広がる闇に煌めく光 19
K2は西府都市の自宅に来ていた。それは自転車のパンク修理のためである。長期休暇に入る前、K2は自転車のタイヤををパンクさせ、西府都市にある家に自転車を置いていたのだった。K2は親が修理してくれるだろうなんていう淡い期待を持つことはなかった。だから、ここに来たのだ。思ったとおり、自転車は修理されていなかった。
K2は玄関先で修理を始める。今日は、曇り。雨が降りそうな天気であり、K2は早めに作業に取り掛かった。まずはパンクをした後輪を外す。そして、タイヤレバーでリムからタイヤを外していった。タイヤの中にあるチューブを取り出して、新しいチューブと取り替える。チューブに少し空気を入れ、リムにセットし、タイヤレバーでタイヤを元に戻す。
その時、ポケットで携帯端末が震えた。取り出すと、特攻部部長から電話がかかってきていた。
「はい、もしもし、柿川です」
「出てくれたね、単刀直入に言う。出動だ」
K2は、やっぱり、と小さく呟いたあと、ひとつ笑って、はい、と答えた。
「それでだ、K2。今どこにいる?」
普段そんなことは聞かれないので、K2は一瞬戸惑った。
「えーと、西府都市にいますが……」
K2は最後パッとしない感じで答えると、その返答は予想外だった。
「そうか! ちょうどいい!」
とうとう、よく分からなくなってきたK2は電話越しに首を傾げる。小さく、ん? と言ったのが部長には聞こえたらしく、あくまで同じ口調で付け加えるように説明した。
「実はな、今日の任務の集合場所が西府都市駅なんだ」
K2は、なぜ? と聞こうとしたが、部長がそのまま話を続けたため、K2は押し黙っていることになった。
「というのもな、今回の任務は西府都市と谷保町の境にある川の西府都市側の近辺、つまり、西府都市の南側に発生したウイルス属性寄生型アイディオクス感染者の駆除なんだ」
そこで、K2は今回の任務内容に聞き間違えがあると思った。
「今、駆除って言いましたか?」
淡々とした声で部長が答える。
「ああ、駆除だ」
K2は恐ろしいことだと感じた。なぜなら、ウイルス属性寄生型アイディオクスの感染者であろうと、助けることができるからだ。第一症状であれば救うことが可能だからだ。それなのに、今回の任務は駆除。つまり、殺せと言っているのだ。
これはK2にとって、いや、駆除に当たるアイディオクス特攻隊からしてみても酷な任務だった。K2はここで一つのことに気づく。もしかしたら、だからこそ、この任務はトップランカーに回ってきたのかもしれないと。
K2はなぜ救助ではなく駆除なのか聞いた。
「それはな、今回駆除する感染者がもう手に負えない状況になっているからだよ。つまり、第二症状が表れている感染者ばかりなんだよ」
最悪だった。K2が予想する中で最も酷いものだった。もう、これにはK2も納得、いや、諦めるしかなかった。
「分かりました。それで、時間と場所は?」
もちろん、集合のことだ。
「ああ、30分後に西府都市駅北口だ」
「分かりました」
そして、K2が電話を切ろうとすると、部長が最後一つ言った。
「今回の任務は特攻部と調査部の合同任務だ。指揮はK2、お前がやってくれ」
K2はその言葉に驚く。そして、反論しようとしたが、そこで切られてしまった。電話が切られたあと、K2は今回の任務がかなり重要で、しかも、酷であることを理解した。
K2は準備を済ませると、家を出た。駅までは歩いて10分ほどである。
西府都市駅前には大きな歩道橋がある。その歩道橋は何が大きいかって、とにかく高いのだ。そう、無駄に。高さ約20m。しかも、階段が急で傾きが約 50度もある。バリアフリーのバの字も感じさせないような歩道橋なのだが、市として、これは壊すことができないのだ。なぜなら、地味にこの都市の観光名所になってしまっているからだ。ちなみに、ここで死んだ者は不思議といないのである。
K2はこの歩道橋に上る。ここを渡らないと北口に行くのが面倒であるのはそうなのだが、K2はその他にもこの歩道橋でしたいことがあった。それは、この歩道橋だからこそのことである。そう、つまり、この高さがあるからこそのことであるのだ。
K2は長い階段を上り終え、上まで着くと、ポケットから手の平サイズの単眼鏡を取り出した。そして、部長が言ってた問題の場所、西府都市南側、川に沿った場所を眺める。ぱっと見て特に問題のある場所はなさそうだった。
集合まであと15分になり、そろそろ北口に向かおうと単眼鏡を少し右にずらしたとき、ちょっとした違和感があった。K2の自宅から1kmほど川に行ったところに、高い塀と建物で隠れた場所がある。人通りは少なく、暗い場所だが、今はそこがより一層暗く見えた。それだけじゃない。少しだけ建物が倒壊していた。この位置からでも見づらかったが、しかし、よく見ると、その場所の状態は明らかになった。建物は倒壊し、アスファルトの道は無くなっている。それどころか、その場所だけ窪んでおり、人為的な何かがあってそうなったとしか考えられない状態になっていた。
違和感はそれだけじゃない。町にあまりに人が少なすぎるのだ。この時間、外出している人が全然見当たらない。見えても数人だった。しかも、その者にはある共通点がある。それは千鳥足で歩いているということ。その様子にK2は見覚えがあった。それは……。
