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アイディオクス~i-Deox~  作者: ヨウ化カリウム
広がる闇に煌めく光
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広がる闇に煌めく光 24

 K2は会議が終わるとすぐに谷保町の家に帰った。それはちょうど二時の話。K2にはやらなければいけないことがあった。


 家に帰ってきたK2は昼食を食べていないことも忘れ、すぐに自室に籠った。

 まず、ノートパソコン立ち上げると、計画書を制作し始める。そう、K2はアシュリーを救い出す作戦の計画を立て始めたのだ。

 K2は作戦を計画し始める。救出要請として。しかし、それは特攻部宛でも、調査部宛でもない。K2はその両部宛に計画書を作成したところで通らないことは今日の会議でよく分かった。それならと目をつけた部署。それはK2がよく知っている部でなければならない。そして、考え出した結論が、こうだ。

 特別対策部に話を持ち込めばいい、と。

 本来、対策部はアイディオクスによってもたらされる害に対し未然に、もしくは大きな被害を出さないように対策を打つという部署だ。その中でも特別対策部に関して言えばそれはアマチュアやエキスパートが担う対策部ではあまりに成功率が低いと思われる任務を請け負う。

 つまり、K2が持ち込もうとしているこの作戦はこの部署の存在意義から見るに作戦を行うことに道理が適っていた。

 しかし、もちろんのことではあるが、ただアシュリーを助け出すというのではあまりに私欲混同で、この計画を特別対策部に持ち込んだところでいくら道理に適っていたとしても通らない可能性がある。

 だから、K2はこの作戦を、前回の西府都市での作戦にて行方不明となった者の捜索及び広まったウイルス属性寄生型アイディオクスの殲滅という名目で計画することにした。


 夜十時、昼食も夜食も食べずにK2は作業に取り組んでいた。

 外では雨が降ってきていたが、K2は窓を叩く雨音すら耳に入っていなかった。

 今、この家には家族は誰もいない。K2一人。カタカタとパソコンのキーボードを打つ音が部屋に寂しげに響いていた。

 結局、この日、K2は寝ることはなかった。


 次の日、今日から学校の始業式だというのにも関わらず、K2はそれを忘れ、昨日から続けていた作業をしていた。しかし、不思議と頭は働いていて眠くなければ頭が回らず全然考えられないということもない。

