それぞれの生活
四人は大きな建物に来ていた。
体育館があり、小さなゲーセンがあり、本屋と図書館が入った建物だ。
先程のクレープ屋から近いところにあるが、駅からはかなり行ったところだった。
ガラス張りが多くて、建物内に光がよく通っている。
体育館では何かのスポーツの試合をしていたが、そちらには行かずにゲーセンの方に行った。そこは地下にあり、白い綺麗な壁でできた廊下が10mほど続いていた。右側には5つほど人が通れる、高さ3mほどのランセットアーチがあった。
そこをくぐると目の前に動く歩道があった。一番手前から奥まで廊下と平行して伸びていた。動く歩道を横切ったところにはゲーム機やガチャガチャが広がっていた。しかし、そこは迷路のようになっていて、5つの穴はまるで迷路のスタートであるかのように、同じ間隔でゲーム機で囲まれた道ができていた。
五つある道を進むと、それぞれジャンルに分かれている。音ゲーだったりUFOキャッチャーだったりと。
先程のゲーセンに比べれば規模は小さいものの、しっかりと機種は揃っていて、十分楽しめる。残念ながら、”アイディオクス”はなかったが。
ここは、四人で行動するには少し狭かったので、15分後に外の廊下に集合になった。
アクアは一人音ゲーをしていた。音ゲーをしている彼女はいつものおっとりした感じを思わせない俊敏さが見られる。まるで水が流れるようにサラサラと動いている。
ユーキャンと都記奈は二人で色んなゲームを回っていた。特にやるゲームがないのか、二人はお互い話すことに夢中でゲームには関心がないようだった。
対してK2はガチャガチャコーナーに来ていた。ガチャガチャは小さい子向けからリアルなもの、ゆるキャラのようなもの、数はたくさんあった。
K2はその中の「水生生物Ⅱ」というものをしてみた。これは、クジラなどの水生生物のガチャガチャで、1個300円もする。なので、K2は一回しかやらなかった。
300円を入れ、ガチャッ、ガチャッ、ガチャッ、カコン。出てきたのは野球ボール大の丸いカプセル。色は薄い青。
カプセルを開け、中身を取り出す。
ガチャガチャのイラストと見比べる。までもなく、当たったものは密かに一番欲しいと思っていたものだった。
シロナガスクジラ。
スッとした体に、あの大きさ。素晴らしくかっこいい!
組み立て、両手で軽く握り締めながら胸のあたりに手を持ってきて少し下を向いた。そして、目をつむり、嬉しさの余韻に浸った。
やったぁ、やったぁ、やったぁ
「何やってるの?」
「うわあ!」
突然の呼びかけにK2はかなりオーバーに驚いた。
呼びかけたのはユーキャンだった。いつの間にかユーキャンと都記奈はガチャガチャのコーナーに来ていた。
「ところで、今なにやってたの?」
「いや、ちょっとね……」
「なに、ガチャガチャしたの? なにをやったの?」
「これだよ」
そう言って握っていたシロナガスクジラを見せた。
「ふーん、これを握りながらなにか祈ってたのね」
いきなり、そんなことを言われた。確かに傍から見たらそう見える光景だったかもしれない。
「べ、別に、祈ってねーし。そんなことしてねーし」
完全に焦っていた。
「あ、図星ね。変人だね」
「全然図星じゃないし! てか、変人じゃないし。俺が変人だったら、世界のすべての人が変人だね。俺は常に人って書いて常人だし」
「はいはい、見苦しいよ」
「う、うるせー」
ユーキャンとK2のそんなやり取りを見ていた都記奈が、冷静に今の状況を判断してきた。
「ねえ、そんなことしてないでもう、廊下行こ? もうそろそろ集合の時間だよ?」
もう、そんな時間になっていた。もともと15分しかなかったので、早く感じるのは当たり前なのだが。
三人は廊下の、集合場所に向かった。
途中、ユーキャンはK2にしつこく変人変人言ってきた。あまりにしつこかったのでK2はユーキャンにデコピンをかました。
「いたっ! 何するの!?」
「いや、うるさいから、これで黙るかなーって。でも、逆効果だったね」
「私、うるさくないし!」
「「いや、結構うるさい」」
都記奈と同じことを言った。都記奈もそう思っていたらしく、ついに文句を言えたといったようだった。
ユーキャンはただ、うぅ、と唸っただけだった。
