123:アテが外れてがっかりするにしても
「意識と分離した私の機体であれば器にちょうど良い……と、そういう話では無さそうだな」
他者に寄生している有様を揶揄した軽い挑発。
当然これが通じるワケもなし。
ガストロリトスは不敬だと憤る側近を制するまでで、それ以上には動こうとしない。
「分かりきった事を。仮に機体だけが目当てであれば、もっと効率の良い手がいくらでもあるのだからな」
少々、有機生命体的にはイヤらしい物言いではあるがその通りだ。
再合一した状態から我が機体を奪うのはペリトロペーの機体を奪っているヤツとて容易ではあるまい。
にも関わらず、この状態をこそ求めていたというほどだ。別の狙いがある事など至極当然。
「そしてもちろん、その目論見をお前に明かしてやる義理は無い!」
この合図と共に我が白銀の肌に赤い光が跳ね、四方からのエネルギー弾が殺到する。
狙撃か。
ペリトロペー、そして我が兵を狙って鉄巨兵に混ぜていたモノとは別にまだ伏せさせていたとは。
ともかく、四方から殺到するコレに私はフラッシュブラストとソードウィップ。
クラブアンカーはクラブアンカーで自分に向けられたモノに対処する中、私も当然この程度は悠々と捌いてゆく。
ふとこれまで地を踏み締めていた足をステップ。合わせて傾けた上体の横を掠めるモノが。
それはいわゆるクロー。装甲を引き裂く波動と超振動を帯びたプロトスティウムの爪だ。
下半身のスラスターを全開に通り過ぎたその爪の持ち主アクティスキナは、勢いのままに宙返り。再度私を狙って降下に。
しかしその軌道ばかりを見てもいられぬ。すでに振るった光鞭の内側に、ブレードローターを構えたペリトロペーの機体が潜っているのだから。
スラスターを吹かし、同時に目からの波動弾を牽制に。そうして伸び切った鞭を切り離して出した新たな剣を回転刃にぶつける。
軌道を逸らすパリィング。
ガストロリトスに操られたブレードローターは流されるままに地面に触れて切り裂く。そうして大地を焼き切り掘り切った流れに乗って機体ごと回してのもう一撃。
これに私は置き土産を残してバックステップ。
その土産とはフラッシュブラスト。そして鞭と伸ばしたエナジー・ソードウィップだ。
波動弾が目眩ましに弾ける中、高速回転する刃が私の腕から伸びた光鞭を巻き取る。
絡め取ったエネルギーの干渉はブレードローターの回転にブレーキ。ちょうど私とペリトロペーの機体との間を鎖が繋いだような形が出来上がる。
この繋がりを私は思い切り引き込みつつ前蹴り。同時にガストロリトスの意思で突き出された膝がこれと正面衝突を。
重く、硬い激突音。機体に波紋を起こしたと錯覚するような手応えを受けながら、私と敵はぶつけた足裏と膝とで競り合う。
「寄生しているモノが邪魔をしているせいだろう。パワーが落ちているな」
「ほざけ。そちらがフルパワーを……完全なスペックを発揮しているのを差し置いて……!」
ペリトロペーのメモリを参照しているのか、ニクス単体との比較を口にする。
そんなモノ、こちらは最初から差し引きして計算しているに決まっているだろう。
その上でペリトロペーが本来の力を発揮できていないと言ったのだ。
まったくつまらん言いがかりを。
ともかくこうして密着した競り合いに持ち込んだ事で、誤射を恐れたアクティスキナらを躊躇わせる事はできた。
この隙に仕掛けさせてもらう。
「……目論見通りといった目の色だな」
が、その瞬間、ペリトロペーのマイクを通したガストロリトスの声が。
向こうとしてもお望み通りだと言うわけか。
悪手を打ったかとの考えが一瞬。しかし仕掛けた以上はもう遅い。腹をくくって接触点からペリトロペーの内部に干渉する。
心臓部。その付近に癒着した異物を目指して中へ、中へ。