集合まで10分になったところで、K2は北口に向かった。北口にはすでに部長がいた。特攻部と調査部のアマチュアからトップランカー格の部長が揃っていた。他には誰もいない。
「こんにちは」
恐る恐る挨拶をすると、厳粛した雰囲気を保ちつつ、部長らは挨拶を返す。あまりの厳かさに、K2は急に緊張した。それを察した調査部の部長はK2に近寄ってくる。
「K2、今日のことについてなんだが……」
話の内容は至極真面目なことだった。元よりK2は緊張を解いてくれるだろうなんていう淡い期待はしていなかったが。調査部部長の話はこうだった。今回の任務の作戦をK2に考えて欲しいとのこと。今回はアマチュアからトップランカーの特攻部と調査部の合同任務。しかし、その中心はトップランカーが担うということ。
K2は特攻部と調査部の両方に所属しているため、両部署のトップランカー格の技量や癖を把握している。そして、K2自身、研究部と関わりがあるため、今回のターゲットであるウイルス属性寄生型アイディオクスのことについて詳しく聞いている。そして、何より、オノラリーナイトである。
これにより、K2が作戦を考えることになったのだった。
K2は今回の作戦を部長らに伝えると、一つ頷き、満場一致でその作戦に賛成した。
数分してすぐに特攻部と調査部のトップランカーが全員揃った。すると、調査部部長が全員に聞こえるように声を張る。
「今から移動する。ついて来てくれ」
そう言うと、全員に揃って歩き出した。K2らトップランカーは部長について行くという形で。K2は歩いている間ずっと厳しい顔で考え事をしていたので、他の者は話し掛けようにも話しかけられなかった。
「あ、そうだ。今更言うのもなんだけど、こちらで用意する君専用のe波専用機器はなしでいいよね? 見るに、しっかりと装備してきてるようだし」
途中、特攻部部長が思い出したかのようにそんなことを言ってくる。それに対してK2はなんだか自分だけという気持ちにはなったが、しかし、確かに、ちゃんと装備をしてきたのは確かで、他になにか必要もいうわけではなかった。運動用の上下に上着、靴、そして手袋。どれもがe波増強装置となっている。そして、ポケットにはヘックスと、ベルト。そのベルトにはe波仕様の拳銃二丁と、つい最近父親にもらった拳銃一丁。そして、太もも辺りに拳銃の属性を変えるカセットが複数個付けられていた。そして、脇腹のポケットに携帯端末が入っている。準備万端だった。だから、K2は、大丈夫です、と答えたのだった。
そんな会話をしていると、目的地に着いた。アイディオクス特攻隊特攻部倉庫。トップランカーは一度も使ったことはなかったのでこうして西府都市駅北口に集合してここまで来たということだった。
倉庫には、すでにアマチュア格とエキスパート格の特攻部と調査部がいた。各人の装備はすでに終わっていて、いつでも出撃できるように待機していた。
すると、部長が十数人のトップランカーをそれぞれ呼び、各自の専用の機器を配給した。アシュリーは例によっていつもの大剣で、それを目にしたアマチュアとエキスパートは目を丸くする。しかし、K2が目をつけたのは別の者だった。
「ユーキャン、そんな大きいの持ってたっけ? というか、それ何?」
アシュリーには劣るが、身長ほどの大剣を備えたユーキャンが立っていた。
「ああ、これ? 見たことなかったっけ? まあ、大剣だよ」
そう言って笑った。なにか隠していることにK2は気づいていたが、言及することはしなかった。
個人配給は終わったところで、全体、整列する。いよいよ、作戦が始まると思うと、K2は緊張した。
アマチュア、エキスパート、トップランカーの順でそれぞれ特攻部、調査部で並び、その前には部長らが横一列に並ぶ。
特攻部部長が前に出てきて、話す。その内容は、今回の任務の内容だった。その時に全員に渡されたのが、時計型のウェアラブル端末。時計はもちろん、伝達機能にe波増強機能も付いた優れものだ。
渡されたあと、別の話に変わった。それは、さっきK2の考えた作戦のことについてだ。部長はK2の言った通りの作戦内容を伝えた。
その後、グループ分けを行った。ひと班3人ほどのグループを作る。そのグループはランク別に分けられていた。つまり、トップランカーはトップランカーでグループになっていたのだ。そして、各班には役割がある。それが今回の作戦だ。まずは先陣を務める先攻班。そして、それの護衛をする援護班。さらに、先攻班が切り開いた場所を守る後攻班。そして、指令班にそれを守る守護班だ。先攻班はトップランカーのみで務めることになっている。そして、指令班は部長らが務めることになっていた。
K2は特攻部の月鎌と古坂の三人のグループで先攻班を務めることになった。同じ先攻班には、アシュリー、和也、山田の三人とアクア、ユーキャンの二人もいた。
グループ分けされたところでとうとう作戦が始まる。みんな緊張して、自然と会話も少なくなっていた。緊迫した状況で各人、必要な体形を取っている。場は厳かだった。
列の先頭にいるK2が叫ぶ。
「作戦開始!!」
それを合図にアイディオクス特攻隊特攻部と調査部は歩き出した。




