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ヒロインらしきものは去ったけどもうちょっとだけ続きます!  作者: 馬面
第3ゲーム:ブレイク

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第48話 隣の青春は何色に見える?

 いや……えっと……全然頭が回らないんだけど。


 この二人が俺と先輩の会話を盗み聞きしてたってこと……?


「なんか会議の録音に使う……集音機能が付いたICレコーダー? っていうやつ借りてて。それで録音して……」

「そのレコーダーを中垣内に渡してたんだよね。パソコンで解析するとか何とか言ってたかな。ホントごめん! 今日のはもう消すから!」


 いやいや。消せば無罪放免って訳にはいかないんだけど。マジかこいつら。


 正直今すぐにでもブチ切れたい。フザけんなって怒鳴りたい。


 でも先輩の前でそんな姿を晒したくないし、何より問題は――――


「……中垣内先生の指示でそんなことを?」


 黒幕の存在。この話を詳しく聞く為にも、ここは我慢だ我慢。


「そうそう。私たちもさ、中垣内に逆らったら試合とか出られなくなりそうだし……」

「悪いことしたと思ってるけど、こっちの立場もわかってよ。ね?」


 言いたいことはわかる。あの顧問は色んな所に顔が利くらしいし、最悪内申にまで影響が出るかもって懸念は否定できない。


 でも、ここまで無責任な言動されると『仕方ないよね』とは思えないだろ? こっちがどれだけ迷惑したと思ってんだ? 俺の心が狭いのか?


 ……落ち着け。ここで怒り狂っても何も得られるものはない。さっきから噛んでる下唇から血が出そうだけど、まだギリ耐えられる。


「理由は……」


「聞いてない聞いてない。録音でも直接聞いても人伝でも何でもいいから、二人が普段どんな話してるのか情報提供しろってだけ」

「四六時中張り付いてた訳じゃないからね? あの新聞部にリークした時のも、中垣内が『二人とも学校にいない時はここのコートで練習してる』って言ってたからだし」


 ああ、そういうことか。


 ここにテニスコートがあるって俺が知ったのは、中垣内先生から受け取った資料を見たからだ。学校以外で練習するなら、蒼月高校から一番近い所にあるこの彩彩が本命。簡単な推理だ。


「それじゃ、尾行は全然してないんだな?」


「……」

「……ちょっとだけ」


 してたのかよ!


 ってことは、月坂先輩が感じていた視線はストーカーじゃなくてこいつら……?


「ホントにごめんなさい! もうしませんから!」

「反省してます!」


 反省なんかしてる訳がない。そもそも罪悪感もないだろ。中垣内先生から言われてやっていただけなんだから。寧ろ自分たちは被害者だって思ってそうだ。


 こういう時、どうするのが正解なんだ? 笑って許せばいいのか? それとも『俺はいいけど先輩に迷惑かけたのは許せない!』って義憤に駆られればいいのか?


 綺麗事だろそんなの。実際ムカついてるんだし。


 先輩は……


「……聞いていい?」


 思わずゾッとするくらい、静かなトーンでそう問い掛けた。


「どうしてバラしたの? 黙ってればわからなかったのに」


「あー……」


 月坂先輩に問われた瞬間から、二人の顔色が明らかに変わった。


 裏庭でも感じた気まずそうな雰囲気。でも今ならわかる。これは単に実力が下の先輩が鬱陶しいっていう理由だけじゃない。


 ただ、後ろめたいって感じでもないんだよな。


 だったら一体、なんで――――


「なんか、青春だなーって思ったんで」


 ……は?


「邪魔しちゃ悪いっていうか、これ以上聞いてらんねーっていうか、お幸せにー、みたいな?」


「なんかウチらとそんな変わんないんだなって思ったんで」


 え、どういうこと? 全然意味わからん。親近感が湧いて罪悪感も湧いたとか、そういう話?


「……」


 先輩も困惑気味だ。露骨に顔を背けている。


「とにかく、そういうことなんで。理由とか知りたいなら中垣内に聞いて」


「ウチらもう関わるのやめるんで」


 一方的に『見逃してやっから感謝しろよ?』みたいな空気を出して、女子部員の二人は俺たちから離れていった。


 ああもう! なんで今なんだよ! 試合前にこんな心をかき乱すような暴露すんなよな!


 ……まあでも、朗報が一つだけある。


「良かった。ストーカーじゃなったんですね」


 俺的には全然納得はできないけど、先輩に危険が迫ってる訳じゃなかったと判明しただけでも安心した。


『本人が視線を感じた程度』だと警察は当然動かないし、俺が出しゃばることもできない。何気に厄介な状況だったからな。


「……こういう時、怒った方がいいのかな」


 でも先輩は自分の安全よりも、あえて俺たちに全部話した二人に想いを馳せているらしい。


「でも私がテニス部にいなかったら、あの子たちだってこんな面倒なことに巻き込まれないで済んだんだよね。やっぱり怒れないよね」


「……俺でも多分、同じように考えると思います」


 本当は違う。でもここで自分の意見を先輩にぶつける意味はない。


「篠原君もごめんね? 嫌だったよね。あんなふうに学校中に広まって……」


 あれから結構な時間が経ってるけど、今日初めて先輩はこの件に触れた。


 ずっと俺に対して罪悪感を抱いていたのは、先輩の性格を考えたらなんとなく想像がついた。でも変な空気にするのが嫌で、蓋をしていたんだろう。


 俺の考えは、当時も今も変わってない。


「周りには大分イジられましたけど、嫌じゃなかったですよ」


「どうして?」


光栄(こうえい)ですから」


 それがどっちのコウエイと先輩が捉えたのかは、俺には知りようがないし確認もできない。『後衛(が前衛のフォローをするのは当然)ですから』と受け取ったかもしれない。   


 いちいち説明するつもりもない。恥ずかしいから。


 先輩の解釈に全てを委ねるだけだ。


「……ありがとう」


 若干の間を置いて、先輩はそれだけを呟いた。


 何に対しての御礼なのかは説明されないし、俺もいちいち問わない。理由は同じ。


 いつか。


 今後もダブルスを続けていけば、いつかお互いの真意を理解し合える日がくる。そんな気がする。


「混合ダブルスの話を最初にされた時、ね」


 気づけばドッグラン内の犬たちは一箇所に集まり、飼い主に抱かれて大人しくしている。遊びの時間は終わったらしい。


「ホントは嫌だったんだ。戦力外通告出されたみたいで」


「俺も一緒です」


「それに、男子と組むなんて考えられなかったし。断りたかったけど、訳もなく断ったら私がソフトテニスをやれる場所、なくなるんだろうなって思って……できれば正当な理由で断れるような人が良かったんだよね。嫌なこと言ってくるとか、女子のテニスを見下してるとか」


 俺はそこまでは考えてなかった。混合ダブルスへの抵抗感は先輩の方が強かったんだろうな。


 でも――――


「でも、篠原君はそんな人じゃなかったね」


 先輩は俺を受け入れてくれた。


 そのことがたまらなく嬉しくて、俺はソフトテニスを続けることができている。


「男子のキャプテンと組んで試合してる篠原君がとっても生き生きして見えたから、私となんて組まない方が良いって思ったりもしたんだけど……」


 先輩には感謝しかない。


 だから今は、俺の気持ちはまだ心の中に留めておきたい。


 先輩がソフトテニスを心から好きだと思える日まで。



「やっぱり私、篠原君と組めて良かった」



 ……でもそれは全国大会に出場するより難題かもしれない。


 月坂先輩の穏やかな微笑みを見ながら、俺はそんなことを考えていた。







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