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アイディオクス~i-Deox~  作者: ヨウ化カリウム
広がる闇に煌めく光
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広がる闇に煌めく光 16

 K2にはもう寝正月は訪れない。それを予期させたのは調査部の仕事の電話だった。招集がかかったのだ。場所は立塔駅。西府都市駅の次の駅だ。

 K2は電車を乗り継いで向かった。立塔駅に着いて改札口を潜ると、そこには部長がいた。しかし、いるのは部長だけだった。

「遅いぞ!」

 部長の眉間にシワが寄っていた。

「すみません!」

 K2は全力で謝る。すると、部長はさっきの怒った表情がなくなり、ニコっと笑った。

「なんてね。K2にはちょっと遅れて連絡したんだ」

「えぇー!」

 そんな声を出しながら、ヘナヘナと力が抜け、自然と緊張がほぐれた。

「なんのために?」

 K2が聞く。すると、部長は笑顔を消し、真剣な顔になった。同調してK2も真剣な顔になる。

「もう、すでに、他の者は任務に当たっている。もう聞いているとは思うがウイルス属性寄生型アイディオクスが流行している。そして、ここでも現れたんだ。他の者が当たっている任務というのは、情報の収集と感染者の確保だ。酷い場合はアイディオクスなら殺してもいいということになっている」

 そのとき、K2は衝撃が走った。殺してもいい……。元は人間だというのにもかかわらず、アイディオクスに感染したら殺される。それが非合法で非人間的だと思い、K2は少しの怒りと何もできない悔しさがあった。

「それで、君の質問の答えだ。君には他の者とは少し違う任務をやってもらおうと思っている。任務はいくつかあるが、その内の一つはもうすでに遂行している。なあ、K2。ここに来たとき、何か異変はあったか?」

 K2はここまでの経緯を思い返す。

「いいえ、なかったです」

「そうか。K2にやってもらったのはここまでの異変の確認。そして、これからやってもらうのは、ウイルス属性寄生型アイディオクス感染者の確保だ。それともう一つ。これはK2を単独行動させる理由の一つでもある。実はな、破壊予告が来たんだ」

 K2は目を見開いた。

「この立塔駅を破壊するというな。誰が予告したかも分かっている。それは、この地元の不良だ。そして、ここ最近この地元の不良の様子がおかしいらしいんだ。恐らくはウイルス属性寄生型アイディオクスの仕業だろう。この二つには関連があるように見える。そこでK2。君には他に任務として、予告の犯人の確保と破壊を未然に防ぐこと。そして、万が一のときの一般者の安全確保だ。いいな? 期待しているぞ」

 部長がそう言ってK2の肩をポンと叩くと、K2は笑みを見せ、分かりました、やってやりますよ、と言った。


 と、言ったものの、K2は何の情報もなしに宛もなしにただ立塔駅の下を歩いていた。

 立塔駅は改札口が二階にあり、そこは建物内で、改札口の周りにはコンビニが入っている。そして、東西に外に出れるようになっていて、そこには歩道橋のような踊り場や道がある。もちろん、下には道路が通っている。東側の歩道橋を真っ直ぐ行くと大きな公園がある。駅の下は薄暗く、しかも、まちまちと柵があるだけで、これと言って何かあるわけでもない。

 そして、地元の不良はそこに集まる。だから、K2はそこを歩いていたのだが、これと言って異変や異常は見当たらなかった。

「爆破予告か……。やっぱり、デマなんじゃないのかな……」

 そんなことを呟いていると、いかにも不良っぽい不良とフードを被り、顔がよく見えない者が植木の向こうで何かやり取りしているのを見つけた。それをじっと見ていると、フードの者が不良にアタッシュケースを手渡ししていた。

「ヘックス。あのアタッシュケースの中身とか解析できるか?」

 すると、ポケットに入っていたヘックスが出てくる。

「イイエ、カイセキハデキナイデス。シカシ、アイディオクスノハンノウガアリマス。マタ、ゼンポウウエキオクノフタリカラモドウケイトウノアイディオクスノハンノウガミラレマス」

 ヘックスのその言葉にK2は驚愕した。つまり、あの不良とフードの者はどちらもアイディオクスであるか、ウイルス属性寄生型アイディオクスに感染した者だということになるからだ。そして、アタッシュケースの中身もアイディオクスだという。これはもう、ウイルス属性寄生型アイディオクスであると言っていて、あの二人もまたウイルス属性寄生型アイディオクスに感染していると言えるのだ。

