1:悪役令嬢はいないかも
召喚されたのは、おそらく私だけではない
私の隣には、私と同じように制服を着た女子高生がいる。
表情の変化はあまり大きいわけではないけど、しっかりと困惑していることがうかがえた。
ただ、そんな困惑が召喚直後では邪魔になってしまうことを私はよく理解している。
もう1人が困惑している様子であるにも関わらず召喚した人たちは口を開き、
「ようこそいらっしゃいました、聖女様」
「しかし、どちらが聖女様なのだ?」
「2人も召喚されるとは、何かおかしい気がしてしまうな」
ざわざわと騒ぐ人たちの声を聴いていると、大まかな事情は理解できる。
やはり私が召喚されるとついて回るのは、聖女と言う単語だね。そして、元々召喚される予定だったのは1人だけだったという事も何となくわかる。
と言うここまで理解できたら一先ず粗末に扱われるような立場ではないんだという事で、
「あ、あの。ここはどこなのでしょうか?」
不安そうに。しかし取り乱すほどではない会話がギリギリできそうな雰囲気を出しながら言葉を紡いでいく、
するとすぐに担当者なのだろう人が反応してくれて、
「ようこそいらっしゃいました。ここはコンテウス帝国。皆様は異世界からこの国を導くためにやってこられたのです」
「い、異世界?ここは異世界なんですか?」
「ええ。信じられないかもしれないですが、そうなのです。そして、どちらかは聖女様であるはず、もしよければ、『光あれ』と唱えていただけませんか?」
「ひ、『光あれ』?…………きゃっ!?」
突然私の目の前からあふれる光。
予想通りではあったけど一応驚いておいた。やっぱり、この世界にも独自の魔法があるみたいだね。詠唱を必要とするタイプだから他の世界の魔法を間違って出しちゃうとかではないしそれは前の世界よりいい点かな。
「おお!すさまじい力。まさしくそれは、聖女様の証」
「あなたが聖女様だったのですね!」
「これが聖女様の力。なんと神々しい………」
「わ、私が聖女、というものなんですか?」
「間違いありません!あなたこそが聖女!」
「これはまさしく聖女の力です!」
どうやら私はまた聖女という事でいいらしい、
これ以上回復なんかの魔法が増えてもあんまり意味はない気がするんだけど、あって困ることはないだろうからこれで良しってことにしておこう。
それに、この世界でも生きて行かなきゃいけないんだから課の世界の力では何もできなくていらない子扱いされるよりはいいでしょ。
「では、聖女様はこちらへ」
「あの方も何か力はお持ちなのでしょうが、聖女様がお気にされる必要はありませんから」
「え?」
予想外にもう1人の子と私はこの段階で引き離されてしまうみたい。突然のことで驚いたけど、この国での聖女がどれくらい重要な存在なのか分からないからそういうものなのかと思ったんだけど、
「あっ」
「聖女様?」
「どうされました?」
ここでピンときた。
これ、ダメなやつだ。私がまずいことになるかもしれない。
「お待ちいただけますか?もしかしたら今の力をあの方も使えるかもしれませんし、試すだけ試させてください」
「へ?」
「いや、聖女様がいたのですから意味はないと思うのですが………」
「意味はないと思いますが」
「私のわがままという事でやらせてもらえませんか?私だけが何か力があると言われても、まだ信じきれなくて」
「まあ、聖女様がそこまでおっしゃるというのであれば………」
「手短に終わらせるのであれば構いませんとも」
「お気持ちはよく分かります」
こうしてもう1人の子に視線が集まることになる。
私はもう異世界に来るのは3回目だからある程度慣れているけど、まだこちらの子は混乱が続いているようだから視線を向けられさらに慌てているようにも見える。
ただ周囲からの無言の圧と担当者の促しにより私と同じように詠唱をすることになり、まばゆい光が辺りを包み込む。
「なっ!?」
「なんだこの力は!?」
聖女と言われた私と比べても圧倒的に強い光。
それだけで計り知れないほどの力があるのだと分かる。向こうの方が、私より圧倒的なチートを持っているという事だね。
「やっぱり、そうなるかぁ」
予想通り過ぎる展開に、私は苦笑せざるを得ない。
大体この世界がどういう世界なのか分かって来たよ。
この世界は、「いらない子だと思って追放した子の方が本物の聖女だった」系の作品の世界だよ!
私の予想だと、この後今まばゆい光を出して見せたこの子は国から追放されるなり何なりひどい扱いを受けた後に誰かに拾われたりしてその力を大いに発揮していくことになる予定だったんじゃないかな?そして同時に、この国や私は逆にどんどん悪い状況に陥ってしまう、とか。
だから今の状況は、本来ここでは明らかにならないはずだった主人公キャラの力が明らかになって周囲が愕然としている状況だね。たいていこういう作品の主人公って歴代トップクラスの力を持っていることが多いから。
さて。そこまでわかったのは良いけど、ここで問題になってくるのが私。
もう1人の子に力があると分かると、私がいる意味と言うものがかなり薄れてしまう。という事で私の立ち回りはかなり重要になってきて、
「すごいですね。聖女と言われた私よりもすごいんですから、大聖女とかになるんでしょうか?」
「だ、大聖女?」
「なるほど。良い得て妙ですな。この方は大聖女と呼ばれるにふさわしい!」
「大聖女様と聖女様がいるならこの国は安泰ですな!!」
私が聖女でないという事にならないように、もう1人の子を持ち上げる方向に誘導させてもらった。
これなら私が聖女だっていう立場は守れるわけだし、扱いは多少落ちるにしても無下にはされないはず!
…………長年聖女してもう1人の子より歴はあるのに、身についたのが保身の技術って言うのが悲しいところだな~。




