124:本領を見せてやれクラブアンカー
我が呼び声に応じ、真っ先に駆けつけたのは馬蹄の音。それも凄まじく重く大きなそれだ。
「セプターセレン! オーバーユナイトッ!!」
迫る愛馬に私が叫ぶが早いか、巨大鋼馬は変形。胸部にスライドインする私を迎えるばかりの形になって滑り込んでくる。
「本来の姿に戻るのを待ってやったからといって、そこまで通すと思うかッ!!」
となれば当然と、ガストロリトスからは融合変形も半ばに波動砲の連射が。
我々の合体シークエンスに割り込むように殺到する砲弾の雨。しかしこれはクラブアンカーの対空砲と装甲、そしローターブレードを盾と構えたペリトロペーによって阻まれる。
「借りを作りっぱなしーなんて性分じゃーあないからさぁーあ!!」
私が何かを口に出すよりも先に、ヘリ女からは言い訳めいた一言が。
これに私はカメラアイを輝かせる事で感謝のメッセージを送信。車形態に変じてさらに巨大な我が機体へ飛び込む。
機体と意識。その二つがガチリと噛み合い起動した私は、その足で大地を踏み締める。と同時に四肢から生やした光鞭を一振るいにガストロリトスへ見舞う。
反応し、中核に近い部位を守りきって見せた事はさすがだ。が、この一瞬で繋がりの甘かった連中は分離。残った主要部はまるで枯れて痩せ細った樹木のような有り様だ。
まあ機械生命体が無節操に寄り集まっていたせいでジャンク山のような有り様であったから、スリムに整ってかえって良かったのではあるまいか。
「どうした? 私がアルケーを隠し持っていると疑っているのだろう? コッチのボディに隠していないか確認はしないで良いのか?」
秘宝への執着をくすぐる挑発。これに合わせて右のエナジー・ソードウィップを伸ばす。
対するガストロリトスはこの誘惑を振り払い、外れた同胞を再度捕獲。我が刃の切っ先の前に割り込ませる。
切り離しによって一瞬正気を取り戻していたのだろうそれは、ソードウィップを頭に受けて困惑に瞬いていた目から光を失う。それに反してその機体は私、ではなくペリトロペーに砲口を。
ペリトロペーの死角を突こうとするそれにフラッシュブラスト。
これによって巻き起こった光と風のカーテン。その奥から飛び出すモノが。
真正面から迫る鋭利なそれを切り払い、追跡に踏み出す私。だがその足首に絡まるモノがある。
ワイヤーやケーブル。あるいはツタ状に伸ばし固められた神秘金属。
前からを陽動に下からか。
だがこの程度で私を止められるつもりだとしたら笑わせる。
接触点からの干渉もろともに、絡みついたモノを蹴り飛ばしてやる。
「本領発揮だぞ、クラブアンカー」
それでもなお絡みつこうとする鋼の茨を足元に新顔のメカガザミに声かけ。これに応じ滑り込んできたのに足を乗せる。
するとメカガザミは足裏で触れた所から真二つに。そうして我が両足を脚具足のように覆うのだ。
両脚への攻撃を弾く追加装甲と波動機銃。さらにガザミ由来の水中機動の補助。
クラブアンカーの真の姿はそれらの機能を備えた追加ユニットである。
だが本領はそこではない。
膝部に付いて大鋏。それが大きく開いて飛ぶ。
エネルギーを噴き出すスラスターの間からは私の膝から伸びるソードウィップが。
繋がった大鋏は未だ晴れ切らぬ目眩ましを突き破り、ついでその奥のモノを刺し挟んで捉える。合わせて私は地面から足を離し、光鞭を辿って突っ込む。
両膝からの私の突撃に、また寄せ集めで機体を膨らませていたガストロリトスは形の定まらぬ巨体を揺らす。
そう。ターゲットへの飛び込み、または逆に引き寄せる。だからこそのクラブアンカーと名付けたのだ。
「ごふ……おのれ味な真似を……ッ!!」
「ほう? その身に取り込んだ忠臣殿以外も褒められたのだな」
「今も褒めたつもりは無い!!」
私の皮肉に大きくたわんだ機体を蠢かせ、横殴りに。
