19:諦メロン
最近私の日課が増えた。
それは、私たちを探しに来たのだろう兵士さんたちにモンスターを誘導して移動させること。
「あまり森の生態系を乱さないでくださいね。この森は危険じゃないと困るんですから」
「わかってるよ。いくら何でも強いモンスターを大量に移動させて混乱引き起こしたりとかはしないから安心して」
「だといいんですけど……独ちゃんの場合自分が強すぎて強さの基準があいまいな気がしてならないんですよね」
「えぇ~。信用ないなぁ」
結ちゃんに疑いの視線を向けられながら私は仕事を進めていく。
やること自体は難しくないから、あとは問題になってくるのがどの方向にどのくらい誘導するかってことなんだよね。露骨に私たちの住居から引き離すような方向にばかり移動させ続けても、そっちに何かあるのかもと疑われかねないし。
そう考えると、それなりにランダムな方向から襲わせておく必要があるんだよ。
他にも場所だけではなく時間とか、モンスターの種類とかにも注意は必要。
人為的なものであることがばれないように、だけど私たちの都合のいいようになるように。私はモンスターを誘導することで兵士も誘導しなきゃいけない。
「さてさて、今日は水辺にいるみたいだし生息域に合わせたモンスターを送ってあげようかな」
今のところ心が折れる気配はないけど、だからと言って向こうが何も感じていないわけでもない。最近は自分たちの行動に意味があるのかわからなくて言い合いになることもしばしば。
ただそれでも戦闘面での連携に支障が出るほどではなく、装備につく汚れや傷こそ増えてはいるけど精神へのダメージは低そう。
今回水辺にいるのはそういう装備の汚れを落としたかったからという可能性もあるね。
私がモンスターのけがを治していつまでも食らいつくようなことをさせているそうでかかる血の量はとんでもないことになってるから、気持ちはとてもよくわかる。
けど、同情はしないよ。私たちを戦争にかかわらせようとするなら全力で抵抗させてもらう。特に今回の見ずなんて、ちょうどいい場所なんだから。
水中に強いモンスターや水辺に生息するモンスターなんかを誘導すれば、
「っ!?まずい!引きこまれる!」
「なっ!?水中に!?」
「クソッ!今助ける!」
兵士の1人が、突然水中から現れた職種のようなものに体をからめとられて水中に引き込まれる。
即座にそれを救援しようとしてほかの兵士も数名水中に飛び込み、確実に不利だろう水中戦が開始。
一応陸上に残った人たちもいるけど、そこは時間差で現れる水辺に生息するタイプのモンスターたちが妨害と時間稼ぎをしてくれるから、
「陸上からの支援は無理だ!全員で水中に対処!そこから対岸に渡ってしまうぞ!」
「なっ!?それでは物資が濡れてしまいます!」
「この際あきらめろ!後で魔法で乾かせるだろう!いいから行くぞ!飛び込め!!」
戦力の分散をしていてはどうにもならないと考えたようで、全員が水中に移動。
ただ、私が狙ったのは1人の兵士が危惧していたように物資の方。いくつかは投げられて対岸に無事落ちるけど、ほとんどの物資は少なからず水につかり一時的にダメになってしまう。
魔法で乾かすにしても食糧なんかはどうにもならないだろうし、これで滞在可能な時間も減らせるだろうね。
本当はすべての物資を濡らして完全に食料が持たなくなることを期待していたんだけど、さすがにそれは難しかったみたいだね。
でも、期待していた分は達成できている。
物資が濡れて使えなくなるものが出たことはもちろんだけど、兵士が全員水につかった。これもまた狙い通り。これのおかげで、水中から脱出した後も、
「くっ、水を吸ったか。重いな」
「仕方あるまい。半分は重くなったものを脱げ。残りの半分は周囲を警戒、脱いで防御に難がある者たちの壁となれ」
「「「「了解」」」」
指示は迅速で、おそらく適格。
それでも、その身動きを取りづらくさせたうえで半分の世を意を脱がせることに成功した。こうなるともう、今まで通りの戦い方なんてできない。
とはいえ、ここで再度仕掛けるとケガどころでは済まなくなりそうなんだよねぇ。ということで、ここは歯がゆくはあるけどかなり手加減して、
「っ!?虫です!」
「くっ!このタイミングでか!魔法で追い返せ!」
「ま、間に合いません!うわあああぁぁぁ!!???」
「ぎゃああぁぁぁ!!!????」
「やめろ!来るなぁ!!」
私が差し向けるのは虫。
なんてことない羽虫なんだけど、蚊みたいなもので人の血を吸うとか軽く刺してきたりとかするタイプの虫なんだよね。普段なら鎧もあるし弱い人かで自分たちごと焼けばいいかもしれないけど、今回はさすがにそうはいかない。鎧を脱ぎ肌を大目にさらしている兵士たちに虫は群がり、あっという間に大量の跡を残して行くことになった。
しかも、誤算だったけど鎧を着こんでいる人たちの方にも少なくはない被害が出ているみたいだね。
どうやら焼く魔法の方も使う人の制御が完ぺきではないみたいで鎧を着ていない人がいる状態でやるのは怖いらしい。
そんなことを気にするくらいならそもそも森でうかつに火を使わないでほしいという気持ちはあるけど(実は何回か兵士が気づいてないだけでボヤになりそうだったものを対処している)、それが気にならないくらいにはいい結果を残せた。
「かゆいかゆいかゆいかゆい!?」
「だ、誰か薬を!」
「こんな全身刺さされた人を何人も想定してないですよ!そんなに薬の量がありません!」
「森の環境をなめていたか」
「そもそもさっき投げて薬も水につかってますし、満足に使える数がどれだけあるものか……」
物資を狙ったかいがあったね。これでかゆみを訴える人を抱え続けた状態で探索を進めることになる。とてもではないけど、今まで通りのペースでは進めない、というか進みたくないだろうね。かゆみを訴える人たちが今まで通りの働きをするなんてとてもではないけど信じられないだろうから。
もちろん兵士だからある程度は耐えられるだろうけど、それでもかゆみに耐える訓練をしているかと問われると怪しい気がするんだよねぇ。
あともう何手か打てば、限界を迎えて心が折れる兵士が出てきてもおかしくないかな。とくに、今回刺されてかゆみがひどいことになってる兵士なんてだいぶストレスがたまるだろうし。
なんてことを思っていたんだけど、
「ここまでか……撤退するぞ。物資もダメになったし、今回の探索はここまでとする。早急に退却するぞ」
「なっ!?逃げるのですか!?」
「我々の使命を果たさずしてどうして国が救えるのです!」
「使命を果たすなら、それはそれで今回の退却は必要だ。物資も減りいつまで活動を続けられるかわからんだろう?それならまた物資を集めて、全員万全の状態に整えて。そして今回得た情報を持ち帰って報告をしておくことは必要なことだ」
とうやら撤退をすることにした様子。
また戻ってきそうな雰囲気はあるけど、これは意外と完全にあきらめさせるのも無理ではないのでは?