そしてペリトロペー本来の意識を封じ込めるモノを引き剥がしにかかった刹那――。
「バカなッ!?」
ペリトロペーが驚愕の声を吐き出すや、標的の異物が自ずと外れる。
その勢いのままにペリトロペーの機体に開いた隙間から飛び出したそのパーツはアクティスキナに手早く回収されてしまう。
フラッシュブラストなりで追撃出来なかったのは惜しいな。
しかしペリトロペーを放り出す訳にもいかんからな。欲張っても、いや全てを手にしたいと欲張るからこそ、焦らずに機を見極めねばならん。
「う……ニクス、レイア……?」
「うむ、目覚めたか。この立てた指は何本に見える?」
本来の持ち主が意識を取り戻したペリトロペー。これに自覚出来る異常は無いかとチェックを手助けしてやる。
「バカな……なぜだッ!? 何故無いのだッ!?」
そうこうしている間に遠くから困惑したガストロリトスの声が。
そちらを見ればアクティスキナを空に侍らせた大砲付きの同胞が。アレもまた本来のガストロリトスの機体ではなく別のモノだ。
その取り乱した様子に、私はペリトロペーを後ろに押しやりつつ煽りセリフを浴びせてやる。
「何が無いと言うのだ? よほどひどくアテが外れてガッカリした風に見えるが?」
「持っている……いや持っていたはずだ! でなければ、何故使えるのだッ!?」
ガッカリどころではないと言う事か。別モノの機体から返ってきた言葉はまるきり要領を得ないものであった。
呆然と目を瞬かせる従者を頭上に従え、こちらにギラついた眼差しを向けるガストロリトス。
本意では無いが、その質問が意味不明な内容である以上はこちらから問い返す他無い。
「だから……お前も、アクティスキナも、何の話をし続けているのだ?」
「とぼけるな! 他者の機体すら作り替えうるその力……我らの命すら支配する力を振るえる以上は持っているのだろうが!? 我が奪い宿していたアルケーをッ!?」
なんとまあ。
いや、あんまりにもあんまりな言葉が飛び出したので、受け止め損ねて呆けてしまった。
アルケー。アルケーと来たか。
旧世界我々が二つの陣営に分かれて争奪していた機械生命体が秘宝。
それを私が持っているはずだときた。
しかもその口振りからするに、本来持っていたヤツの手元。そこから離れた隙に掻っ攫っていったと決めつけているではないか。
なるほど、それで再合一を果たして完全体となった私の機体ならば、眠っていたモノも解放されていて見つけられると踏んでいたわけか。
で、そうして探ってみたらばお目当てのモノがまるで無い。探し物の在処の前提から崩れたワケであるから困惑するのも無理は無いか。
支配者としては不格好に過ぎる取り乱し方ではあるがな。
しかし謂れのない盗人呼ばわり。このように冤罪をかけられては私も不快だ。
「ふん。勝手な決めつけに縋りつき続けるとは笑わせてくれる。言っておくが……何度でも言っておくが、私のコレは技術だ。有機、機械を問わず生命には未だ自覚の至らぬ領域というのはごまんとあると言うわけだ」
古い領域に留まり続ける耄碌者めが。
そう吐き捨ててやればガストロリトスに乗っ取られた大砲付きが己の頭を叩く。
「……なるほどな。事実としてお前が持っていない以上、何らかの突然変異……特例として受け止めるべきか……!!」
歪んだ顔面から絞り出した呻くような声。
そうして考えを切り替えた奴は周囲に集っていた同胞らに腕を突き入れ始める。
この理不尽を無抵抗に受け入れる様は、まるきりに先程までのペリトロペーと同じ。おそらくは彼らの中にも、ここに集められた機械生命体のほとんどがガストロリトスの宿されているのだろう。
忠臣たるアクティスキナにも例外なく魔手を伸ばし、体積を増やしてゆく鋼の亡霊。
切り札を切ったらしい敵に対して、私もまた信頼する手札を呼び寄せるのであった。




