表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
&dead.  作者: ねこはす
147/151

&M6.謎です

 ドキドキが止まりません。良いのでしょうか。良かったのでしょうか。不安は尽きませんがそれでも戻る気にはなりません。


「はははっ、最高だ! 見たかサム! 同じ種族なのにまだ知らない事があったぞ! 楽しいなぁ」


 子供のようにはしゃいで浮かれているサージュさん。この場で楽しそうにしているのは彼一人だけです。


「そう思ってるのはあんただけですよ。あぁ……絶対怒られる。どうしよう……。今から戻っても遅くないか?」


「残念だけど一度やっちまったら同じだよサム。諦めて逃避行しよう」


「諦めるなミナ! 隊長に矛先を向けさせればオレたちは無罪放免になるかもしれないだろ!?」


「高望みはしない方が身のためだぞサム。ニージュ大隊長からすればボクらはサージュ隊長を支持する随伴者だ。一緒に出てしまったのが運の尽き。一蓮托生だ」


「サイまで……。くっ、もう手遅れなのか……!」


「こうなってしまったら意地でも魔王を守るしかない。そうじゃなきゃ面目が立たない」


「うぅっ……そうだよな。サージュ隊長は頼りにならないし、オレらでやるしかないよな」


「サム、元気だして! 死ぬ時は一緒だよ」


「だから諦めるのが早いって」


 彼らはサージュさんの部下だそうです。苦労人のサムさん、諦観しているのがミナさん、現実的なのがサイさんです。

 三人は今置かれている状況に慌てふためいています。なぜなら頼りにしたい上司が一番使えないのですから。今もサージュさんだけ能天気に楽しそうにしています。


 私たちは現在、異形の血鬼に騎乗して上空を飛行しています。


 これだけでは意味が分かりませんよね。でも本当にこの通りなんです。本当に意味が分かりません。どうしてこうなったんでしょう。


 私が異形の血鬼に魔力を使った後、置き物のように静止していたのが突然意思を持ったように動き出しました。大興奮のサージュさんにせっつかれてもう一体に魔力を使った瞬間、私は異形の血鬼に跨っていました。はい、ここで一つ目の謎です。

 そして驚愕して身動きが取れないまま向かった視線の先は同じく異形の血鬼に跨っているサージュさんでした。けれど私と違ってウキウキしているのが目に見えて分かりました。嫌な予感がしたすぐ後です。


「出発だ!」


 彼方に指を突きつけるサージュさんはナポレオンのよう……は言い過ぎですね。似ても似つかないです。

 けれどもサージュさんの合図で異形の血鬼は動き出して、壁をぶち破って空に飛翔しました。はい、ここが二つ目の謎です。


 サムさんたちも嫌な予感を感じたのかいつの間にか乗っていました。恐らく止めようとしたのだと思います。でも止める事は出来ず、同乗する形になってしまったのでしょう。正直に言うとありがたいです。サージュさんと二人っきりは少し……だいぶ厳しいです。