廊下に出ると、すでにアクアがいた。
「あれ、みんな一緒に行動してたの? なんか、仲間はずれにされた感じだなぁ。」
そう言って悲しそうな目をした。
「いや、途中で会ったんだよ。まあ、私とユーキャンは一緒に行動してたけど」
都記奈がそう言うと、間髪入れずにユーキャンが話を割って入ってきた。
「そんなことより、聞いてよアクア。さっきね、K2が、いてっ!」
危うくさっきのことを言われそうになったので、つい、足を蹴った。ユーキャンが蹴ったことに対してだろう、睨んできたので、睨み返すと、あっさりとユーキャンは引いていった。
「K2がどうしたの?」
「あ、いや、なんでもないよ。なんでもない」
K2が慌てて話を終わらせたが、アクアはずっと不思議そうな顔をしていた。
この建物は七階建てになっていて、地下にはゲームセンター、一階には体育館、二階には体育館のギャラリー席、三階には何も入ってなく、四階は図書館、五階は渡り廊下があり、そこを進むと本屋がある。そして、六階七階は何もない。結構新しい建物なのだが、三階六階七階はかなりもったいない気がする。
一階二階は入口入ってすぐ左側にエスカレーター、右側に階段がある。
ロビーには空気を綺麗にしてくれるというサンセベリアが置いてあるのが特徴で、二階の体育館のギャラリー席の出入口側からは一階ロビーが見えるは形となっている。
三階以降はエレベーターと反対側にある、扉の向こう側の階段とエレベーターで行けるようになっている。
四人は次に四階の図書館に行った。階段を上がっていくと階段の前にガラスのドアがあった。
そのドアを押し開いて中に入ると、待っていたのは広い何もない空間だった。床は鏡のように光っていて、辺りは暗かった。
その空間の奥に図書館がある。まるで空港の金属探知機のようなところをくぐると、そこには本が並べられていた。
四人はまとまって行動した。なんせ、人が全然いなかったのだ。
まず、四人は生物学の蔵書が置いてあるところに行った。あまり大きくないこの図書館に漫画は置いてない。そんな四人にとって、ここにある蔵書で興味があるものといえば、アイディオクスのことについてだ。もちろん、本所に行けばアイディオクスのことについて詳しく書かれた本は読める。しかし、今までずっとそういうしっかりとしたものばかり読んできた人にとっては、庶民向けのアイディオクスに関する本がどの程度まで詳しく書かれているのかは興味があるものなのだ。
「あ、あったよ、アイディオクスに関する本」
「どれどれ」
そうして、本を開く。アイディオクスとはというところを読んだ。
アイディオクスとは
この世界に突如現れた生命体。形や色、体の物質は種類によって様々である。このアイディオクスの共通するところは人を含む生物を襲うという事。詳しいことはまだ分かっていない。
と書かれていた。
「あははは! すっげー抽象的だな、おい! 核膜が四つとかはないのかよ!」
そういってみんなで笑いあった。
庶民向けのアイディオクスに関する蔵書はあと数冊あったものの、どれも同じようなことしか書かれていなかった。
アイディオクスは確かに不明な点は多いが、それは少しずつ解明されてきている。
しかし、ここに載っていたのは全て見て分かることしか書かれていなかった。きっと、公表できないことがあるのだろう。政府直属のこの団体には、漏洩させてはならない情報というのが山ほどある。これはそのうちの一つなのだろう。
結局、ここに来たのはこれを確認するためだけとなった。
なので、四人はもう一階上の本屋に行った。階段を上り、また同じような扉を開けると、そこには、今まではなかったはずの店ができていた。
「あれ、こんな店ができたのか。ちょっと言ってみようぜ」
そう言ってそちらに向かうと、三人はついて行った。
そこは、アニメや漫画専門の店だった。知ってるものや知らないもの。アニメや漫画のグッズまで売っていて、全部回ってみたらパンクしそうになってしまいそうなほど品揃えだった。
「こんなところが出来たんだな。これはすごい、普通の店じゃ売ってないようなものがたくさんあるぞ」
「そうね。なんか、あれね。未知の世界」
「私達あまりこういうのには触れてこなかったからね。こういうのも新鮮で面白いね」
