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ヒロインらしきものは去ったけどもうちょっとだけ続きます!  作者: 馬面
第3ゲーム:ブレイク

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第46話 ターニングモーニング

 ゴールデンウィーク二日目――――浦和南陽との練習試合当日。


「え、ここで試合しないんですか?」


 その早朝から、試合場を変更するとの通達が斎藤先輩からあった。


「そ。彩彩アスレティックパークって知ってる? あそこでやるんだって」


 知ってるどころか、今やこの蒼月学校よりホーム感あるけど……練習試合をわざわざ有料の公園のコートでやるのか? コートの数も同じなのに?


「それって相手側の都合なんですかね?」


「さあ? 私も中垣内からそれだけ伝えるよう言われただけで理由は聞いてないから。現地集合ね」


「はあ……」


 露骨に不機嫌な顔で斎藤先輩が離れていく。そりゃそうだ。相手を迎え入れる為に会場設営とか部室の掃除とか普段より入念にやったのに、特に理由も報されずに急遽変更だもんな。


 彩彩はここから西、浦和南陽は北東の位置にあるから距離的にも遠くなるだけ。少なくとも移動面での調整って訳じゃない。


 ないんだけど……なんだろうな。ちょっと不穏というか嫌な感じだ。


 本来、引率の筈の中垣内先生がここにいないのも気になる。


 何事もなけりゃいいけど……


「あれ? 試合中止ですか? せっかくおばあちゃんとはちみつレモン作ってきたのに」


 応援に駆けつけてきてくれた天和もこれから移動しなきゃいけないのか。なんだかなあ……


「なんか試合場が変わって彩彩でやることになったって」


「あ、篠原先輩が結衣菜ちゃんと毎日イチャイチャしてるトコですか」


「おい人聞きの悪いこと言うな! また誤解されるだろ!」


 天和には月坂先輩経由で俺たちのことは筒抜けなんだよな……


 昨日昼飯食べながら聞いた話じゃ、練習メニューから移動中の会話までかなり細かいことまで話してるらしい。女子の共有欲求を侮ってた。


 ま、俺としちゃ先輩が俺のいない所で俺の話してるってだけで爆アゲなんだけど。


「そういえば、そこって篠原先輩と結衣菜ちゃんの会話が漏れた場所なんですよね」


「そうそう。先輩も気にして新聞部の部長を問い詰めたんだけど、結局匿名のリークって言われて話終わったんだよな」


「……結衣菜ちゃんのストーカーの仕業じゃないですよね?」


 それは先輩も疑っていたし、俺も考えた。もっと言えば新聞部がネタ欲しさに先輩をつけ回してるんじゃないかとも怪しんだ。


 でも連中は尾行で一度廃部寸前まで追い込まれた歴史がある。もし同じことをして問題になったら今度は確実に廃部だろう。金も絡まないのにそんなリスク背負うとは思えない。


 となると、新聞部とは無関係で先輩をつけ回してる奴の仕業ってことになるけど、そんな奴が新聞部に情報提供するとは考え難い。仮に俺を貶める為だとしても、新聞部に取り上げられたら熱愛報道みたいになるのは明らかだしな。それは一番嫌だろう。


 あのリークで得られるメリットって何だ?


 匿名だから御礼は当然ないし、自己顕示欲も満たせない。どうせ手に入らないのなら傷付けて自分を認識して貰おうっていう危険思想にも当てはまらない。


『自分の行為で校内をザワつかせる』っていう自己満足? でもそんな動機で先輩をずっとつけ回すとも思えないよな……


「もしかしたら今日もいるかもしれませんよ。盗聴犯」


「今日は無理だろ。人多いし隠れようがない」


「その分、紛れやすいじゃないですか。男子は無理ですけど女子なら先輩の学校のジャージでも着とけば見学の人と区別つかないですし」


 ……まあ、新聞部にリークしてる時点で犯人はウチの学校の生徒だとは思うけど。


「また篠原先輩と結衣菜ちゃんのエモい会話が盗聴されて新聞部にリークされたら、ますます有名になっちゃいますね」


「いや、先輩は元々有名……」


「何言ってんですか。篠原先輩がですよ」


 ……俺?