 そして、朝八時、少しK2が伸びをしたところで呼び鈴がなった。

 流石にこの音は聞こえたK2は玄関まで行き、ドアを開ける。

「どちら様?」

 そう言うと、ドアを開けた目の前に見えたのはチナだった。チナはK2の格好を見るなり驚いて言う。

「どうしてそんな薄着なの!? まさか、今日から学校だよ。始業式だよ」

 K2は今そのことを思い出すが焦ることもせず、嗚呼、と言った。そして、K2はチナの背後に見える雨を見て初めて雨が降っていることに気づく。

 K2は正直始業式に、いや、学校に行く気にはなれなかった。だから、言い訳でも付けて休もうと考える。

「冬の雨は冷たいから、外に出たくない」

 K2は自分でも何を言っているのか分からなかったが、そう口にしてしまった以上、前言撤回することはできなかった。

 案の定、チナは顔をしかめたが、K2のことだから何かあるのだろうという感がいつになく働いて、この場を立ち去る。

 K2は正直に今していることを話そうかとも思ったのだが、それを言うとチナは恐らくそれを手伝おうとしてくるだろうということを察したので言うのは止めた次第であった。

 K2は再び部屋へと戻って作業を続ける。

 救出要請及び作戦計画書は時間が過ぎていく度、データ量を増やしていった。


 その日の夜、K2が机の脇にあった冷めかけているコーヒーを一口啜ったとき、コツンとベランダ側の窓に何か当たる音がした。

 最初はその音を無視していたが、その後も何度も窓に何か当たっているので疲れもあって流石にイライラしているK2はシラを切らしてベランダに出る。

 窓を開けてベランダに出ると、外の寒さがK2の肌を刺した。

 雨は既に止んでいる。

 K2は一瞬身震いして下を向くとそこにはいくつもの小石がバラバラに落ちていた。時間も時間ではあるが、まだ夜の七時、子供のイタズラの可能性は大いにある。

 そう思うK2はベランダから外を見回すと、予想外の光景が目に写った。いや、予想はしていたことにはしていたが、恐らく考え得る中で最悪の光景かもしれない。

 そう、それは、三、四人ほどの狂気を放つ者たちがこのK2の立つ方へフラフラと歩いてきていたのだ。夜であるため、様子が見づらいが、それはウイルス属性寄生型アイディオクス感染者でしかなかった。

 K2は一度部屋に戻ると、拳銃型のe波専用機器を手にしてすぐにまたベランダに出る。

 すると同時に別の窓からいつの間にか帰ってきていた母親もベランダに出た。

 K2はそれに驚くが、すぐに今やるべきこと思い返して、ベランダで拳銃を構える。

「遠方は私がやろう。接近してきてるのお願い」

 母親はベランダの外に目を向けながらそう言った。

「分かった」

 K2もまた、ベランダの外を見据えながらそう言う。

 K2は右手にそのe波専用機器を握り、構えた。

 母親は右手を開いて突き出し、左手で右手首を抑える。すると、右腕を中心に、鈍く黒光りする霧のような物が玉のように集束した物がいくつも取り巻いた。と思うとすぐにそれらは真っ直ぐ飛んでいく。飛んでいったものはまるで磁石で引っ張られているかのように感染者の方へと飛んでいき、ぶつかる。その度に当たった感染者はその場に倒れた。

 一方、K2は母親の攻撃対象外となった近くの感染者に狙いを定めた。と、言っても、その数はたったの二人なのだが。

 一人はもう既に建物まで接近し、ベランダの横のパイプを上り始めていた。

 K2はまずその感染者に狙いを定め、e波を放つ。

 放たれたe波は真っ直ぐ感染者に飛んでいき、当たると軽い爆発を起こしてパイプから吹き飛ばされた。ベランダ下の裏庭に体が落ち、一、二回跳ねて、横たわる。感染者はそれからはもう動かなかった。

 K2はその感染者のことは見ずに、すぐ次の感染者を狙い撃つ。

 e波は感染者の眉間を貫き、そこで倒れた。

 その時、ベランダの窓がいきなり開く。それに驚いたK2は窓の方を向いた。そこにいるのは父親である。

「なんでここに?」

 しかし、父親は微笑を浮かべるだけだった。

「遅かったね」

 母親がそう言う。その時K2は二人はこれを察して谷保町のこの家に戻ってきたのだと分かった。

「悪いな。裏の様子を見てから来たんだ」

「裏はどう?」

「異常なし。一応見張りに高村さんと上木さんが行った」

 二人の会話に、K2は知らないうちに谷保町が良くないことになっていることを知る。

 その間にも、どこから湧いたのか、次々と感染者が近づいていた。

「航太、後は俺がやる。お前はやることをやれ」

 父親は次にK2に話しかける。K2は今K2が何をしているのかまで父親に見透かされていたことに驚いたが、K2はその言葉に反論する。

「いや、後少しだから、今はこっちを……」

 しかし、K2のその反論は最後まで続かなかった。それは、父親の返事に遮られたからだ。

「まあ、今はそっちを完成させろって。ここは俺一人でなんとかなるから」

 そう言うと、突然近づいて来ていた感染者がいきなり倒れる。一瞬目を見開いたK2だったが、すぐに父親の仕業だと分かった。

 父親は今のこの瞬間に、何のモーションもなく、ベランダの外に攻撃性範囲系e波を展開したのだ。つまり、ベランダの外、感染者がいるところにe波を放って、ある一定の範囲内にe波を流したのだった。しかし、その範囲は五百平方メートルも及び、それは神がかっている。しかも、通常、攻撃性のe波は無差別に影響を及ぼすのだが、今回はd波に反応してe波が強くなるという条件付きだ。