だが、四人はこの店を5分だけしか回らなかった。あまり興味がなかったといえば嘘になるが、あまりに多すぎる商品に少し引けてしまったのだ。
結局、当初の予定の本屋に行くことになった。
ガラス張りの渡り廊下をくぐって本屋に向かう。本屋の入口は新作漫画が並べられていた。
奥に入るとやっぱり、向かったのは生物学に関するところだった。
「アイディオクスに関する本はこれだけしかなかったよ」
「少ねーな。やっぱり、アイディオクスに関する蔵書は特攻隊の方が優れてるな」
「そりゃそうだよ。そうじゃなきゃ特攻隊の意味が無いでしょ」
「それもそうだな」
そう言ってK2は物理学の本が置いてあるところに来た。
「K2、なにか買いたい物があるの?」
「ん? まあね」
そう言って手に取ったのは、水に関する本だったり、流体に関する本だったり。
「あの、水属性のやつの対策を練るの?」
「ん、まあね。どうせ、次にあいつが現れた時に出動要請来るのは特攻部だろうから」
「そっか、真面目だね」
「罪償いみたいなもんだよ。今回は逃がしちゃったし」
そういうと、本を読んでいた都記奈が反応した。
「あー、またそうやって。部長も言ってたじゃない。逃がしたとしても、今回のことは素晴らしいことだって。K2だけが気負うことじゃないんだよ」
「そうだよ。今回、K2は頑張ったよ。あんまり自分のせいだって思っちゃダメだよ。それに、それならわたし達だって同じだよ。もう少し早く駆けつけてれば……」
アクアがそういうと、後ろにいたユーキャンが手を叩いた。
「はいはい。みんな自分のせいだとか思わない。場がしんみりしちゃってるよ。誰のせいでもないんだから、ね」
そう言ってきた。正論かもしれない。ユーキャンにしてはいいこと言うとK2は思った。
ここは素直に礼を言おう。そう思った。
「……ありがとう。みんなも、ありがとう」
そういうと笑顔になって、こちらこそと言ってきた。
「ああ、俺ちょっとこれ買ってくるね」
「あ、結局買うんだね。ここで待ってるよ」
「オーケー、すぐ戻る」
そういうと小走りでレジに向かった。二冊の本を買い、カバンにしまうと、みんなのところに戻った。
「ねえ、これ見てよ!」
ユーキャンがそう言って本を開いて見せてきた。流星群に関するものだった。
「ふたご座流星群?」
「そうなの! 近いうちに見られるらしいの。綺麗なんだろうなぁー。見てみたいなぁー」
気づくと後ろの二人も目を光らせていた。キラキラしていた。
「それって、連れて行けと?」
「それ以外の解釈を私は知らない」
当然とまで言われたからにはもう拒否はできない。K2もかなり興味があったし、断る理由はなかった。
「んじゃ、その時になったらな。場所はこっちで考えておく」
「「「うん!」」」
約束が増えてしまった。
その時、電話が鳴った。
「ん? あ、電話だ。ちょっと待ってね。げ、特攻部部長!?」
「え?」
特攻部はアイディオクスが現れたときに出動する部である。よって、こうして電話がかかってくるのもアイディオクスが現れた時がほとんどである。
「はい、柿川です」
「アイディオクスが現れた」
やっぱり……。そう思うとすぐにカバンを開け、特攻部専用の携帯端末を取り出した。
調査部と同様、特攻部にもそれは存在する。
「今、発生場所と今のアイディオクスの所在を載せた。形態は亜巨獣型だ。直ちに現場に向かってくれ」
「分かりました」
そういうと、携帯を切って場所を確認した。
「え、この辺じゃん!」
「「「え!?」」」
「うわあ! こっちに向かって来てる!」
「K2、行くんでしょう? なら、私たちも行くよ。こういう時のための特攻隊だからね」
「分かった。ありがとう。でも、くれぐれも無理はしないでね。じゃあ……」
「K2、指揮はお願いね」
「分かった」
その時、この建物内にPiーーーーーーという音が鳴り響いた。
「只今、この建物付近でアイディオクスが現れました。お客様は直ちに地下ゲームコーナーにお越しください」
そういうアナウンスだった。もちろん、それは従うべきなのだが、自分たちはそうはいかない。特攻隊なのだから。
そして、走り出した。この建物の出入り口に。




