128:我こそが覇者なり
鉄火の降った日。
ある日、空の彼方から大気を引き裂いて赤々と燃えた金属が降り注いだ。
それらのほとんどは地上に辿り着くことなく燃え尽き、そして時を同じくして多くの鉄巨人がその活動を止めた。
未曾有の戦いの終わりを告げる天空のショーからしばらく、スメラヴィアはもちろんプライム大陸……いやこの星に生きるすべての人々、生命は戦いからの復興に注力。やがてその逞しさが実を結ぼうという頃。
帝歴元年。
この私、レイア・トニトゥル・エスティエース・ミエスクは天空の玉座にその身を置いていた。
黄金に輝くプロトスティウムの土台に深い青の布と金糸刺繍とで飾った豪奢な玉座。
滑らかに輝く白のドレス。それに飾られた起伏に富んだ百九十にも届く恵体。これを深々とその座に預けたその左手には五人張の強弓が。
この弓もそれを持つ手も、一度は失ったものである。
「あの日あの時に戻られたレイア様を見た時にはこの身も凍りつく思いでした」
「心配をかけた事はすまなく思う。今回のように上手く取り戻せる事ばかりとも限らん。だから博打のような戦いにならぬようにはしているのだがな」
「必要とあれば躊躇無く投じるのがレイア様でございましょう? だからこそ手放さずに済むものも出てくる、というのは分かっておりますけれども」
そう言って長耳を垂らすのは腹心として傍に侍るミントだ。
彼女も本日は玉座に添えるに相応しく金の髪を結い上げ、細身の肢体を青のドレスで飾っている。
この忠臣が口にした通り、かの鉄火の降った日……ガストロリトスとの決戦のあったその時の最後、ヤツごと大気圏突入を果たした私の肉体はそれはもうひどい有り様であった。
先にも語った通り、左手を始めとした部位の損失。高熱を浴びた皮膚も無事な所が無いほど。
自前の波動によるガードと、最後まで盾にしたガストロリトスの残骸の焼失が少しでも早かったなら、私もここにはいなかった事だろう。
であったがしかし、先に落ちて保護されていたニクスとの再合一を果たした事で完全に再構築。私自身はもちろん、元の美貌の恵体も何一つ失われずに済んだというわけだ。
これも撃たれて落ちた機体をコアトル、プテラの両ウイングらが保護。ペルセイースに届けてくれていたおかげである。
こうして私が辿りついた結果の一方、私と共に大気圏へ突っ込んだガストロリトスはと言えば本体は焼失。取り込み支配下に置いていた者たちも機能停止と、完全壊滅と言う他無い形に収まった。
この明暗を生んだのは、多くの意志の支えを受けていた私と、集った力のすべてをほしいままに取り込み己一人のモノとしていたヤツとの違いだ。
せめてアクティスキナを取り込まず、捨て駒にするような使い方をしていなければ、再起の目もあっただろうに。
私の思い描く図からはあり得ない話だが、ガストロリトスと同じような形で支配していたならば、ヤツと同じように消滅していただろう。仮にこの先に堕した際にも似たような末路を迎える事になるのだろうな。
そういった意味では、ここで戒めとして一つの結末を見れたのは幸いであった。
「お姉様でしたら……失礼、プライム帝国皇帝陛下でありましたら大丈夫です。また一つ眼差しを高くに置くことにはなりましたけれども、私たちの支えがあるのですから」
「うむ。そう言ってくれるそなたらへの感謝と、より広く、より多くの民の生を預かることになった責任。これを忘れぬようにありたいと改めて刻んだところである。フェリシア女皇よ」
そうして支配者としてのあり方を新たにした私へ支えの誓いを立てる義妹にしてかつての主君。
その皇配たる我が弟はもちろん、かつてのスメラヴィアの同盟国、敵国を問わず、見知った各国の君主が我が玉座の前に臣下の礼をとって居並んでいる。
そう。このペルセイースを中心に、朽ちゆく機械生命体の遺骸を用いて作り上げた玉座の在処こそ我が居城。その名も天空城アルケーである。
