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ヒロインらしきものは去ったけどもうちょっとだけ続きます!  作者: 馬面
第3ゲーム:ブレイク

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第42話 真相はシューティングスター

 姫廻に背中を押されたことで気持ちの整理ができた。


 月坂先輩の真意を問う為には、やっぱり本人に直接聞くしかない。


 問題はその方法だ。LINEで不躾に聞いて既読無視やブロックされたら目も当てられない。先輩に限ってそんなことはしないと思うけど……


 ここは思いきって直接会って話をした方が良いんじゃないだろうか。


 もし先輩の意思が固く、俺とはもうやりたくないと言うんだったら……それでも最後は顔を見てお別れする方がいい。LINEでサヨナラは余りにも虚し過ぎる。


 祝日を挟んで週末からはゴールデンウィークに突入する。その貴重な休みを中途半端な形で迎えたくない。


 まずLINEで明日どうするかを聞いて、その時に話があるってことを伝えて――――


 ……なんてこと考えてる内に、もう家に着いちゃったか。


 今日はちょっと疲れたし、一旦部屋で休みたい。続きはそれから考えよう。


「おかえり」


「ただいま」


 ……つい反射で応えちゃったけど、この家に『おかえり』なんて言う奴はいない。


 でも今の声は何処までも耳に馴染む。懐かしさすら覚える。


 そういえば、子供の頃にこいつから何度も聞いた言葉だ。


「明莉……」


「こんなふうに玄関でたっくんのこと待つの、久し振りだね」


 小学生の頃は、お互いに友達も少なかったこともあって学校が終わると家に集合して遊ぶことが多かった。


 明莉は徹底してインドア派で、小説を読むのが好きだったし一時期マインクラフトにハマっていたこともあった。俺はスマホで動画を見て、明莉は読書……みたいに別々のことをやることも多かったっけ。


 それでも、二人で同じ空間にいることに安らぎを感じていたんだと思う。

 

 でもその習慣もいつの間にか自然消滅して、中学への進学を契機に接点は激減した。


「まだ何か話し足りないことがあった?」 


「うん。たっくんには全部話しておこうと思って」


 ……それってつまり、新聞部で話した内容に続きがあるってことか? 俺はてっきり桐ヶ谷波紋の新作について語りたいとばかり……


「部屋でいいか?」


「うん」


 不思議なもので、明莉が家に来なくなって何年も経つのに部屋に入れることには何の抵抗もない。子供の頃の習慣って途切れても根付いているものなんだな。


「あんまり昔と変わってないね」


「成長してないって言いたいのか?」


「変わらないって良いことだと思うよ。私はね」


 はいはい。高校入学直後に彼氏ができた女は余裕だな畜生。


 ……あ。しまった忘れてた。


「いや部屋はマズいだろ! やっぱ居間で話そう居間で!」


「別にいいよ。夢芽ちゃん、いるんでしょ?」


 ……その発想はなかった。


 夢芽――――俺が生み出したイマジナリーコンパニオンのことは親と明莉には話してある。明莉経由で明莉の両親も知ってる筈だ。


『想像上の友人』とも訳されるこの現象は通常、小学生に上がる頃に出現するらしい。世間一般では『妖精』がイメージに近いらしいけど、俺はそういう印象を夢芽に抱いたことはなかった。


 まだあらゆることに対して無知だった当時の俺は、人が産まれるプロセスなんて当然知らない。突然妹を名乗る子が病床に現れても、それを自然に受け入れていた。だから明莉や親も、幽霊を見たような話じゃなくごく普通の出会いとして話したんだと思う。


 親は大分焦ったらしい。でも明莉は特に否定するでもなく、俺の話を普通の顔で聞いていた記憶がある。数年後、それについてイマジナリーコンパニオンだと自覚して話した時の反応も全く同じだった。


 イマジナリーコンパニオンは一般的に、児童期の間に消失するとされる。それが本物の人間じゃないと自覚した瞬間に心の中からいなくなるってメカニズムなんだろう。でも夢芽は俺が自覚した後も心の中に残り続けた。


 それは別れを惜しんだ俺が無理やり生み出した、イマジナリーコンパニオンと似て非なる意図的な想像上の妹だったのかもしれない。でも俺の中には確かについ最近まであの子はいた。明莉に最後に話したのは小学生の頃だったから……もう五年くらい前になる。


「いや。あいつはここから出て行ったよ」


「そう」


 明莉はやっぱり表情を変えずにそう答えた。


「だから、部屋で二人ってのは……」


「心配ないよ」


 どういう意味だ? このシチュエーション、名前呼びより遥かに彼氏への裏切りになる気がするんだけど……


「ま、よくわからないけど一旦座るか。どっちがいい?」


「椅子」


 ってことは俺がベッドか。まあ妥当だな。昔からこのポジション取りが一番多かった。


「それで、全部話すってどういうこと?」


「私の彼氏ね、女の子にモテるの」


 ……はあ?


「あ、でも沢山の人にモテる訳じゃなくて、一人の子に深く愛されるタイプって言ってた」


 え? それ本人が言ったの? 大丈夫か明莉の彼氏……


「愛が深すぎて、事件化したことが今まで二度あって」


「事件……?」


「一回目の子は普通に付きまとい。家を特定されて一晩中家の前にいたとかそんな話。二回目の子はちょっと悪質で、別の女の子と話をしただけで理性を失って傷害事件になったんだって」


 それはちょっとヤバいな……事件ってことはどっちも警察が介入するレベルなんだよな? ウインクしたり同じ方向歩いたりしてるだけで注意喚起される事案とは訳が違う。


「今までは奇跡的に命に別状はなかったけど、次はその保証がないって凄い剣幕で言ってきて怖かった」


「それはどっちが怖かったんだ……?」


 よくわからないけど、明莉の彼氏は女運が悪いらしい。これはあれか? 遠回しにのろけられてんのかな? 今までヤバい女子にばっかり好かれて女性不信になってた文芸部部長が明莉と出会ってようやく平穏な青春を送れるようになったって話?


