第36話 年上だらけの感想戦
「ゲームセット。四対三で女子ペアの勝ちです」
ネット中央に集まり、主審の最後のコールを聞いて試合終了。大人の試合ならここでお互いの健闘を称え合って握手を交わすのが通例みたいだけど、高校生ではそこまですることは多分少ない。基本的にはお辞儀で終わりだ。
「……」
とはいえ、流石に試合終わった対戦相手に睨まれるのはレアケースだろうな。しかも二人揃って俺のことメッチャ怖い顔で見てるし。
やっぱり、スピードボールに慣れる為の試合でドロップ系を多用したことが尾を引いてるんだろうな。終わればノーサイド、って訳にはいかないか。
仕方ない。ここは一言詫びを……
「キミさ、なんで混合ダブルスなんてやってんの?」
「へ?」
「月坂目当てで適当にやってる奴かと思ったら、基礎できてるし最後までしつこく食らいついてくるし。必死すぎてこっちまで本気になっちゃったじゃん」
「一年でしょ? 今から真面目に練習すれば、男子の大会でもそこそこの所まで行けるんじゃない?」
……どうやら斎藤先輩と綾野先輩は俺にキレていた訳じゃなく、寧ろ評価してくれたらしい。
勝ち気なだけで悪い人たちじゃなさそうだ。
「ま、男子の環境じゃ強くなれそうにないってのはわかるけど」
「まーな! ウチら必死キャンセル界隈だし『楽すぎて滅!』がビジョンだから!」
またそういう二年後には通じなくなる言葉を……つーか毎日ハッピー祭日ラッキーじゃなかったっけ?
「アンタもさあ、前はもっと上手かったよね?」
「つか足全然動いてねーし。一年の足引っ張るとかマジねーから。恥ずかしくないの?」
「言うな! 自分が一番わかってっから! 俺ずっと篠原の顔見れてねーから!」
キャプテン、割とメンタル弱いことが判明。スマッシュのミスを相当引き摺っているらしい。
「はぁ……スマン篠原。昔からスマッシュダメなんだよな俺……」
「俺もサーブのトス苦手だから気持ちわかります」
「あ、それ思った。安定してないよね。もっと膝使えば?」
「手首で投げ過ぎると結構ブレるよね。離すタイミング遅らせた方が良いかも」
……なんか女子の先輩たちがメッチャ親身にアドバイスしてくれた。
やっぱりガチでやってる人たちは違うな。短い言葉の中にも具体性が詰まってるし、本当にソフトテニスが好きなんだって伝わってくる。だからこそ一年の俺にも敬意を払ってくれるんだろう。
「ありがとうございます。凄くありがたいです」
「……」
普通の御礼言っただけなのにキョトンとされてしまった。この人たち、俺が礼も言えない非常識な奴って思ってたのか……?
「ま、噂なんてアテになんないよね。月坂絡みじゃ特に」
「取り巻き連中ヤバいからねー。でも試合中はクズの片鱗出てたからやっぱ本当かもって思ったけど」
え? 俺って校内じゃクズ認定されてんの?
『あの月坂先輩には全然見合わない男子』とは散々言われてたけど、性格破綻者扱いされる謂われはねーぞ。
「でも、だったら尚更混合ダブルスはないんじゃない? 知ってると思うけど、初めての試みで全然人集まってないから絶対レベル低いよ?」
「ですよね。でも、やる価値はあると思うんですよ」
最初は流されるがままだった。
月坂先輩っていう圧倒的な美人の先輩と一緒にやれるっていう特権があっても尚、断ろうと思うくらいには乗り気じゃなかった。
でも今は違う。
「最初の大会に自分の名前を刻む、みたいな話?」
「それもない訳じゃないですけど。まだまだ伸びると思うんですよね。俺も……月坂先輩も」
ふと、先輩のいる方に視線を向ける。
あ、目が合った。
げ、逸らされた。
ああも露骨に避けられると大分凹むな。まあ負けちゃったからな。その程度でよく偉そうに私に指図してたね……なんてことは思ってないだろうけど、本当にこいつの言うこと聞いてて大丈夫かな……くらいには思われたかもしれない。
「へぇ。そういう見立てなんだ」
先輩と同じ前衛の綾野先輩がニヤリと笑った。
もし何の予備知識もなかったら、バカにした笑いだと思ったかもしれない。でもこの人たちは多分、真摯に取り組むテニスプレイヤーをそういうふうには見ないと思う。多分。
「あの子はね……自分の殻に閉じこもってるトコあるからさ。自分の所為で練習のレベルが下がるとか、時間を取らせて申し訳ないとか、そういう感じ出し過ぎてるんだよね」
「そんで顔面最強でしょ? 正直イラっとしちゃうトコあるよねー。自分でも嫉妬なのか何なのかわかんなくなるし」
成程。だから先輩は孤立してるのか。
体育系の部活の大半がそうだけど、ソフトテニスも当然レギュラー争いが存在する。個人戦はほぼ無条件で大会にも出られるけど、団体戦はそうはいかない。基本上位四ペアまでだ。その椅子を巡って部内で競い合うことになる。
だから仲間であり同時に競争相手でもある。凄く気が合うとか、昔からの友人とか、そういう場合なら和気藹々と切磋琢磨できるかもしれないけど、そうじゃない場合は無理してまで親身になろうとは思わない。
孤立の原因は先輩の遠慮がちな性格と、嫉妬心をかき立てる容姿の合わせ技なんだな。
一番手のペアでこの感じなら、そりゃ他の女子部員はどう接していいかわからないのも無理ない話だ。一方的に悪者扱いしてしまったことを心の中でお詫びします。皆さん、マジすんませんでした。
「でも多分、ソフトテニスが好きだとは思うんだよね」
「下手っぴだけどね」
斎藤先輩たちのその言葉は、決して愛情の裏返しとかそういう綺麗なものじゃない。
でも、疎ましく思っているようでもない。
月坂先輩の居場所は、もしかしたら……ちゃんとここにあるのかもしれないな。
「ま、そういうことなら私が口挟むことじゃないね」
「月坂のこと、よろしくねー」
結局、特に笑顔を見せるでもなく終始サバサバした口調で二人の先輩はコートから離れていった。
そういや、負け越し確定なんだな。
「はぁ……コート整備すっか」
「ですね」
負けた方が綺麗にコートを均しネットを畳むのは鉄則。男子チーム全員で三面のコートを綺麗に整備し、この日の部活は終わった。
けど、今日という日のハイライトはこの試合じゃなかった。
明日の練習の予定を立てる為、月坂先輩に送ったLINEの返事を見た瞬間――――
『篠原君はやっぱり男子同士でやった方がいいと思う』
俺の視界は真っ黒になった。