 そして恐るべくは壁をぶち破ったのと同じタイミングで入ってきたニージュさんです。


「魔王っ、……サージュ!! ノーフォ様の命を忘れたかクズ野郎! 今すぐ戻りなさい! 背く事は許されないっ、裏切り者ォー!!!」


 鬼の形相が脳裏から離れません。彼女の優しさを無碍にしたのは少なからず私の行動にもあります。謝っても許される事ではありません。


 ですが、引き返しはしません。せっかくのチャンスです。このままイスリンに向かってもらいます。幸い夜が明けたのでナイフは飛んでいませんでした。

 ベータ、無事だといいのですが。




 イスリンに到着しました。上空から見渡すと未だに鬼綿が滞留しています。そのせいかあまりイト種が生まれていません。


「『セタツセトプ』」


 うぅ、範囲が広いので魔力の消耗が激しいです。けれどこれで、カイコが鬼綿を排除して新たなイト種を産んでくれるでしょう。


 そのまま飛行し、閣の上に着陸します。嬉しい事にベータは無事でした。傷一つありません。

 急いで中からパピルスを取り出します。


「……あれ? なんでしょうコレ?」


 パピルスの下に本が入っていました。入れた時は急いでいたので気付きませんでした。


 その本に題名はありません。表紙も裏表紙も無地です。ベータに能力を解かせてから本を開きます。


「彼女が虐げられているなんて理不尽だ。哀れで可哀想で見ていられない。せめて夢の中だけでも理想通りに……? これは……誰かの日記でしょうか?」


「どうして、どうして上手くいかない。何も思い通りにならない。それほど彼女の心が疲弊しているというのか」


「また失敗した。どうしても現実と同じ関係になってしまう。彼女の想像が足りないのか。もっと望んで。そうでなければ叶えられない」


「そうか。彼女は知らないのか。ごく一般的な家庭の普通の家族像を思い描けないから、自分の状況が重なってしまうんだ。どうすればいい。早くしなければ心が死んでしまう」


「 」


「 」


「 」


 白紙が続いています。


「良かった。でも、もうここは要らない。彼女の幸せに家族は不要だ。排除した方がいい。もっと、もっと力があれば。現実に干渉できるだけの力があれば彼女を幸せに出来る。せめて、この場から幸せを願っている」


「なんで? どうして? 彼女に恨みでもあるのか!? どうして彼女だけが苦しい思いをしなければならない。あれほど苦しんできたのに、幸せになる事も許されないのか。一体彼女が何をしたというのだ。生まれてきただけで何もしていない無垢な少女に現実は残酷過ぎる」


「……ッ!?」


 赤い文字で大量に「殺す」と書かれています。


 なんですかコレ、狂気が滲み出ています。一体誰が、彼女とは誰のことですか?

 この先を捲ればその答えが分かるのでしょうか。知りたい気持ちと狂気の恐れがせめぎあっています。


 ……。

 …………。

 ………………。

 えーい、ままです!


 ギュッと目を瞑ってページを捲ります。恐る恐る目を開いて本の中身を見ます。


「これは……っ?」


 戦鬼王の絵がありました。けれど絵の横に書いてある名前は「ゲドウガン」です。戦鬼王の名前はシュドンドゥーシだったハズです。その下には「高圧的で恐ろしい父。ウザイ。家族の管理ぐらいちゃんとしろ」と書いてあります。父……彼女のお父さんでしょうか? あとこのコメント?はなんでしょう……?


 次のページにも絵が書いてあります。「オウガン。執念深く狡猾な母。嫌い。憎い。どうして手を出せる。自分の子供だろ」

 次「ナツクス。高慢で出来損ないの兄。鬱陶しい。勝手に苛つくな青二才」

 次「コウ。優しい他人の家政婦。意気地無し。唯一救える立場にいたのに。寄り添うだけでは何も解決しないと気付け」


 主要キャラクターの人物紹介みたいですけど微妙に違う感じがします。辛辣なコメントのせいでしょうか。


 次……はノーフォさんです。「センレン。████。救いを求めて。外聞も気にせず心のままに動いて。幸せになって」彼女との関係性らしきところが黒く塗り潰されています。

 けれど後に続く文章から、恐らく彼女の事でしょう。ノーフォさんが彼女……? 謎が深まるばかりです。


 次が最後のページです。こちらは絵が黒く塗り潰されています。


「アデール……婚約者……?」


「魔王様っ!」


 急に呼ばれて体が跳ねました。声がした方を見ればイト種が居ました。見覚えのある色です。


「ご無事で何よりです魔王様。先の防衛では見事な手腕でございました。さすが我らが至高の御方、感服致しました」


 ミソラが頭を垂れて賞賛を口にします。けれど、違います。上手く化けていますが私は目の前にいる人がミソラではないと確信があります。


「あなたは誰ですか?」


「っ、お忘れですか魔王様。私はミソラ。カサンのイト種、ミソラにございます」


「いいえ、それは有り得ません。本物のミソラはここにいますから」


 ベータから取り出したパピルスの一枚を見せる。カビのように黒が侵食していますがそれでもまだみ空色が残っているのが見えます。そう、私がパピルスに変えたイト種の中にミソラは居ました。

 黒くなっているのが気になりますが、お陰で簡単に気付く事が出来ました。喜んでいいのかは分かりませんけど。


「…………チッ、こうなったら仕方ない」


 ミソラの姿が変貌していきます。本来の姿はやはり毒鬼でした。鬼力まで魔力に見せるなんて……化粧、侮っていました。


「本性を現したなオーガ! 観念しろ!」


「一対三だ。お前に勝ち目はない。逃げるなら今のうちだぞ?」


 私が頭数に入ってません。……あれ? もしかしてサージュさんも数に入っていませんか?

 サイさん、自分の上司ですよね? そんな雑な扱いでいいのですか?


