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&dead.  作者: ねこはす
148/151

&109.嫌な予感

 地上に戻った。どうやら地下に入った時と同じ場所に出たみたいだ。なんだか懐かしい。


 ……むーん。懐かしいと思えるほどこの地に思い入れがあったか?


 でも、そうだなぁ。ここはノーフォに出会った場所で、記憶を思い出した場所で、この世界で拠点としている場所だ。思い出は少なくない。


「帰ってきましたね。長かったようであっという間にも感じます。一体地下にはどのくらいの時間いたのでしょう」


「そうだなぁ……って、こんなのんびりしている暇はない! ノーフォ、早く行くぞ!」


「行くってどこに……まさか! ま、待ってください。今しがた戻ったばかりですよ!? それに状況の整理もしたいですし」


「それは硬玉を手に入れた後にでもしてくれ。善は急げだ。早くシズクちゃんに触れたい!」


「本音がだだ漏れです。……コナキ、またモスを貸してくれますか?」


 コナキが縦に大きく頷くと頭につけてるリボン……じゃなくて、モスが羽ばたいてノーフォの頭に移動する。

 動きが止まるとやっぱり髪飾りにしか見えない。全部が真っ黒で柄とかないから余計に。まあ擬態が得意なガだけはある。


 …………うん。ガ、なんだよね。モスって。ちょうちょじゃなくてガ。

 まあどっちだろうと虫である事に変わりはないんだけど、なんとなくちょうちょの方がマシに思うよね。別にどうでもいいけど。私がつけるわけじゃないし。


「効率良く行きましょう。硬玉を落とすのはローズの魔族。そして魔族の事なら魔王に聞くのが一番でしょう……っ」


 ノーフォが突然苦しそうに胸を押さえる。


「ノーフォ?」


「大丈夫、です。これは、この感覚は、鬼力が戻ってきた、ノロイストを失った痛みです。キク、と、ココナナ……?」


「それじゃあ大丈夫じゃないだろ! ツラいのにムリしなくていい」


 ノロイスト種はノーフォの鬼力を分けて成る鬼族だ。だからノロイスト種の数が減れば減るだけノーフォは本来の力に戻っていく。

 皮肉なもんだ。仲間を増やすだけ己が弱くなり、失うほどに強くなる。そしてノロイストをただの道具に思えないから、増えても減っても身を切る事に変わりない。どう転んでもノーフォが苦しむだけだ。


 家族を失う気持ちは痛いほど分かる。自分の無力さを痛感して今すぐどこかに消えてしまいたくなる。このツラさは簡単に受け入れられるもんじゃない。時間をかけてでも向き合えるだけ、十分心が強い。


「いえ、いいえ。それでも私は前に進むと決めました。全ての罪を背負うと決めたんです。これしきの、ことで……足を止めるわけにはいきません」


 そう言ったノーフォの瞳に強い覚悟が見えた。


「そう、か。なら遠慮しないよ。早く魔王先生の元に行こう」


「はい。ニージュに確認しますので少し待ってください」


 うん、と頷こうとして止まる。こっちに近付いてくる気配が二つある。ノロイストとオーク。ここにオークは一人しかいないし、ノロイストの方も知ってる気配だ。あぁ、嫌な予感がする。


「ノーフォ様ー!」


「シシー」


 やっぱり最初に会ったノーフォの忠犬か。ご主人様のお迎えに来たんだろう。ご機嫌にブンブン振ってる耳と尻尾が見えそうだ。


「鮫島さーん!」


「うわぁ」


 そうだよな、お前だよなストーカー。オークはお前しかいないもんな。この駄犬め。どうせ私の気配を感じて飛んで来たんだろ。私は全然嬉しくないぞ。オーク種じゃなければ良かったのに。


「おかえりなさいませノーフォ様。シシーはこの時を心から待ち望んでいました!」


「ただいまシシー。私がいない間の事を聞きたいのだけど、まずどのくらい時間が経ったのか教えて」


「はい! ノーフォ様にご指示を賜ってからちょうど一日が経過しました。そこのオークの稽古はヒトミ、イッシチ、イチクの三名が担っていました」


 一日!? あの途方もなく濃厚な時間がたったの一日って、ウソだろ!? 体感だともっと日にちは経ってると思ったのに、実際はそんなでもない? いやいやでもやっぱり納得がいかない。……一日か。


「じゃあなんで今ここにいるんだよ」


 目を輝かせて近寄ってる駄犬の顔を掴んで遠ざける。コイツにも耳と尻尾が見えるんだが、疲れてるのかな。幻覚を見てしまうぐらい疲弊してるのか。やっぱり早く硬玉を手に入れてシズクちゃんに癒してもらおう。うん、それがいい。


