第28話 交流の窓口
この日の部活はお馴染みになりつつある彩彩アスレティックパークじゃなく、先輩の提案で学校から三キロほど離れた所にある多世代交流館【リエゾン】を利用することになった。
何しろ月坂先輩は有名人。しかも俺はファンクラブ会員に狙われている身だし、校内じゃ落ち着いて話もできない。先日の姫廻の相談の時みたいに蒼月会館を使わせて貰うという手も、そう何度も使える訳じゃない。
けど、単に先輩の苦手としているプレーに関する話をするだけならLINEでも特に問題はない。今日LINE交換して夜にでもやり取りすればいいだけだ。
あえて多世代交流館に足を運んで話す意味って、一体――――
「ごめんね。こんな遠い所まで連れ回して」
「いえいえ全然全然。ちょうどいいトレーニングになりますし」
先輩と一緒に学校から裏道を走ってここまできたから、結構息は上がっている。何しろ高校に入ってからずっとヌルい練習ばっかしてきたからな……これからは毎日走るようにしよう。
多世代交流館は存在だけは知っていたけど、足を踏み入れたのは初めてだ。複合型の社会教育施設で、ここだけじゃなく全国各地にあるらしい。言葉通り多世代の人たちが交流・活動する為に作られ、公民館を兼ねている所もあるとか。
このリエゾンには公民館はないけど、多目的室や会議室が幾つもあって子供が遊べるプレイルームや音楽練習室なんて所もある。
そういった所を利用する場合は有料かつ事前予約が必要だけど、フリースペースや談話コーナーは利用者登録だけしておけば自由に無料で使えるらしい。
フリースペースには子供、談話コーナーにはお年寄りが何人かいて楽しそうに話をしている。両親が共働きの家なんかは祖父母が孫を連れてここへ遊びに来ているのかもしれない。
「子供の頃はここよく遊んでて」
「思い出の場所だったんですね」
コクリと先輩が頷く。先輩にとってここは特別な場所らしい。元々穏やかな眼差しが更に優しくなっている……気がする。なんとなく。
「一茉里と知り合ったのも、ここ」
天和とは小学生の頃から交流があるって話だったけど……小学生になってもここを利用していたってことか。
確かにこの近くには小学校が二つくらいあった。俺はそのどっちでもない所に通ってたけど。
ってことは、先輩と俺は小学校は違うんだな。だから何って訳でもないけど、できれば同じ母校が良かった。だから何って訳でもないけど。
小学生低学年の頃って下校時刻は二時半とかだった気がする。多分先輩の両親が夕方まで仕事で、それまでの時間をここで過ごしていたんだろう。
「もしかして貴女、結衣菜ちゃん?」
俺が窓口で利用者登録用の書類を書いていると、不意に先輩がスタッフの人に話しかけられた。
「……お久し振りです」
「あらやっぱり! やだスッゴい美人さんになっちゃって! ここのこと覚えててくれたのねえ!」
先輩は少し戸惑った様子で、でも自分を覚えていて貰えたこと自体は嬉しそうに、そのスタッフと笑顔で語らっていた。
子供の頃に通っていた場所か……俺は来会家が該当するんだろな。一時期は毎日のように遊びに行っていた気がする。
いつからだろう。明莉と遊ぶことに対し周囲の目を気にするようになったのは。
男子に冷やかされることに対して危機感を抱いたのは。
このままだとずっと変なイジられ方をしていくんじゃないかって怖くなって、明莉と距離を置くようになった。
「書類、できた?」
少し昔のことを考えていた俺に、先輩が……
あれ? 髪型が違う。ポニーテール解いたのか。
この髪型も似合うな。可愛いのバリエーションが豊富過ぎる。
「……」
「あ、できました。提出してきます」
危ない危ない。つい見蕩れちった。
多分、子供の頃の髪型に近付ける為に解いたんだろうな。ってことは髪型が違っていてもスタッフの人は先輩だとわかったってことか。あの感じだと先輩がここに来たのは小学生以来っぽいのに。やっぱり子供の頃からズバ抜けた容姿だったんだろうな。
「談話コーナーが空いてるみたいだから、そこで話そっか」
「はい」
先輩の顔に緊張感が出てきた。俺にもそれが伝染してきそうだ。
一体、何を話してくれるのか。
――――尚、スタッフさんによるこういう時のお約束『もしかしてそっちの子は恋人?』の声は一切なかった。
本日更新分は二話に分けています。次話「Memoir 月坂結衣菜」もセットでお読み頂ければ幸いです。




