広がる闇に煌めく光 20
「こちら、柿川。川まで500mの地点まで進行中。出会った感染者の人数はおよそ20人。全員第二症状が現れており、救出は不可能、駆除しました」
「了解」
K2は両手に拳銃を持ちながら、左手首に着けてある支給されたウェアラブル端末で現状報告をした。
K2は深刻な顔をする。K2はここまで自身が先頭で率いていたため、出会った感染者の全てはK2が駆除していた。出会った感染者は報告通り、全員が第二症状が表れていた。K2自身、第二症状が表れたウイルス属性寄生型アイディオクス感染者は駆除するしかないということは分かっていた。しかし、同時に、元は人間であったとも言える。つまり、自分の手で人殺しをしている。そうK2は思っていた。だから、引き金を引く度、自分の心にある何かが削られていっているようで怖かった。躊躇いはあったが、引き金を引かなければ、駆除しなければ、この問題も終わらないことは分かっている。だから、K2は戦っていた。
右側の建物の奥から音がしたのに気づいたK2はそれがすぐに感染者であることを見抜く。少し顔を出したあと、勢い良くこちらの大軍に走り出すのが見えたとき、K2はただ右腕だけを上げ、引き金を引いた。命中し、倒れる。それ以降、動くことはなかった。倒れた者の顔はまるで重度のやけどを負ったかのように爛れ、肌は紫色に変色し、まるでゾンビのようだった。
23人目。K2は一回強く目を瞑ると、再び目を開き、前へ歩き出した。
この先、住宅街が広がるエリアまで来る。西府都市のこの住宅街を抜けると、川に沿った大通りに出れる。そして、今まで歩いて来た大通りをそのまま南下すれば、谷保町を繋ぐ橋に出られた。そこでK2は先攻班をそれぞれルートを分けることにした。アクア、ユーキャンの班と出井子、都記奈の班を含めた数班がこの大通りをそのまま南下。他の班は住宅街の中を入っていくことにした。
K2率いる一行は住宅街を進んだ。K2がこの住宅街を進もうと思ったのには理由がある。それは、さっき歩道橋から確認した大きな窪みだ。自分の目で確認してみたかったために、K2自身、この住宅街を進むことにした。
「くっ、数が多い。一体何人が感染したんだ?」
狭い路地を進みながら、物陰から襲ってくる感染者を駆除しながら、K2はそう言った。拳銃を両手に持ち、腕をそれぞれ前に突き出しながら周りを確認する。
この住宅街は思った以上に感染者が多く、流石にK2一人では対応しなかった。と言っても、苦戦することはない。K2の速射にアシュリーの薙ぎ払いでほとんど一掃していたために、出番が回ってこない者もいた。
「よし、行くぞ」
感染者が現れなくなったのを確認するとK2ら一行は次へ進んだ。
K2の家の前まで来ると、そこまでは大きな事件もなく済んだ。一度K2の家の庭で休息を取る。なぜならK2は分かっていたからだ。この後何か良くないことが起きると。もちろん、分かると言っても推測だ。確実ではない。しかし、K2は確信していた。
数分休んだところで、K2らは次へ進むことにした。
引き金を引く。
「一体何人が感染してるんだ? あまりに量が多すぎて、これじゃあ……」
そして、奥の曲がり角にちらっと見えた人影に銃口を向ける。そして、いつでも引き金を引ける状態をとった。
すると、そこから現れたのは一見正常な人のようで、しかし、どこか殺気立っているような、人離れした雰囲気の者だった。一瞬戸惑ったが、それがすぐに第二症状が出ていない感染者だと分かると、K2は右手に持つ拳銃の持ち手の部分を腰のベルトに当て、e波を流した。すると、細い、円筒形のカセットが出てくる。そのまま、ベルトのカセットを入れるポケットに入れ、別のカセットと取り替えた。父親からもらった、対ウイルス属性寄生型アイディオクス専用の第一症状の感染者を救うe波を出せるものだ。すぐにカセットを取り替えたK2は再び銃口を向け、引き金を引いた。真っ直ぐ飛んでいくe波は勢いを殺すことなく感染者に当たる。すると、数メートル先まで近づいてきていたその感染者はその場で倒れた。
「援護班、この者の治療を頼む」
そうK2が言うと、駆けつけてきた援護班の一班がその倒れた者を抱きかかえ、搬送した。