「鮫島さんに会いたくて来ました!」


「サボったのか。この根性無しめ。私は弱いヤツはいらないと言っただろう」


「オレは強くなりました! 鮫島さんに認めてもらえるように鍛えました。空手も習いましたし、もうあの頃のように鮫島さんの足は引っ張りません」


 空手か。空手ねー。うんうん……分からんな。

 いやいや武術の一つってのは知ってるよ。それっくらいは知ってる。ただ、空手がどんな動きかってのが知らないだけ。


 私が教わったのは実戦で使える動き方だ。色んな武術を組み合わせて、使えるものを選び取った感じだ。だから実際の競技のルールだとか、この動きはどの武術のものかとかは教わってない。


 シシーに視線を向ければ肯定するように頷いた。及第点はあるって事かな。まあ期待はしてないからいっか。


「次にノームですが昨晩早速ナイフを収集して渡しています。成果はまだ不明ですが、予備としてキクとココナナが戦場に赴き、刀の回収を任せられています」


「そう、ですか」


 ノーフォの顔が曇った。察するに死んだノロイストがソイツらって事か。確かに戦場(あそこ)には大量の刀が残っているだろう。狙いは悪くないけど、二人っていうのが慢心だったな。どれ程の強さか分からないけど、おおよそ回収だけだからとスピード重視で行かせたんだろう。


「そんな事より魔王先生だ。案内して」


 難しい事は言ってない。なのにシシーは困惑したようにノーフォに視線を送る。なに、焦ってる? なんかあったのか?


「それですが、その……魔王は出て行きました」


「はあ!?」


 思わず大声が出た。それぐらい信じられない事だった。


「なんで行かせたんだ! 魔王先生は死んじゃダメな存在なんだぞ。おいノーフォ、ちゃんと言い聞かせたんだよなあ!? 自分の命よりも優先すべき存在だって。何があっても守り抜けって。たった一人のお守りも出来ないのか? まさかとは思うけど、一人で行かせてないよな!?」


 後退るから距離を詰める。しきりにノーフォを窺ってるのがさらに苛立ちを募らせる。黙ってないで早く言えよ。


「詳しく聞かせて、シシー」


 ビクリと肩を震わせて泣きそうな顔をする。それから観念したのか片膝ついて頭を下げる。


「はい。当初はもちろん反対したようです。ノーフォ様の命があり、なにより安全性に欠けるからです。しかしサージュが無理やり連れ出したようで本日早朝、魔王並びに第三部隊が丸を出ました。現在は第一部隊が後を追っています」


 うだうだとうるさいっ。つまり外に出したんだろう。何やってんだ。


「少しなら問題ないと思ったのか? バレなきゃいいと、そんな軽い気持ちでっ」


「ナギサ!」


「だってノーフォ! これで魔王先生に何かあったら計画が全部パーになるんだぞ!」


「分かっています。ですが今の所、魔王は無事のようです」


「だから安心しろって? ノーフォには悪いけど私はノロイストを信用していない。ノーフォの強さは認めているけど、それ以外は違う」


 王だったノーワンでさえそこまでだった。その下なんてたかが知れてる。いくら束になろうと絶対的な力の前では無意味だ。数と質でも個の強さで容易に天秤は傾く。

 例えばノーフォがいない間を狙えば私は丸を崩壊させる事が出来ると思う。ノーフォだって厄介だけど、接近戦なら私に利がある。必ずしも倒せない相手じゃない。


「部下の責任はトップであるお前が負うんだぞ、ノーフォ。王にもなって、もう責任逃れは出来ない」


「分かっていますっ! 私だって計画を無碍にするつもりはありません」


 と、そこへ別の気配が急に現れた。視線を向けると空間にフープが出現して、そこからノームが出てきた。


「レズレズ!?」


「良かった、良い所に来た。レズレズ、今すぐフープを貸してくれ。魔王先生の所に……」


「ノーフォちゃん、さめじぃちゃん! お願い、レムレムを……アタシたちを助けて! 二人の力を貸して!!」


 泣き縋るような必死の形相に目を瞠る。ただ事ではない事が起きてるらしい。何かは分からないがレムレムたちにはとても世話になってるし、助けに行くのに否やはない。

 けど、今はタイミングが悪い。私たちが優先すべきは魔王先生だ。それを間違えてはいけない。


「分かった。分かったから、でもその前に魔王先生を……」


 回収してから、と言う前にレズレズがフープを掲げる。ああもうっ、鬼族は自分勝手だから腹が立つ。人の話を聞きやしない。


 フープはレズレズを含めた七人を巻き込んでどこかに移動する。


 一難去ってまた一難。ようやく一段落ついてシズクちゃんと癒しタイムを満喫出来ると思った矢先にこれだ。おちおち休ませてくれないらしい。

 平穏を望んでいるわけじゃあないけど、こうも次から次へと立て続けに厄介事が舞い込むと辟易する。私の体力が無尽蔵で良かったとこの時ばかりは自分の体の異常さに感謝した。


 さようなら、シズクちゃんとの楽しいひと時。

 それがとっても、とっっっても残念だ。






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