命名に厄介な騒動を起こしてくれた輩への意趣返しを込めたこの城は、急拵えであるため、未だ城塞としての機能は武装のみが完成している程度。いずれは外郭内側に農場を整備し、自給自足が可能となるように設計している。
生活必需品の調達を外部に頼りきりでは有事の際の攻め手を与えてしまう事になる。単純な防備だけが拠点の防衛力では無いのだ。
「……と、お考えなのでしょうが、本当はご自身の美食研究の為なのでしょう?」
「そうでもある。実益も趣味も兼ね備えた設計なのだから非の打ち所などあるまい」
お抱え料理人たるメイレンからのコメントに堂々と肯定を返したのなら彼女は猿の尾を揺らして満足げにうなづき返してくる。
その一方で重たく硬い足音を伴った困惑のうめきが。
「うぅー……むぅ……こーれーがニクスレイアかぁー……なーんというか、染まっちまってぇー」
「それは俺がとっくに通った道だぞ。さっさと慣れる事だな。でなければ、意識を共有する有機知的生命体の肉体を得て共感を持てるか試すしかないな」
「そーりゃあ試してみる価値はありそうだ。が、ソッチからの提案なのと、先任気取りが気に入らないねぇーえサンダーホイール」
「先に協力関係を持っていたのは事実なのだからしょうがないだろうが。第一提案したのも、まだ実現する方法から探る段階のを言ってみただけなのだから、そんな事でいちいち噛みつくな、面倒くさいぞペリトロペー」
そこでペリトロペーが武器を抜きかけたので半身を動かしてサンダーホイールとの間に仲裁に入る。
出自が正反対なだけにこの二名の間には大小様々な衝突はあるだろうが、そこをどうさばくかもまた面白い。
この二名を始めとした、数少ない意志を持って生き残った機械生命体らも私に従う形で落ち着いた。
こうしてこの星において並ぶ戦力を持つものが居なくなった私に、ガストロリトスを黒幕に敵対していた各国も降伏。スメラヴィアを中心に覇権国家が誕生する事になった。
だがスメラヴィアが、その皇家が降伏した国をすべて属国とした形では無い。
自分が統一国家の頂点に立てば角が立つとしてフェリシア女皇が辞退。真の支配者として私に自身の冠を捧げる形で推挙。これを各国の代表も承認した事で、私が王らを統べる者、皇帝としてプライム帝国の玉座に就く事となったのだ。
まあもっとも、これらすべて根回しした上でのパフォーマンスであるがな。
フェリシア女皇も素の状態では、私が実権を握っていたとしても巨大国の元首などプレッシャーが重すぎると避けたがっていた。加えてその他の国主も、異次元の実力を持ち、揺るぎない実績のある私に預けたなら反発も減ると計算していたからな。
私が皇帝となる形に落ち着くのも当然というもの。
まあしかし、それでもすんなりと進んだのには各国の王権は取り上げる事なく、自治権を承認したからであろうな。
どういうことかといえば、スメラヴィアはもちろん、各国も基本の体制はそのまま。各地に私との窓口と、定期的に私を議長とした国家元首を集めての合議が入るようになっただけ。
要はちょいちょいと口出しをするまとめ役として、私が上に乗っかっただけの形である。
普通であればこのような体制を敷けば反乱もやりたい放題。ひっくり返しての下剋上待った無し。国家として脆弱極まる形であろう。
私相手に謀反を起こせるのであれば、な。
武力の面では当然であるが、各国にはすでに私の耳目が表裏に潜り込んでいる。経済なり内紛誘発なりに帝国の繋がりを乱すような企みがあれば先回りに潰してくれる。
それでもなお上回ってくるのならばそれもまた面白い。この先国力任せに版図を広め続けるだろう帝国の歴史の中で歯応えのあるイベントになる事だろう。
いずれにせよ、私はこれから星のすべてを覆う帝国の長として全土に豊穣をもたらして行くのだ。
その変わらぬ野心を胸に、私は傘下に収めた国主らの見る中で黄金に青と白の宝玉を散りばめた皇帝冠を被るのであった。