 それを目にしたK2は素直に父親に従う他なかった。


 K2は部屋に戻ると、後少し計画書を進め、全て終わったのが夜七時三十分のことである。

 両親はもう既にリビングでくつろいでいて、感染者からの脅威が去ったことを悟った。

 しかし、K2は外が少し騒がしいことに気づく。ここで初めてまだ大変な事になっているのだと感じたK2は玄関を出て外に出た。

「あ、航ちゃん。こっちはもう大丈夫だよ」

 部屋から出るなりそう話してきたのはちょうど踊り場にいて今から階段を上がろうとしているチナだった。

「大丈夫って、こっちにも感染者が来てたの?」

 チナは笑顔で答える。

「うん、数は少なかったけどね。一階のフロント近くまで来てるやつがいたよ」

「そうか、お疲れ」

 そう言ってK2は部屋に入ろうとした。しかし、チナはそれを止める。

「待って!」

「なに?」

 チナはK2の元まで駆け寄って来た。

「ちょっと散歩にでも行ってきなよ。今日、学校も行かずにずっと家の中にいたんでしょう?」

 K2はあからさまに面倒くさそうな顔をする。

「ま、まあ、出てないけど……」

 チナは同じ調子で話を続けた。

「なんか、航ちゃん、顔が暗いよ。一度外に出て新鮮な空気を吸ったほうがいいよ」

「今、吸ってる」

 K2がそうして部屋に入っていこうとすると、チナはK2の手を取って、半ば強引に外に連れ出した。

 K2はチナに引っ張られて階段を降りると、フロントに一人の少女がいた。

 K2の幼馴染みでK2の上の階に住んでいる一歳下の少女。上木杏子がそこにはいた。杏子もまた特別対策部の一人でトップランカーだ。

「あ、ちなちゃん。もう感染者は来ないよ」

「話によると表も裏ももう襲っては来れないんだって」

 その話を聞いていたK2はチナに聞く。

「え、何か対策でもしたの?」

 チナは掴んでいた手を離し、K2の方を見た。

「なんか、防御用のe波壁が破られたから、今までのよりも一段階強い奴にしたんだって」

「へぇー」

 K2が頷くと、杏子がK2に話しかけてくる。

「航ちゃん、どうして今日学校休んだの?」

「まあ、色々あって」

 そう言いながらK2は軽く笑うと、杏子はそれ以上言及しなかった。

「ねえ、杏子ちゃん、航ちゃんすっごく疲れてるように見えるよね?」

 チナがそう杏子に尋ねる。杏子は一度首を傾げた。

「うん、顔が凄い疲れてる」

 すると、チナは声高らかにK2に言う。

「ほら! 杏子ちゃんもそう言ってるし、散歩してきなって」

 K2はあからさまに嫌そうな顔をすると、チナはK2の背中を押して、門まで連れて行った。

 K2は観念し、一つため息をつくと、門を出て歩き出す。K2は振り返ることをしなかった。

 雨に濡れたアスファルトがキラキラと光る。少しだけ靄がある夜のこの道に信号の赤い光が乱反射していた。K2は淡い赤に包まれる。

 K2は少し体が軽くなった気がした。

 K2が上を向けばそこに見えるのは夜の雲。

 アシュリー、今どうしているだろうか。生きててくれよ。

 そう、K2が心の中で唱えると、目の前に乗用車が一台通過した。

こんにちは。ヨウ化カリウムです。

長らく更新をしていなかったので、とても久々だと感じます。

私事もひと段落つき、これからはおそらく少しの間だと思いますが、肩を軽くして過ごそうかと思っています。

これからもよろしくお願いします。

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