127:全てを賭して
「逃がすものかッ!!」
諦めの内容とは裏腹の不穏な声色。ただの戦意喪失故のものとも思えぬガストロリトスの離脱に、私は四つの翼をフルパワーに追撃にかかる。
「逃がすか? 逃げるだと? ふん。勝手に言っていろ」
私の叫びに対する不快感を滲ませた捨て台詞を落とし、光の尾を引くガストロリトスの本体は上昇のスピードをさらに増す。
フルオプションの、この私と比しても大樹の如く伸びたガストロリトス。大半を捨ててなおもそれほどの質量を持つ大ロケットであるにも関わらず、中々に距離の縮まらない速度が出ている。
ルールのあるお行儀よいレースをしている訳では無いので、その推進力の源へ向けて足止めのフラッシュブラストを。
私の動きを無視していたガストロリトスロケットはまったくの無防備にこれを直撃。スラスターの噴射口を引き裂く一層強い炎をまき散らして爆散する。
が、飛び散ったはずのパーツは絡まった炎をそのままに落下コースをコントロール。私への自由落下に乗ろうとしてくる。
手さえ伸ばしてくるそれらに、私は小刻みな横スライドとロール。すれ違って地上への落下コースに戻してやる。
と、そこで機体の一部に違和感。なんとかわしたヤツらがワイヤーフックをかけていたのだ。
コレが伸び切り荷重がかかる前にカット。切り離しついでの殿役をやらされた哀れなヤツらを振り払ってやる。
「まったくしつこいヤツめが」
「お褒めにあずかり光栄だな」
次段階のスラスターで高度を増していたガストロリトスが零す倦んだ声に私はフラッシュブラストを添えて返事を。
しかしチャージの甘かったコレは、バリアに阻まれて僅かにスラスター部を傷つけただけ。だがその小さな傷口が火を噴き、躓いたように上昇速度を鈍らせる。
ここを仕掛け時と、私は四つの翼の力を振り絞って加速。
破損した二つ目の切り離し、次のスラスターの起動までの間に標的を間合いの内へ。
「とったぞッ!!」
「チッ……だが少々勝鬨には早かったな」
「なにッ!?」
斧を結びつけたソードウィップ。コレが切り離されたのをかち割り、本体に届くかというまさにその刹那。目の前に迫っていた分離スラスターが形を変える。
ガストロリトスの顔をしたそれは私の機体にしっかと組み付き、下方向へのスラスターを吹かす。破損したそれから漏れ出たエネルギーが自身を焼くのも厭わず。
「貴様、アクティスキナッ!?」
「……行かせない。我が主の考えを邪魔させはしない」
ガストロリトスの顔ではなく、胸の割れた十字面奥。そこに収まったサブカメラを瞬かせた忠臣殿の献身は、私が必殺必勝の意志を込めた斧に空を切らせた。
そして組み付き密着した形で自爆を。
「素晴らしい献身だアクティスキナ。お前のような戦士の鑑にこの世でも巡り会えた事は代え難い幸運であったぞ。そんなお前への弔いに、この大地を、星もまたお前のように華々しい姿に変えてやろう」
私を焼いて散った爆炎に手向けの言葉を残して上昇するガストロリトス。
自爆してまでも主君に尽くす事。
それを受けた側が良しとする事。
それは良い。最終的には当人同士の主従関係であるからな。
だがその後はいただけん。
私の支配する星を木っ端微塵にさせるなど、断じて許せん!
「させるものかよッ!!」
アクティスキナの組み付き自爆によって確かに勝ち筋は遠のいた。だがこの程度で私の野望を、私の部下たちを諦められるものではない。
焼け焦げ欠けた装甲が煙を上げたまま、私はフラッシュブラストを放ちつつ敵を追う。
「どこまでもしつこいヤツめが」
止まない私の追撃にガストロリトスはまたもパーツを切り離し。重力に引かれたそれに足止めをやらせる。
が、そんなモノに付き合ってやる義理は無い。ただ真っ向からこの機体の頑健さに任せて跳ね飛ばすのみ。
「執拗なのもここまでくれば見上げたものだ……が、ここまでだ」
しかし小細工を無視してもなお、ガストロリトスは準備を完了。
すべてを切り離したその姿はまるで傘のよう、いわゆる衛星砲の形態だ。そして地表に向けた砲門から光が溢れ出す。
あれは、まずい。あんなものが地上に届けば私の星が無事で済むはずもない!
「お、おおおおおおッ!!」
焦りから漏れ出る声に構わず、私は絡みついていた足止め役と共にガストロリトス砲の射線上に割り込む。と、同時の発射。猛烈な熱量と圧力とがとっさにかざした牛頭盾とその前に置いた敵を通してくる。
本体からの砲撃に組み付いていた分裂体は瞬く間に熔けた。そうして盾を直に焙るようになった砲撃に堪える私に、ガストロリトスは呆れたような声も浴びせてくる。
「己の命を捨ててまで庇い立てするとは、愚か者めが」
「な、んとでも……言うがいい!! 私のモノは……私のモノだッ! お前なんぞに……お前の癇癪なんぞに壊されて、たまるかぁああッ!!」
ああそうだ。私が我慢ならない。
そのためだけにこの破壊を自分自身で受けているのだ。
たとえその有り様が、他者には不合理だと、愚者の行いだとしか見えなくとも構わん。
私の翼の下。そして足元にはこれまで育ててきた土地が、国家が、人々があるのだ。
退く理由も押し負ける理由も何もない!
