第30話 盲点ロアリング
「やらかしちまった……」
結局二日連続でまともに眠れない夜を過ごしてしまった為、頭が全く働かないまま昼休みに突入。でも押し寄せるのは眠気じゃなく怒涛の後悔と自己嫌悪だった。
『先輩に好きになって欲しいって、本気で思ってますから』
『先輩に好きになって欲しいって、本気で思ってますから』
『先輩に好きになって欲しいって、本気で思ってますから』
『先輩に好きになって欲しいって、本気で思ってますから』
『先輩に好きになって欲しいって、本気で思ってますから』
……何度思い返しても『ソフトテニスを』とは言ってねぇ。俺は何を血迷ったんだ……?
先輩のあの反応、間違いなく誤解してるよな。つーか誤解じゃないんだよ。俺の言ったことをそのまま解釈したらただの陳腐でチープな口説き文句以外にないんだよ。
これはマズい。先輩のご両親や天和への感謝とか、ソフトテニスにかける想いに感動して熱を帯びた昨日の俺の言動が全部先輩への下心だと誤解されてしまう。先輩に『キモ過ぎる後輩』って認知されてしまう。それは余りにも不本意だ。
「どったの渋い顔して。月坂先輩にフラれちった?」
「だからフラれキャラじゃないんだよ俺……」
今回ばかりはリオにも相談できない。理久に至っては論外だ。泣くほど笑ってバカにされるに決まってる。
……まあ、言っちまったもんはしょうがねぇ。今更『昨日の俺の発言ですが、正しくは「先輩にソフトテニスを好きになって欲しいって、本気で思ってますから」です。お詫びして訂正します』なんて言える訳ない。先輩に汲んで貰うしかない。
幸い、先輩は察しが良い方……だと思う。部内の雰囲気の悪さも敏感に感じ取ってるみたいだし。それが先輩のネガティブ思考を助長してるのがもどかしいけど。
「はぁ……~あ」
「溜息欠伸。略してサイヨン」
……来会か。相変わらず何言ってるのかわからねー奴。
「何か用か? 見ての通り元気はねーぞ」
「別に生存確認しに来た訳じゃなくて、新聞部から伝言」
「またかよ。新聞部に友達でもいんの?」
「倉知さんとは中三の時一緒のクラスだったよ?」
あれ。そうだっけ? あんまり関わりのないクラスメイトって顔と名前が一致しないんだよな……まして女子だと会話したことない奴も多いし。
「月坂先輩との取材の件、そろそろ返事が欲しいって」
ああ、そういやそんな話もあったな。
「わかった。後でLINEで聞いとく」
「LINE交換できたんだ」
何だよその『たっくんのことだからどうせLINE交換するのにウジウジ悩んでたんでしょ?』ってニュアンスを多分に感じる言い方は。全くもってその通りだよチクショウ。しれっと俺のここ数日の苦悩を見抜きやがって。
……何だかんだ、俺のことを誰よりも理解してるのはこいつなんだよな。
「事のついでっていうか、ちょっと聞いて欲しい話があるんだけど」
「勿体振っちゃって。どうせ月坂先輩のことなんでしょ?」
バレてますか。まあバレバレだよな。
「失言、っていうか言葉足らずで先輩に余計な気を遣わせちゃいそうなんだけど、どうすれば良いと思う?」
「珍しいね。相談なんて滅多にしないのに」
「ここだけの話、ここ数日誰かに話を聞いて貰ってばっかりだ。俺はダメな奴だよ」
今までは特定の女子のことが気になりだしても誰かに相談するなんて考えられなかった。でもそれは相手が同級生や下級生だったことが大きい。
やっぱり年上の人って接し方ムズいんだよ。大人だったらそこまで気にならないけど、一つ二つ上の先輩となると途端に難しくなる。キャプテン相手に話す時も緊張するし。
「言葉が足りないんだったら、行動で示すしかないんじゃない?」
「行動か……」
一理ある。要は俺が変に意識したりせず、先輩に対して下心がないってことを態度で示せばいいんだ。やましい気持ちで先輩に協力するんじゃない。あくまでソフトテニスを嗜む仲間として、今まで続けてきたことが報われて欲しいっていう純粋な……
「本当に純粋……なのか?」
「私に聞かれても困るけど」
そりゃそうだ。幾ら幼なじみでも思考まで読み取れる訳じゃない。
「参考になった。ありがとうな」
「どういたしまして。新聞部の件、ちゃんとしてね」
俺の返事を待たず、来会は二組の教室を出て行く。相変わらずマイペースだ。
「……今の、来会さん?」
逆の出入口から今度は姫廻が顔を覗かせた。
「そうだけど」
「じゃあさ、ちょっとこっち来て」
姫廻の手招きに応じ、廊下に出る。交通量多いな今日。
「跡つけてみない?」
……は?
「いや、普通に一組に戻るだけだろ」
「わっかんないよー? 彼ピできたてって一秒で会いたいものじゃない? 昼休みなら部室デートだってできるし」
彼ピってまだ死語じゃないのか。そういや理久使わないもんな。
「仮にそうでも、尾行して何の意味があんの?」
「だって気にならない? 来会さんのあの感じで彼ピとどんな感じでイチャイチャしてるのか」
確かに……全く想像できない。そもそもあいつが部活に勤しむ姿がピンとこない。
なんか二人遠く離れた席に座って黙々と小説読んでそう。んで特に感想言うでもなく夕方になったら帰ってそう。
「ね? 気になるでしょ?」
「……姫廻、そんなに来会のことが気になんの?」
「そりゃ、ね。相談したくらいだし?」
当然か。今更隠す意味もないだろうし。
来会を尾行ね……
「ま、却下だよな」
「えー。なんで?」
「もう遅いだろ。とっくに見えなくなってるし。そもそも尾行とか人としてやっちゃダメなやつだろ?」
「……ですよねー」
露骨に落胆すんなよ。本気だったって思っちゃうぞ?
前に相談された時もそうだったけど、姫廻って来会のことになると我を忘れるんだよな。
……マジで恋愛対象として見てるのか?
リオの話は半分冗談として聞いていたけど、これだけ執着してると真実味を感じずにはいられない。ここは探りを入れておいた方が良さそうだ。
「なあ。どうしてそこまであいつのことを知りたがるんだ? 何か理由があるんだろ?」
「……理由はあるよ。勿論」
う、トーンがマジだ。これホントにそれっぽいな。
女友達が幼なじみの女子にガチ恋か……なんだろうな。このよくわからない感情は。もし成就したらこれは一体なんて名前の情動になるんだろう。全く想像できない。
「私ね……見ちゃったんだ」
へ?
見た? 何を?
「来会さんが、文学部の部室で一人でいるのを」
「……いや、そりゃ二人しかいない部活なんだからそういうこともあるだろ?」
「椅子、一つしかなかった」
……。
…………。
「一つ? 椅子が?」
「椅子が」
それは一体どういうことだ? 何処かに仕舞ったのか? その必要ある?
「もしかしてさ……」
姫廻の目がクワッと見開かれる。心なしか息遣いも荒い。
その様子が嫌ってほど伝えてくる。
今から彼女が何を言おうとしているのかを。
「エア彼氏、なんじゃない?」
――――脳内にゼロ距離の雷鳴が響き渡った。
これにて第二章終了です。ここまでお読み頂きありがとうございました。
次の第三章で完結予定です。