「結衣菜ちゃんは入学直後から有名に決まってるじゃないですか。私と同じでちょー美人なんですから。でも篠原先輩ってテニスやってる時以外はちょー凡人ですからねー」


 超凡人って何だよ。概念わかんねーよ。


 でもまあ、確かに前の騒動で俺は無駄に名前が知れ渡ってしまった。それは事実だ。


 まさか、犯人の狙いはそれ?


 ……ンな訳ねーだろ。俺が有名になったから何だってんだ。そこに誰が何のメリットを見出すんだ。


「おはよ」


 あ、月坂先輩だ。汗で流れるからメイクとか殆どしてないと思うんだけど、今日も綺麗だ。


「おはようございます」


 未だにその日初めて会った時は少し緊張してしまう。正直ここまで綺麗だと、隣に立つだけで謎の罪悪感と劣等感が生まれちゃうんだよな。本当にこの人の傍にいて良い人間なのか俺、みたいな。


 もっと同じ時間を過ごしていけたら、そういうのも気にならなくなるんだろうか。


「結衣菜ちゃーん! これから彩彩まで歩くんだってー。おぶっておぶってー」


「もう……」


 昨日判明したことなんだけど天和、月坂先輩の前では甘えん坊キャラなんだよな。幼なじみで年下だしその頃の名残なんだろうけど、こいつがやるとあざとく感じる。男にも女にもあざといジェンダーレス小悪魔め……


「会場変更でここじゃなくて彩彩で試合することになったそうです。ウォームアップがてら走って行きましょう」


「うん」


「えー……ちんたら歩いて行きましょうよ。昨日だけじゃまだ話し足りないこと一杯あるのにー」


 その話はあとでゆっくり聞かせて貰うとして。


「昨日は寝られました? 体調はどうですか?」


「大丈夫。八時間は寝た……と思う」


 本当に八時間も寝られたのなら、十分過ぎる睡眠時間だ。


 寝不足はモロにプレーに影響出る。ちょっとしたことで集中切れやすくなるし。


「おー、いたいた」


「ん……?」


 あれ? 姫廻?


 それに理久とリオ、あと新聞部の部長と倉知さんも。まあ新聞部は普通に取材なんだろうけど……それ以外のメンツはまさか俺の応援に来てくれたのか?


「よー匠。無料でスポーツ観戦できる会場があるっつーから来てやったぞ」

「やー。こはるんがどーしてもタクちゃん応援したいって言うからさー。でもなんか人いなくない?」


 双子勢は中身同様、私服も全然系統が違う。理久はまあ柔道部の休日って感じだけど、リオは意外とギャルっぽくない。普通の薄手アウターと長ズボンだ。何故か制服の時より男子っぽく見える。


「わざわざ来てくれたところ申し訳ないけど、試合するのここから一キロくらい歩いた所に変更になった」


「え、マジ……? バス出てる?」


「多分。バス停の時刻表に書いてんじゃねーの?」


「うぇーっ。乗り継ぎだったらメンドーっ」


 姫廻が慌てて確認しに校門の方へ走っていく。


 ……ん? 途中で引き返してきた。


「さっきのリオの言ったこと、嘘だから!」


 それだけ言ってまた離れていった。


 ……照れてる?


「せんぱーい。今のって姫廻先輩ですよね? まだ付き合いあったんですか」


 う……一番見られると面倒な奴に見られてたか。


「そりゃ同じ学校だから縁切れる訳ないだろ」


「へー。じゃあ同じ学校どころか同じ本州ですらない私はもう縁切れちゃってるって言いたいんですか? 私にはもう興味ないってことですか? 中学の最後の試合で泣きながら応援してた私をボロ雑巾みたいに捨てるんですか?」


「だーっ! 試合前にダル絡みすんな!」


 周りをウロチョロしてくる天和を手で追い払う最中、月坂先輩の顔が目に入った。


「……」


 え、今の顔何……?


 もしかして俺に呆れてる? 試合前に浮かれてるように思われた?


 それは良くない。弁明。弁明……ダメだ咄嗟に言葉が出て来ない!


「せんぱ――――」


 あ、行っちゃった……


 

 俺と先輩のターニングポイントになる筈の一日は、そんな不穏な空気に包まれる中で始まった。








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