「まったく……ならばその愚かさを抱えたまま、忌まわしい星と共に消え去るがいい!!」
さらに圧力を強める砲撃。
死力を尽くしてこの一撃を受け止めきったところで二射目を許せば勝ち筋はない。
その道は、断じて選べぬ。
しかし星をも滅ぼす強力な砲撃であるが故、受け止めた私のみならず砲身までも厳しく焼くのは道理。
勝機は臨界を迎えるその一瞬。すべてを賭すのはその一瞬だ。
そう腹を決めた私だが、牛頭盾に無理を強いて耐えの姿勢なのは変わりなし。やがてガストロリトスの側が砲撃を放つ砲身の側面から火を噴き、その勢いを乱す。
この瞬間に私は自らオーバーユナイトを解除して見せてやる。
自ら火花を散らし、四肢と背中に繋がっていた者たちともどもバラバラと崩れて地に落ちて行く様で再起不能を演出。
これにガストロリトスからは明らかな安堵のリズムの瞬きが見えた。
ここだ。この瞬間が欲しかった!
首の無い人型のままのセプターセレン。それに跳ね上げさせた足を踏み台に私はジャンプ。この機体に残した全力でもって高度を上げる。
「悪足掻きを。その程度を想定していないとでも思ったか」
「無論その前提だとも」
放たれた迎撃砲が迫る私の機体を横から猛スピードで掻っ攫うものが。
それは四つの翼を備えたウイングユニット。セレンニクスレイアの背から分離脱落した私の翼だ。
やられたフリの仕込みもあってダメージ皆無……とはいかないが、まだまだ私を乗せての戦闘機動はできる。
「ちょこまかとよくやる。しかしその程度で勝てるとでも思っているのか」
「私が勝算も無しに立ち向かうとでも?」
星殺しの衛星砲ほどではない。が、一撃でももらえば致命打は確実な迎撃砲。私はこれを四翼にかわさせながら、確実に間合いを詰めていく。
焦らず、しかし急がねば。
再発射までに間に合わねばヤツを倒したとて私の負けだ。
しかし接近すればする程に迎撃砲の隙間は狭まるばかり。
博打めいた手は好かん。が、ここは先にすべてを賭して動いたばかり。ギリギリまでの接近から飛び込むのみ!
この決意の突撃のためにウイングユニットが被弾。四つある翼のうち二つを脱落させながらもなお私を押してくれるその勢いに乗って跳ぶ。
身につけたすべてを踏み台にしての結果、腕から伸ばしたエナジー・ソードウィップが衛星砲に掛かる。が、同時に私の胸を高熱の塊が貫く。
「お前らしくない最後……いや、愚か者らしい最後であったな」
それはもちろんガストロリトスが放った対空の砲。凝縮された波動の弾丸は容易く我が鋼の胸を貫通し、その背後の青い星の輝きをヤツの光学センサーに届ける形になった事だろう。
すべてを擲ってまで届かなかった私のこの姿に、ガストロリトスは勝利の確信を得た事だろう。
だがまだだ。
まだ私には手放すものが残っている!
というわけで分離。
生身と意識の私と器である機体とに分かたれた私たちは星の外と内にと距離を開ける。
根源と分かたれ消えかけるソードウィップに接触した私、レイアはガストロリトスの意識が向くよりも先に星に落ち行くニクスを狙う衛星砲に取り付いた。そしてすかさずの侵食。この砲台の中で蓄えられているエネルギーをオーバーロード。そうして暴れた力が冷却半ばであった砲身を焼き切る。
「なんだッ!? なにがッ!? ニクスレイアッ!?」
「次はバカな……と言うか? 何もおかしい事は無いだろう。私にとっては大切に育ててきた、育ててゆく星なのだからな」
言葉にはしたが、私は声にして伝えた訳では無い。いくら私であっても宇宙の真空の中で地上でやるように喋れる訳では無いからな。
このガストロリトスの戸惑いの間に、私の取り付いた衛星砲は暴走したエネルギーを所々に弾けさせる。そうして生じたよろめきのまま、機体はそこにかかるもっとも大きな力によって引っ張られていく。そう、星の持つ重力という力に。
「ば、バカな……ハッ!? いやだとしても貴様の今の器……ちっぽけな有機生命体の肉体では自殺同然だッ!!」
「だとしてもだ。貴様の癇癪に巻き込まれてこの星が撃たれるよりはよほどマシだからな」
「やめ、やめろッ!? う、おぉおおおおおおおッ!?」
コントロール出来ない砲台からガストロリトスの悲鳴が上がる中、ヤツの機体と身を包む波動の守りを貫いて熱気が。
だが構わぬ。
この熱、超圧縮された大気の生み出すこの熱こそが、旧世界の亡霊を焼き尽くす炎なのだからな。