K2は見届けると、再び歩き出した。しばらく歩いていると突然先の道がないのに気づいた。思い返せば、すでにK2たち一行はあの例の場所に来ていることに気づく。辺りは狭い道に高い塀。一軒家の多く建ち並ぶこの場所は陽の光が直に当たらない日陰になっていて、どうも暗かった。
「へックス、あの窪みにどの位の感染者がいる?」
へックスはポケットに入ったまま答える。
「ヤク50ニンデス。カンセンシャイガイノセイブツハカクニンサレマセン」
K2はすぐにこの場を攻略する作戦を考えた。
「ここより先は辛い戦いになる。今の状況としては、この奥の窪みの中に約50ほどの感染者がいると推測される。そこで、まず、俺がそこの道の途切れた崖の上からe波を放って数人殲滅させる。そしたら、俺の合図で先攻班は崖を降りて駆除を行う。その間、援護班にはこの崖の上から攻撃してくれ。作戦は以上だ。これについて質問のある者はいるか?」
数人が首を横に振ると、K2は一つ頷いた。K2は拳銃を腰のベルトに装着すると、窪みの方へ歩いていった。それに続いて、五人の先攻班の者がついてくる。
K2が崖の上に立つ。窪みの中に、まるで隕石が落ちたあとのクレーターのようなその場所の底には数多くの異質な者たちがいた。ずっと立ちすくんだままの者、座っている者、様々だった。しかし、それだけではない。ところどころに感染者が集まっているところがあった。集まっている感染者は、何かを貪っているように見える。そう、その中心には赤く染まった生き物の体の部位だった。しかし、それだけを見ても、何の生き物だか分からない。なぜなら、それくらいまでに体の原形を留めていなかったからだ。だが、K2はその生き物が何なのか、理解する。感染者らが集まっている近くに、人の足のようなものが落ちていたのだ。そこだけ無惨にちぎられたかのように。そう、その生き物とは人間のことだったのだ。
K2は吐き気を催した。しかし、それをぐっと堪えると、同時に、心の底から憤怒する。
いつになく低い声で囁く。
「ヘックス……」
ヘックスがポケットから出てくると、K2の頭上に浮遊した。K2はそれを手で覆うように、両手の平を頭上でヘックスに向けた。そこに、K2はe波を流す。それを感知したヘックスはそのe波を高めた。e波はヘックスを中心に濃縮していく。ある一定のe波が溜まったところで、濃縮し、ヘックスの周りに留まるe波は黒く歪んで見えるようになった。
流石に、強いe波を異変として感じた感染者の何人かはK2らの方を見た。すると、感染者は躊躇いなく、こちらに走ってくる。
「ビッグバン」
収束したe波がまるで限界が来たかのように破裂するように弾丸としてK2の前方あらゆる方向に飛び散った。飛び散ったe波は走って来る感染者に向かって飛翔する。やがて、雨のように降りかかるe波はものすごい勢いで感染者を貫通する。感染者は後ろに飛ばされ、地に寝転ぶ。それが起き上がることは二度となかった。
しかし、これでも、全員を駆除することはない。今も尚接近する者、殺されたことで状況に気づいた者。それらは着実に崖の上のK2らに近づいていた。
「ビッグクランチ」
放ったe波を再び呼び戻す。拡散したe波は導かれるようにK2の元へと集まっていった。その途中、数弾が感染者に当たると、感染者を貫通し、感染者は地に伏せた。
集まってきたe波は再びヘックスを中心に収束する。
戻ってきたe波で近づく感染者を大体殲滅させると、K2はそのe波を投げた。
「スターバースト」
飛来したその先は左の方にある感染者が集まる場所。収束したe波が集まったまま、飛んでいく。走るよりも速い速度で飛来した黒く歪んだe波、K2曰くダークエネルギーは、人を貪る感染者の群れの中央に当たる。同時に爆発を起こした。その爆発で感染者らは各方向へ吹き飛ぶ。同じくして、ダークエネルギーもまた飛び散った。それは、吹き飛ばされた感染者らよりも遠くへ。
「ビッグリップ」
飛び散ったダークエネルギーはそれぞれ小さな爆発を起こし、消えた。その小さな爆発に巻き込まれた感染者はそこで倒れ、死ぬ。
この攻撃で窪みにいた感染者の40%は駆除に成功した。
「よし、行くぞ」
あまりに圧倒的なK2の攻撃に呆気を取られていた先攻班の者たちは、その掛け声で気を引き締めた。それは、援護班も同様だった。
