20:帰れと言われても
魔王も推定主人公さんもふきとばし、その場に立っているのは私だけとなった。
だから、これで終わりだという事にして倒れ伏している魔族を前の世界で手に入れた魔法で回復させていく。こちらの聖女の力だと魔族には毒になるみたいだから、混ざらないように慎重にやって行くよ。
そうしているとほとんど全員回復させ終わったところで魔王が防御力以外のバフを失ってしまったため移動速度の低い推定主人公さんを回収してやってきて、
「これで分かったか?」
「何がでしょう?」
急に意味深な質問をしてきた。
分かるわけないでしょと答えたいところだけど聖女らしくないのでグッと我慢。
真意を問うように魔王に視線を向けて首をかしげてみれば、
「聖女と言う役割にしても、その力はあまりにも強大。そんな存在が本当にこの世界のためになるのか?」
「ふむ。なるほど?」
どうやら魔王は、私が強すぎて邪魔だと言いたいみたい。
ひどいと思うけど、言いたいことは分からない訳じゃない。私みたいにはっきり強くて正しい存在がいれば、皆私を頼ることになる。しかし私なんて1人しかいないし、できることには限界がある。
優先度を決めたとしても世界中を駆け回るのは時間がかかるため、どうしても限界がある。
私が間に合うことを祈ることしかできずに滅びる場所もあるかもしれないし、私に頼りすぎるのは良くないということを魔王は考えているんだろうね。
ただ、私が民のためになんて理由で国の上層部を差し出したことで生半可な説得では納得してもらえないと考えたんだろうね。聖女としては正しい事を言ったつもりだったけど、逆に聖女過ぎて警戒されちゃったのは少しやりすぎた気がしちゃうね。
「私の力が強すぎるがゆえに様々な弊害があるという意見は納得できるものです。それは否定できません」
「ほぅ?否定しないのか。少しはごねるかと思ったがな」
「否定できるだけの論理的証拠を持ち合わせておりませんので。ただ、それを言えば魔族もその枠に収まるだろうというのが私の個人的見解ではあるのですが?」
「む?聖女には歯が立たなかったのだぞ?」
「そうだとしても、この短期間で世界のほぼすべての国を制圧できる存在と言うのは異常です。私が邪魔になるというのであれば、魔族もまた邪魔になる」
私に文句を言うのは良いけど自分の事を棚に上げないでほしいよね。
どう考えても魔族だって世界にとっては害になる存在だと思うんだよ。いたって怯えさせるだけじゃない?
私と違って人数がある程度いるとはいえ、怯えた人たちのケアができるほどの数がいるわけじゃない。治安だって安定させられるとは思えないし、
貴族たちを排除してしまったからしばらく情勢は不安定になるだろうけど、魔族が支配なんてせず人間に また権力は戻した方が良いんじゃない?
そんなことを考えながら視線を向けて問いかけてみれば、それがすべて伝わったかどうかは分からないけど魔王も苦々しい表情をした。
ただあえてそこは放っておき、
「それに、私をどうするかは決めているんですか?邪魔になるからと言う理由ならばこの命を捨てるつもりはありませんよ?私と言えどずっと人と関わらずに生きていくこともできませんから、選択肢は封印でしょうか?」
「こちらとしては無駄に動かれることがないならそれで構わんのだが」
「無駄の認識が私と皆さんでは違うでしょう。そちらからすれば凶悪なモンスターが現れた際に私が対処するのは駄目なことだと考えられるかもしれませんが、私はそうは考えませんから」
「なぜだ?将来のためにならんぞ?聖女以外の力を持つ人間がいなくなってしまう」
「それならば私は凶悪なモンスターが現れても問題なくなるように新しい結界を考案し使用すればいいと考えるでしょう。たとえその中身を考え終わっていないとしても、これから先の長い人生をかければ思いつくだろうと判断して」
「時間さえかければ思いつくというのならば簡単だがな…………」
苦言は呈す。でも、完全な否定の言葉は出てこない。
向こうが私の言葉を否定する根拠なんて持ちようがないんだから。いままでの聖女の枠に当てはめることも前の世界の魔法が使える私には不可能なことだし、そもそも魔王以外の魔族は簡単にどうにかできてしまうような力も持っている。魔族たちが測れるような器ではないという事は示してあるんだよ。
ということで、私は魔族の意向通りに進めるなら私を封印するしか道はないのではないかと示してみた。
けど、これは正直本命ではない。
私だって封印なんてされるのは嫌だからね。どういうタイプの物になるのかは分からないけど、もし体が動かなくなっても頭だけ使える状況になるんだったら心が折れちゃうよ。何もない状況で何年も孤独に耐えられるほどメンタルは強くないし。
だから私が本当にやりたいのは、
「もしくは、私を元の世界に戻してしまうというのも1つの手ではあるかもしれませんね。もう二度と私はこの世界に関われなくなってしまうかもしれませんが、そちらとしてはその方がいいのでしょう?」
「元の世界に?」
魔王って言ったらやっぱりこれだよ!
前の世界の魔王がこれをやってどれだけ私からの好感度を稼いだことか。不意打ちだったことは減点だったけど、それでもあまりあるくらいには良い事をあの魔王はやったんだよ。
そこまでやってもらったんだから、こっちの世界でも魔王に期待したっていいじゃん。
「私が召喚される前に居た世界だって、同じように困っている方は大勢います。そちらの救済だってできるのであればしたいのは間違いありません。もちろんその前に、こちらの世界で私がいなくなっても問題ないという確信をある程度得ておきたくはありますが」
「ふんっ。確信などそう簡単に得られるものか。この世に完璧なものなど存在せんぞ…………しかし、完全に聖女がこの世界に関われなくなるというのは魅力的だ」
完璧はないけど完全はあるという魔王のセリフは少し引っかかる部分があるけど、そこは流しておこう。
それよりも、今大事なのは魔王に私を元の世界に戻すという選択肢を考えさせること。悪くないと思っていそうな様子だし、もう一押しすれば決断させられそう。
と、私が考えていたんだけどどうやらその考えはある意味甘かったようで、
「では聖女よ。帰れ」
「ん?」
なんだか覚えのある現象。
魔王がこちらに手を向けて魔法を使用する。
すると光が私を包み込み、
「もう戻すのですか。では、後は頼みましたよ」
「え?聖女様!?私ですの!?」
推定主人公さんに後を頼み、私は消える。
正直推定主人公さんが魔族に対応して何かをするというイメージもないし本人も驚いてるけど、たぶん主人公だからどうにかしてくれると思うんだよね。
何はともあれ、こうして私と言う聖女はまた世界から消え去った。
そしてまた、一般高校生に擬態する聖女がどこかの世界で発生することになる。
間違いなく初恋を奪っちゃっただろうあの私がよく遊んでいた子供たちが将来私好みに育つのを待てなかったことだけは心残りだな~。
魔族の治める土地がうまくいくかは分からないけど、そこはどうでもいいよね。




