 天道はこの日もギルドに来訪していた。ミッドの街を端から端まで飛んだ結果、依頼のあった違法スキルを持つものを全員捕えることができたからだ。そして現在彼はカミゴの執務室にいた。


 しばらくしてカミゴが入ってきた。


「すまん、お待たせた」


 入ってきたカミゴは天道の対面に座り、二つのアクセサリーを机の上に置いた。


「今この場にいないアリスも含めてあなた達を正式にギルドの一員として迎え入れます。これはその証です」


 二つある証は別々の形をしていた。首にかける証の一つは花の形をしていたが、もう一つは剣の形をしていた。


「これ、何か違うのか」


「花のものはギルドの誰もが持っている普通の証としてアリスに。この剣のものはギルドナイトの証として天道に。あなたのだ」


 天道が証を見て思ったのは駅や宿泊施設の土産屋で売っているアレだった。かぐやが痛くキラキラした目で見ていたと思い出したのだが、後で小神子から聞いていた。


 前世


「なあ小神子。この前行った旅館でかぐやが偉く興奮していたんだが、何か知っているか」


 天道の起こした会社「シーク」の二階のオフィスで雑務をしていた天道は手を動かしながら小神子に聞いた。


「あの子、お土産屋で剣付きキーホルダーを見つけたのよ。大した意味はないわ」


 天道もお土産屋を回っていた時目に入った。彼の場合実際に刀や銃を手にしていたので特段興味を示さなかったのを覚えている。


「普通ああいうのは男の子が興奮して買うものなのに、あの子たまにああいうところがあるから」


 天道は「ふーん」と言って流した。日本は剣や銃が特定の限られた場所でしか触れる機会がない特性上、偽物とはいえ似た形状のものを見かけると燻られる何かがあるのだろうかと天道は勝手に思っていた。


 現在


 そんな感じのことを思い出していた天道だったが、よくよく考えるとついついそれを口に出してしまった。


「ダサくね?」


「なっ!?」


 カミゴに衝撃が走った。


「ダ、ダサい……?いや、よく見てくれ……この剣のフォルムを考えるのに私がどれだけの月日を費やしたと思っているんだ。特別感を出すために使っている素材も厳選して、ギリギリの予算で抑えたというのに……私のセンスがわからないのか……!?」


 天道はカミゴという人物の節々にかぐやの面影を感じた。口調もそうであるが、何よりどこか他人より抜けているところを持っているのを見てそう思っていた。


「せめて普通のものと色を変えるとかそれだけでいいのに」


 天道は呆れながら言うとカミゴは目を剥いた。


「何を言うんだ!ギルドナイトという特別な役職こそそれに相応しい称号の形がいるのに、それを色だけ変えるなんて逆にギルドナイトに失礼だろ!」


 誰も止める人間がいなかったのだろうかと天道は思った。


「いや、色だけで充分だろ。というかギルドナイトって何だよ?」


 軌道修正も兼ねて天道は質問した。


「ギルドナイトはギルドに加盟している街や国において普通の会員では見ることのできない情報を無制限に利用できる閲覧権、緊急時においてはそのギルドのリーダー果ては統括管理者になることが許可される等等。とにかくすごい役職だ」


 ギルド長がそんな紹介の仕方で良いのだろうかと内心不安になった天道だったが、他の人より自由にできる点では魅力的に感じていた。


「まあ、そんなものに任命してくれるなら遠慮なくもらっておこう」


「ところで天道。これからどこに行くんだ?」


 冷静になって天道はどうしたものかとなった。魔王を倒すというついでにを除けば、元々気ままに旅をする予定だったので何も決めていなかったのだ。


「いや、決めてない」


「なら一つ提案がある」


 数十分後 エルゼル邸


 天道が自室に入って息をついたところでまるで狙っていたかのようにアリスとエルナが入ってきた。押しかけるように入ってくるのを見て天道は大きく息を吐いた。


「「天道さん!今から買い物に付き合ってください」」


 元気よく入ってきて早々大きな声を出していた二人を前に天道は一気に倦怠感が出てきた。


「すまん二人とも……後にしてくれないか?」


「いいえ、今すぐ行きましょう。思い立ったが吉日と言うじゃないですか」


 天道は初めて見るノリノリなアリスに珍しいと感心する暇が無いほどだった。


「ほら、行きますよ!」


 エルナはわざわざ変身してまで、天道を引き摺り出そうとした。


「待て待て待て!せめて十分だけ寝かせてくれ!」


「「待てません」」


 残酷にも天道の願いは聞き入れられず、無理矢理外に引き摺り出されたのだった。


 ミッド 市場


「ったく。人をこき使いやがって」


 天道は買い物袋を身体いっぱいに持ったまま悪態をついていた。前世の日本とは違いビニール袋でもなければ取手もついていない、天道から見れば外国によくあるタイプの袋だった。そのため持つ手段といえば身体に抱えるだけなので持ちづらい上に動きづらかったので天道の不満はますます増していった。


「それに天道さんは異性とショッピングに出かけるのは慣れてらっしゃるのでは?」


「あ、それ気になります。天道さんのお話」


 天道の不満そっちのけでガールズトークが進行していった。実際天道は前世で瀬奈や小神子とよく買い物をしていた方だ。なので荷物持ちという役割はすでに慣れっ子であるが、それは本人が進んでやっていることであって、今のように二人に押し付けられたりする荷物持ちには億劫であった。