「……やっぱりたっくん、読んでないんだね」


「ん? 何を?」


「桐ヶ谷波紋の『君の隣に居られたら』。私にプレゼントしてくれた小説」


 ああ……確かそんなタイトルだった記憶が微かにある。作者名はギリ覚えてたけど読んでないから中身は知らない。明莉が感想を話してた気はするけど、それも全然覚えちゃいない。全然興味ないことって頭に残らないんだよな。


 でも、それと今の話と何の関係があるんだ?


「あの小説はね、付き合った女の子がみんな病んでしまう男の子と、同じ部活の後輩女子の恋のお話なんだよ」


「……それって今の文芸部部長と明莉そのまんまじゃん」


「うん。奇跡だよね」


 確かに、奇跡って言っても過言じゃない。


 まさか明莉、お前――――


「そのシチュエーションに運命とか感じて付き合ったんじゃないだろな……?」


「違う違う。そこまで子供じゃないよ」

 

 確かに、そんな理由で付き合う相手を決める奴はいないか。


「だったら、実は部長もその恋愛小説を読んでいて話が弾んで……みたいなこと?」


「それも違うかな」


 ……なんかなし崩しのうちに明莉が文芸部部長と付き合ったきっかけを当てるゲームが始まってるんだけど。俺は一体何してんだ?


 でも、気にならないと言えば嘘になる。自分から聞くつもりは一切なかったけど、この流れなら別にいいか。


「だったら、どんな経緯で付き合うことになったんだよ」


「……」


 明莉の視線が一瞬、俺から離れる。


 それは、滅多にないことだった。


「えっと、『君とな』の話だけど」


『君とな』……ああ、略称か。映画化とかされたらそんな呼ばれ方するよな。あの小説も確か映画化されてたし、公式の略称なんだろな。


「ヒロインの女の子はね、部長に特別な感情を抱いてた訳じゃなくて、元恋人がストーカーになって困ってる部長を助ける為に恋人のフリをする、ってことになったの」


「……え?」


「もう別の恋人がいるってわかったら、ストーカーになっちゃった女の子も気持ちが冷めるんじゃないかなって」


 ま、まあ如何にも小説の中の話って感じだ。漫画でも似たシチュエーションは結構見るし。


 けど、この場合は創作の中だけの話じゃない。


 まさか、明莉……


「部長の風よけの為に、彼女のフリをしてやってる……とか言わないよな?」


「当たり」


 ……。


「はああああああああああああああああああ!?」


「わっ、ビックリした」


「ビックリしたのはこっちだ! フリぃ!? じゃあ本当は恋人でも何でもないのかよ!」


「うん」


 ……うんってお前。そんなしれっとした顔で……いつものことだけど。


「ってことは、今もその部長は誰かに執着されてんの?」


「去年図書館で知り合って親しくなった女子大生に、家の中でハサミ振り回されたって」


 何それ怖……既に事件じゃん。もうスマホで撮影して警察駆け込めよ。


 ってか文芸部部長、マジでモテるんだな。まさか相手が大学生とは……年齢的にはそれほど離れてないけど、大学生が高校生に恋愛ってなるとかなりハードル高く感じる。


「でもいいのか? こんなこと俺に話して」


「彼女がいること匂わせて続けてたら、先週やっとその女子大生からブロックされたんだって。だからこの件は一区切りかなって」


「じゃあ恋人のフリも終わり?」


「一応、もう暫く続けるつもりだけど」


 まあ、そのヤバい女子大生もまだ疑ってる可能性あるしな。それが妥当かもしれない。


「はぁ……マジか」


「嘘ついてゴメンね」


「別にいいけどさ。あんま危ないことに首突っ込むなよ? 心配するだろ」


「たっくんも」


 いや俺は関係ないだろ。相変わらずマイペースな奴だな。


「それじゃ話したいこと話したし、もう帰るね」


「ああ。それじゃ呼び方は正式に戻して良いんだな?」


「もう戻っちゃってるよ?」


 その言葉を残し、明莉は部屋から出て行った。


 お互いバイバイの一言もなし。昔から一緒にいるのが当たり前の間柄だから、別れの言葉は必要ない。


 この件、姫廻に話した方が良いのかな。結局あいつの疑念が正しかった訳だし。


 ……やめとくか。余計面倒なことになりそうだ。


 にしても明莉の奴、随分思い切ったことをやったな。部長の身の安全の為とはいえ、彼女のフリして嘘つくのは結構勇気要るだろうに。


 本人は否定してたけど、やっぱり『君とな』の影響はあったような気がする。あいつが恋愛小説読むようになったきっかけの本だからな。


 ……ちょっと興味湧いてきたな。読んでみようか。


 恋愛小説なんて全然読んだことなかったけど、もしかしたら月坂先輩との関係修復のヒントになることが書いてあるかもしれない。


 確か電子書籍で……あったあった。


 お、意外と安い。一〇〇〇円超えるかと思った。これなら買ってもいいな。


 二時間くらいあれば最後まで読めるだろうし、先輩に送るLINEの内容を考えるのはそれからにしよう。 







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