K2は崖を飛び降りる。着地の瞬間、e波を放ち、衝撃を和らげる。体勢を起こすのと同時にベルトの拳銃を取り、速射する。10度の方向に一発。同時に300度の方向に一発。そのまま回転して90度の方向に一発、0度の方向に二発。回転したまま右手で270度の方向に一発撃つと、止まって、最後に30度の方向に一発、右手の拳銃で撃った。約一秒かけて行ったこの攻撃で7体倒す。
そこで他の者も降りてきたので、K2は走り出した。すると、それが合図であったかのように、感染者らも走り出した。殺気を放ちつつ、K2の方へと。
「ちっ、リアルゾンビゲーじゃねぇか」
もう、何人もの感染者を殺していたが、それでも、慣れることのできないK2は罪悪感を和らげようと冗談を言ってみたが、なかなかどうして無意味だった。
K2は波を食いしばり、一歩踏みとどまる。膝を曲げ、脚をバネのように使い、K2は回りながら飛んだ。コマのような素晴らしい回転を披露したまま、拳銃を持った両腕は伸ばし、的確に感染者の頭を撃ち抜く。
着地すると、その動作のまま、K2は拳銃をしまい、ヘックスを呼んだ。ヘックスはK2の胸の前に躍り出る。それに手を添える。
周りには、十数人の感染者。もちろん、一人ずつ相手にしていては骨が折れてしまう。そのことを分かっていたK2は一気に殲滅する方法を取った。
胸の前の手を一気に横に伸ばして開く。それと同時に、K2を中心にe波が球状に放たれた。強力なe波に、触れた感染者は倒れていく。一瞬にして、周りを殲滅すると、K2を中心に超重力が生まれる。それにより、遠くてe波が当たらなかった感染者が引き寄せられていった。K2は両手に再び拳銃を持つ。同時に、ヘックスはK2の真上に移動した。K2は両手を上に挙げ、ヘックスに向かって引き金を引く。
「メテオ!」
放たれたe波はヘックスによって曲がり、まるで雨のようにK2の周りの感染者に降り注いだ。上から貫いていくe波で残りの感染者は次々に倒れていく。キラリと赤い粒が、放射され、やがてそれも止まる。同時にK2もe波の放出を止めていた。
K2は二丁の拳銃をしまい、代わりにリボルバー式の、父親からもらった拳銃を取り出す。K2はシリンダーに込められた弾を確認する。確認し終えると、K2は地面に向けて一発撃った。その衝撃で、飛ぶ。ちょうど後ろから感染者が襲いかかっていたので、K2が急に飛びかかったことにより、感染者は一瞬立ち止まった。それをK2は見逃さなかった。というより、それも計算のうちだった。体を捻らせ、見事なバク宙をするとその勢いのまま感染者の頭を蹴る。
感染者は地に伏せた。うつ伏せのまま動かないでいる。しかし、まだ生きていた。その証拠に、体が軽く痙攣するように動いていたのだ。K2は着地し、シリンダーを回転させ弾を変えると感染者の首に向かって撃つ。その衝撃で感染者の体が一度脈打つと、それ以降動くことはなかった。今度こそ死んだのだった。
またシリンダーを回転させて弾を変えると右にいる感染者の集まったところに銃口を向ける。足を肩幅に開き、右手で持って左手で右手を添えた。そして、容赦なく撃つ。飛来したe波は集まっている真ん中の少し上に留まり、一瞬e波が凝縮すると、すぐに弾けるように爆発した。その爆発に巻き込まれた数人の感染者は重なって倒れた。
K2は右手の人差し指を伸ばしてトリガーガードでクルクルと回すと、グリップではなくバレルを持った。そして右腕を挙げて、襲いかかってきていた感染者をグリップで殴った。衝撃で倒れたところを、足首を掴んで剣を振り回しているアシュリーの方に投げる。そして、切られた。
K2の周りにいるウイルス属性寄生型アイディオクス感染者は殲滅され、振り返ると、たった今最後の一体を駆除しているところだった。難なく数十体の感染者を殲滅し切ると、流石にみんな疲れを見せていた。K2はここで、休憩を取ることにする。
数分休憩すると、また動き出すことになった。K2は次の動きを指示する。
「アシュリーたちの班は、この先の住宅街の中を、俺らの班は川の方へ向かって南下。これで行こう」
全員頷いて、次に進むことになった。
「K2、頑張れよ!」
歩こうとすると和也が声をかけてくる。
「お互い、な」
そう言って、和也と拳を合わせると、K2は班のメンバーと南下を始めた。この窪みから出るために、崩れかけの階段を登ってアスファルトの道に出てから。
黒いアスファルトは妙にキラキラしていた。