後ろ飛びにかわした私の目の前を無数の鉄拳が津波のように横切る。
この通り道に腕からのソードウィップを置いておいて、相手から引き裂かれにゆく形に。
が、ただはまって斬られるばかりでない辺りは敵もさる者。断面から我がエネルギー刃を、ひいてはその根源たる私の機体内の力まで吸い取ろうとするのに、ソードウィップを切り離す。
「ふん。この引き際の見極めはさすがと言う他無いな。引くに引けぬところまでやってしまうアステルマエロルと同じ轍は踏まぬというわけか」
「せっかく賞賛の大盤振る舞いだが、それと比べられては嬉しくは無いな。それに、アレはアレで蹴飛ばされる程度で済むラインは越えなかったはずだがな」
メタルの塊でありながらブヨブヨと寄せ集めの機体を波立たせるガストロリトス。その塞がりつつある溶断痕に私は編み束ねたソードウィップを突き刺してやる。
束ねたが故にエネルギーは増大。さらに編み合わせた刃同士の干渉が吸収を阻害。その上で腕の引きと光鞭の巻き取りとを合わせ、じっくりと吸う暇も与えずに抜き、刺しを繰り返してやる。
「ぐ、お、おお……ッ!?」
「どうした? 切り札があるならば早く切った方が良いのではないか?」
挑発混じりに奥の手のご開帳を促してやれば、ガストロリトスは不定形の機体のそこかしこに灯るアイセンサーを忌々しげに瞬かせる。
では未だにプライドが勝つらしいその余裕ごと消し飛ばしてやろう。
その考えから拳が沈むほど深く突き入れた私は内部で固く編み束ねたソードウィップを開放してやる。
内側から爆発的に広がったエネルギー刃に不定形の金属塊は膨張、四散する。
いくらソードウィップといえど、そんな爆発を起こす効果は無い。
これはヤツが未だ寄せ集めであるがための半ば自爆の緊急離脱だ。
爆散を追いかける形で広がった刃。さらにその他機体の各所から伸びる光鞭を振るい、ガストロリトスの残骸を切り払ってやる。
エネルギー量の分割という小細工で撹乱狙いの小細工を仕込んではいるが、それを見切れぬ私ではない。取り込まれていたのに惑わされず、核となっていたパーツを狙って刻んでやる。
「ペリトロペー! また寄生される間抜けはやらぬと信じているぞ!」
「余計な口を! 信じているってぇー言うなら黙って見てればいーいのにさぁーあッ!!」
私の軽口に怒鳴り返しながら、ペリトロペーもまたブレードローターを巧みに飛び散ったパーツを捌いてみせる。
さて、まさかこの程度がガストロリトスの切り札のはずはあるまい。もしそうなのであれば拍子抜けも甚だしいが。
それを余計な心配だとばかりに私に向かってのエネルギー砲が。
受けるに任せても問題ない程度のそれは、まだ取り込まれていなかった大砲持ちからの狙撃であった。
いや、取り込まれていない、というのは語弊があったな。続く砲撃を放つ彼らを望遠で確かめれば、機体表面にガストロリトスの顔面が。
パッと見所属を明示するエンブレムのようにも見えるそれは、明らかに表情を歪めて目を瞬かせている。
おそらくはペリトロペーよりも重篤な状態なのであろう。元の意識を取り戻すのは不可能とは言わぬが、私でも集中して手を掛けねばならぬ程度には分が悪いだろうな。
だとしてもこれだけならば、戦闘継続のための保険程度。一時に取り込まなかった戦力の逐次投入の下手だとも言える。
との考えは私のセンサーへの感が否定する。
空から近づく飛行物体。
宙に浮かんで迫るそれは金属の塊。それも城塞ほどのサイズを持つそれは速度を重視した流線型に変形。駆け足にこちらに向けて迫ってくる。
狙撃手の大砲持ちは私への牽制のつもりが砲撃を繰り返しつつその巨大飛行物体との合流に動く。
なるほどアレがガストロリトスの切り札と言う事か。
だが空から戦力を呼び寄せているのがお前だけだと思うなよ。




