第37話 実質、失恋
……。
……。
……ぁ……ぁ。
ぅぇぁーーーーーーーーーーーーーーーー。
………………ぁーーーぉ。
「え、どしたの篠原。死んでんの?」
「なんか朝からずーっとこんな感じ。昨日試合で負けたらしいからショック引き摺ってるんじゃね? 知らねーけど」
遠くで姫廻とリオの声が聞こえる。でもそれが何を意味した言葉なのかは全然頭に入ってこない。
『篠原君はやっぱり男子同士でやった方がいいと思う』
昨日のあれは、拒絶だったんだろうか。
もう私には貴方と組む意思はありません、ってことか?
そんなに昨日の俺のプレーはダメだったんだろうか。
思い当たることは幾つもある。序盤は試合感が鈍っててミス連発したし、中盤はツイスト連発で斎藤先輩たちを怒らせたし、終盤は粘ったけど結局負けたし。
見限られても仕方ない。
……嘘です。そこまでは思ってません。
だって仕方ないだろ!? 久々の試合なのは本当なんだから! それに終盤はほぼノーミスだったし悪くなかったと思うんだけどなあ!
「ぐぅぅ……」
「え、今度は急に唇噛んで唸りだしたんだけど。怖っ……」
「あははははははは! タクちゃん急に壊れちゃった!」
はぁ……ダメだ。何もやる気起きねぇ。
新しい生き甲斐を見つけたと思ったらこれだもんな。かといって先輩に『どうしてですか? 理由を教えて下さい! 俺じゃダメなんですか!?』なんて縋り付くこともできない。
そんなのは先輩を困らせるだけだ。余計ウザがられる。
「はぁ……」
ん? なんか俺と同じ負のオーラを感じる。後ろの席か?
「で、こっちは何なの?」
「女子が『柔道部ってダセーよな』って話してたのが聞こえたんだってさー。汗だくで大声出してマジになってるのがキツいんだって。あと筋肉もキモいらしーね」
「それは可哀想……」
あー、結構多いよな。そういうのをウザがる女子。
……もしかしたら月坂先輩も熱血が苦手とか? だから昨日の試合でマジになってた俺を見て嫌になったんじゃ……
いやいや、それはない。先輩、真面目に練習するタイプだし。
でも自分はいいけど男子のそういうの見るのはNGだったりして……
「ぉぇぁ……」
「あははははは! タクちゃんキッショ! 何今の魂がトゥルンって出てきたみたいな声!」
「リオ。弱ってる子笑うのやめよ?」
「はーい」
なんだかよくわからないけど、ちょっとずつ周囲の声がちゃんと頭に入ってくるようになってきた。
今って一時間目の休み時間だっけ? あれ? もう昼休みか?
「篠原! そろそろ生き返って! 早く新聞部のインタビュー受けに行くよ!」
「え……?」
「昨日連絡したの忘れたの? 今日の放課後に決まったって」
……あー、なんかそんな話もあったような。
先輩のアレがショッキング過ぎて、昨日家に帰ってからの記憶が曖昧過ぎる。そういえば最後にその話先輩に送ったんだっけ。
インタビューは先輩と一緒に受ける約束だから、そこで嫌でも顔を合わせることになる。どんな顔して会えばいいんだよ……
「ってか理久、いつまでふて腐れてんの? オメーもインタビュー受けるんだからシャンとしろって」
「へいへい。はぁ……この肉体美がわかんねー奴らマジセンスねーわ」
……今の俺、傍目には理久と同じように見えてるのかな。
『はぁ……真剣に取り組んでる俺を冷笑するなんてマジセンスねーな』
これはイタい! 痛過ぎる……普段からこんなこと言ってる奴って思われたら最悪だ。
「ありがとう理久。おかげで目が覚めたよ」
「は? 意味わかんねーんだけど」
「まーまーいーじゃん細かいことは。タク復活したんだしはよ行こ」
――――そんな訳で、今日は前々から依頼されていた新聞部のインタビューを受ける日だ。
俺と月坂先輩以外にも、関係者として理久リオ姫廻にも話を聞く手筈になっている。事前には来会や先輩の関係者にも取材済みらしい。
で、ついでに来会のエア彼氏疑惑に関しても探りを入れて貰っている。今日その答えが出ることになるだろう。
「やあやあ、よく来てくれたね。歓迎するよ」
新聞部の部室はいつも雑然としていたけど、今日は部員の数は少なく部室内も綺麗に片付いている。流石にインタビューするのが決まってる日はちゃんと接待モードらしい。
「……」
月坂先輩は既に部室にいた。
明らかに気まずそうだ。こっちを一瞬だけチラッと見た後はずっと視線を逸らしている。
そういえば試合後もこんな感じだったっけ。やっぱり嫌われちゃったのか……?
「それじゃ、先に篠原君の関係者から質問させて貰おうかな。別に気負う必要はないからね。思ったことをそのまま答えてくれればいいから。まずは近本理央君からお願いできるかな?」
「はいはーい」
そんなお気楽なリオの返事を皮切りに、新聞部によるインタビューは開始された。
主な質問の内容は俺の素行について。要は俺が月坂先輩を誑かすような人間じゃないと証言して貰う為だ。
「普段のタク? 普通だけど? 別にこれって特徴もないんじゃない? 無味無臭っていうか。沸騰して冷ました水?」
「まー悪い奴じゃないっすよ。周りに結構女子いるけど誰からもそういう目で見られてなかったみたいだし。女運あるのにモテないってシンプルに可哀想っすよね」
「篠原には可愛い女の子の幼なじみがいるんですよね。私、その子とお似合いだと思うんですよ。でもなんか全然進展がなかったみたいで……あんまり女子に興味ないんですかねー」
……確かに無害アピールはしてくれてるけどさあ。総じて俺への評価が微妙過ぎない? ってか君たち、俺をそんな目で見てたのかい?
「はい、ありがとう。おかげで篠原君の“人間性”が多くの生徒に伝わるんじゃないかな。特に月坂君のファンクラブ会員はかなり殺気立ってるからね」
「……」
あ、先輩の身体がシュンって縮んだ。肩身が狭いって気持ちが仕草に出てしまったんだろうか。可愛い。
でも今の俺は先輩の可愛い所を見つける度に辛いです。何かフラれたみたいになってるよな、俺。まあ事実上フラれたようなものだけど。
ダブルス解消ってホント、失恋と全然変わらないんだな。初めて知った。正直ちょっと泣きそうだ。
「あのー部長さん。来会さんの件、どうでした?」
「それはインタビューが終わってから話そう。まずは当事者のお二人に意見を窺わないとね」
ようやく俺と月坂先輩の出番だ。
でもこの後、俺たちは一体どうなるんだろう。
解散、ってことになるんだろうか?
先輩が望まない以上、そうなるしかないんだけど。
だったら……この時間が終わって欲しくない。
俺はまだ諦めきれない。
勝利の瞬間、歓喜で満面の笑顔になる月坂先輩を見てみたい。
それは――――贅沢な願いだったんだろうか。
「では早速だけど、校内を随分賑わせた“例の件”について伺わせて貰うよ」
そんな俺の苦悩を尻目に、新聞部部長によるインタビューが始まった。