「話すようなことは何もない」


 エルナはますます好奇心がかられた。一方アリスはというとすでに天道の人生は上辺だけであるがすでに周知していたので特段興味は無かったが、彼のその時の心情までは把握していないのでそれは知りたいような気もしていた。


 道中天道のことを聞きながら二人は買い物をした。天道は荷物を持っているに加えて質問されるということに一種の拷問のようなものを感じていた。しかし、二人の楽しそうな顔を見て前世のようにはいかないが懐かしい日常を思い出していた。


「じゃあそろそろ行きましょうか」


「ええ、そうですね」


 二人が示し合わせたように言っているのを見て、天道はまたどこかに行かされるのかと内心辟易していた。


「じゃあ天道さん。先に行ってて下さい」


「あ?何のこと……わっ!」


 するとアリスは有無を言わせず、質問する暇を与えずに手を操作すると天道の足元に丸い穴のようなものが出てくると真っ直ぐに落ちて行った。


 急に現れた穴によって真っ直ぐに落ちた天道だが、三分ほど落ち続けていたところで地面に着いた。荷物は何とか無事である。顔を上げて周りを見回すと天道は圧巻した。


「これは……」


 どこかの山の頂上。そこから見下ろすミッドの街と周りの平原。人工物のようなものは少なく、限りなく無限のように広がる景色に天道は言葉を失っていた。


「どうですか?この景色」


 後ろからエルナの声が聞こえてきた。天道と違って空からではなく、何もないところから同じような穴が現れ、トンネルのようにアリスとエルナがやってきたのだ。


「美しいな」


「アリスさんから提案がありました。天道さんに助けていただいたお礼をしたいので綺麗な景色の場所を教えてほしいって。買い物は天道さんを外に連れ出すための口実。正直ついでみたいなものです。それにしても天道さん、結構ロマンチストですね」


 二人が天道と違って落ちずに来たこと、自身がロマンチストという自覚が無いのに揶揄われているような言い方、荷物持ちもついでというのも気にせず天道は目の前の景色に気を取られていた。


「この世界にもこんな場所があるんだな。ありがとうエルナ」


「お礼を言うのは私達の方です。特にアリスさんはずっと言いたくても言えなかったですし。ちょうど良いかなあと」


 天道がアリスの方を向くと、彼女はどこかモジモジしていて落ち着かない様子だった。


「その……言うことはわかっているのに……中々口に出せないですね……」


 天道は鼻で笑った。笑われたアリスは頬を膨らませて天道を見た。


「笑うことないじゃないですか……そういう天道さんはプロポーズをした時、こんな感じにならなかったのですか?」


「あの時の俺は言うべきことを言っただけだからな。特別緊張はしなかった」


 初めて聞いた事実にエルナは目を見開いた。


「プロポーズ……?え、天道さんってご結婚されてたのですか……?」


「そうだが。言ってなかったか?」


 エルナは天道の顔をまじまじと見た。天道の実年齢はすでに二十歳を超えているが本人の威厳のない雰囲気や飄々とした立ち振る舞いから実年齢より若く見られることが度々ある。エルナもそう見ていた一人であり、まだ十七歳の彼女にとってせいぜい二、三歳上のお兄さんくらいに見ていたのが覆りそうになった。


「天道さんは自身のことを話しませんから。エルナさん、この人にはまだまだ色々な面白い話がありますから」


「それは楽しみです」


 そこで天道はあることを思い出した。目の前の景色に気を取られてすっかり忘れていたが、内容は今のムードと比べて非常に間が悪かった。


「そうだアリス。お前の代わりにこれを貰ってきた。ギルドの認定証。これがあれば旅ができるぞ?」


 アリスは自身の矛盾した感情に襲われた。魔王を倒すために旅を出るつもりだったが、つい最近になってミッドに愛着が湧いてきた。すぐにでも旅に出るつもりだったのにとアリスは困惑した。


「どうしたのですか?」


 エルナがアリスの様子の異変に気づいて声をかけた。


「いえ、嬉しい筈なのに、なんだか街とお別れになってしまうと思うと複雑な気持ちになってしまって……」


 アリスの心中を聞いた天道はいつものように大きく笑った。


「なんだそんなことか。別に今生の別れになるわけでもないし。全部終わればまた帰って来ればいいだけの話だ」


「そうです。お二人の部屋はいつでも帰ってきて良いようにちゃんと空けておくようにしておきます。なので安心してください」


 二人の言葉を聞いて自身の悩みがいかに小さかったかと痛感した。特に天道はそういった事柄を笑って済ませるのだからその度合いが彼の態度からしてよくわかった。


「出会いと別れが旅の醍醐味だ。今はわからなくても、いずれわかるさ。じゃ、早速準備にかかるとするか。アリス、ここに来た時のあのトンネルって出せるか?お前らに無理矢理連れ出されたせいで刀置いてきたんだが」


 するとアリスは虚を突かれたのか一瞬身体がビクッと跳ねた。


「じ、実は……あのトンネルを出せるのは一日に五個までと制限がありまして、おまけに一つにつき一人しか通れないので……」


 天道は嫌な予感がした。


「あ、これは貰いますね」


 これから天道の辿る運命を考えて流石に可哀想と思ったのか、はたまたそのまま天道が持ちっぱなしになると不都合と思ったのか、アリスは天道の持っていた買い物袋を回収した。


「それじゃあ」


 そういって二人はトンネルを落ちて行った。天道が来る時に一つ。二人の行き帰りに合計四つ。すでに一日の制限数である五つを迎えていた。天道は一人呟いた。


「迷子になったら置いていこう」

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