「勝ち目? そんなの最初(はな)から分かってるわよ。それでも勝算があるからこうして出てきたじゃない。オーダー」


 毒鬼が突進してきました。


「フム。自死するみたいだぞ。殊勝な心がけだな」


 サージュさんの言葉で意図が読めました。正攻法では勝てないから命を引き換えに私を殺そうとしています。鬼綿に弱い魔族だから、出来ることですね。


 誰も動きません。なぜなら突進した毒鬼がすぐに地に伏せたからです。毒鬼の背後に上ってきた血鬼が押し倒しました。腕をがっちり拘束されて抵抗も為す術なくです。


「オーガグラーフか、ちょうどいい」


 サージュさんが近付くと毒鬼が急に苦しみ叫びだしました。え、えっ!?


「あっ、ちょっとサージュ隊長! 何するんですか!?」


「喜べサム! 絶好の実験体が手に入ったぞ。オークとオーガの違い。ふふ、やりがいがあるなぁ」


「すまん、イチク。オレらじゃサージュ隊長を止める事は出来ない」


「オーガは捕獲対象なんだぞ!?」


「え、そうなの? それは知らなかった。というかイチクはなんでこんな所にいるの?」


「ニージュ大隊長に魔王を連行するように指示されたからだ。お前たちが勝手な行動をしたせいでこっちにしわ寄せがきたんだぞ」


「ホントごめん。全部サージュ隊長のせいだから。……ニージュ大隊長怒ってた?」


「そりゃあもう」


 毒鬼が苦しみもがいている上でよく呑気に会話出来ますね。私は恐ろしくて近付けもしません。

 声がピタリと止むとイチクさんが退きます。驚きです。毒鬼が血鬼に変わっています。化粧ではなく本当に。


 これが血鬼の性質ですか。知っていましたこれほどのものとは思いませんでした。


「ここに来たのはイチクだけ?」


「いや、ヒトミもイッシチも一緒だ。噂をすれば……」


 血鬼がさらに二人やって来ました。


「イチク、全然ダメでした。鬼綿が消えて採れません」


「同じく収穫なしだ」


 肩を落として落ち込んでます。


「鬼綿なんか集めてるの?」


「シシーが捕まえて来たノームが鬼綿でものづくりをするらしいからな。さっきはナイフを集めていたし、今回は魔王のついでに回収してこいとのお達しだ」


「ああ、なるほどな〜」


 会話を聞きつつ冷や汗が止まりません。イチクさんが言っているのは大原くんの事でしょう。そしてイスリンの鬼綿が消えているのは私のせいです。……このまま黙っていましょう。


「ひとまず用も済んだし帰りますか。……帰るぞ」


 伸びをしながら言います。その後にこちらを見てもう一度言いました。帰るの気まずいです。思わず目を逸らしてしまいました。


「……よし、魔王! これにもやってくれ」


 しばらく静かだったサージュさんが声をあげます。見るとまた別の異形の血鬼が出来てました。静かだったのはそういう事ですか。


「『イアークラ』」


「お前たちは一体、何を生成しているんだ」


「オレに聞くな」


「それでも副隊長か」


「副隊長だからって隊長の全てを理解してるわけじゃない」


「そういうもんか?」


「そういうもんなの。特にあの人は突き抜けてヤバい。マシなところがない」


 ああ、と納得しています。納得出来るんですね。それほどサージュさんの悪名は広まってるんですか。


「これで準備は整った。さあ出番だぞお前たち。存分に暴れ回れ」


 大々的に宣言するサージュさんに首を傾げます。周りを見ると、みなさんも意図が分からず困惑しています。サムさんでさえ。


「隊長ー? 分かるように言ってっていつも言ってますよね? いつになったら改まってくれるんですか?」


「実戦データをとる良い機会だ。それぞれ騎乗して早く性能を見せろ」


「……は? …………もしかして、敵がいます?」


「なんだ、気付いていないのか? デビル三体、見張られてるぞ」


 え……えぇっ!? そんなまさか!?

 ですが、嘘を言っているようには見えないサージュさんの一言でみなさん臨戦態勢に入りました。三手に別れて騎乗し背後を庇うように周囲を警戒します。


「……驚いた。よく気付いたな」


 上空から声が落ちました。空を見上げると本当に堕鬼が三人いました。全く気付きませんでした。


「ふん、隠れる気などないだろう。最初から見えていたぞ。さあ、今こそノロイストの真価を発揮せよ」


 サージュさんの宣戦布告を合図に異形の血鬼は動き出します。丸がある方へ。敵前逃亡です。


「っ逃すな、追え!」


「何故逃げる!? 戦え! おいサム! 聞いているのか!? サムっ!?!?」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