 K2は猛烈な勢いで走る。そして、植木の間をくぐり抜けるように飛び入ると、すぐ二人の前に来た。もちろん、二人は突然のことに驚いた。そこをすかさず、K2は右手を二人に向けた。確保が目的なので、e波を使ってでも、殺すというのは最終手段だ。だから、K2は脳しんとうを起こさせようと、e波を乗せた衝撃波を放った。波紋を広げるように、確実に二人に接近していく。その時、フードの者は薄ら笑ったようにK2は見えた。フードで顔は見えなかったが、その不気味な笑顔だけは視認できた。すると、フードの者は左手をK2に向ける。その動作と同調して、K2の放った衝撃波は消えた。

「!?」

 当然、K2は驚いた。しかし、それと同時にこの現象をどこかで見たような気がした。

 フードの者はバックダッシュした。

「チッ!」

 K2が舌打ちをして追いかけた。思い出しかけたその現象を一度頭の隅に置いた。フードの者は一気に10mほど下がる。K2は走って追いかけながら右手にe波の刃を作る。そして、左肩の前に持ってくる。

 フードの者までわずか1m。K2はe波の刃でフードの者を切る。

 シュアッ!

 しかし、手応えを感じられなかった。目の前のフードの者は後方に飛び上がり、50m先で10mほど浮いていた。K2が見据えて左足を一歩前に踏み出すと、そのフードの者はスっとどこかに飛び去っていった。

「ちっ! 逃がしたか……」

 K2はそう言って振り向いた。そこには逃げずにいた不良がいた。が、その不良はただ立っているだけではなかった。アタッシュケースケースを開けてその中に入っていた注射器を取り出していた。

 K2はすぐにそれはさせてはいけないことだと思い、走りかけたとき、その不良は躊躇せず、その注射器の針を腕に勢い良く刺した。かなり太い針で腕からは赤い液体も出ているのにも関わらず、その不良はまるで快感であるかのような顔をしていた。

 注射器に入っていた黄緑色の物体は止まることなく少なくなっていき、K2がその不良まで走っていくまでにはすでになくなっていた。

 K2は踏み止まる。目の前の不良の目が血走り、まるで殺人鬼のような雰囲気を醸し出していた。

「ドラッグかよ……」

 K2が呟くと同時に不良は手に持っていた注射器をK2の方に投げつけた。速いスピードで迫ってくる注射器をK2は手で受け取る。一瞬どうしようか迷ったが、重要な資料になると思い、ポーチにしまった。すると、間髪入れずに落ちてるアタッシュケースを拾い上げた不良はまたしてもそれを投げた。流石に形状的に取るのは難しいと思ったK2はe波を放ってアタッシュケースの水平方向の運動を殺した。もちろん、アタッシュケースはその場で落ちる。

「ははっ。ヤンじゃん。笑える」

 K2はそう言って笑うと、カバンに、朝買ったあんぱんがあることを思い出した。

 K2はあんこがあまり好きではなかったのでなぜあんぱんを買ってしまったのか分からなかった。

 カバンからそのあんぱんを取り出すと、不良に投げつけた。しかし、不良にあんぱんが当たりはするけれど、それ以外に何もなかった。

 あんぱんに何も効果がないと知ったK2は右手を前に突き出す。そして、e波を放とうとした。しかし、出来なかった。なぜなら、それと同時に不良はK2の方へ猛烈なスピードで走ってきたからだ。それに威圧され、K2は一瞬体が強ばる。その隙を見て、狂った不良は闇雲に襲いかかってきた。K2は体勢を立て直し、不良の右手首を右手で掴み、勢いを殺さずに、不良を後ろに払いながら、不良の右側から背中の方に回った。そして、左手で襟を掴み、体勢を崩した不良を引き寄せる。そのまま、K2は不良とは逆の方向を向き、互いの背中が合わさると、K2は膝を曲げて重心を落とし、襟を掴んだままの左手を勢い良く前に持っていって、背負い投げをした。投げている途中、手を離したので、K2の前方2mくらいまで飛んでいった。

「それいけ!」

 不良は投げられると、回避できずに、硬いアスファルトに叩きつけられた。それによって、少しの間怯んでいた。

 その隙を見てK2は周囲を見ると、この道は一般人も少しだけだが通ることに気づく。流石にここで乱闘するのは危険だと判断したK2は元々K2がいた植木の向こうに走っていった。こっちの方は、腰あたりまでの高さのフェンスと他に何もない土地。しかも、立塔駅の下で薄暗いため、人はいない。ここでなら戦っても、一般人に被害が及ぶことは少ないだろう。と、K2は考えたのだ。

 K2は服の下から首飾りを取り出した。笛の付いた首飾り。以前一度だけ銅属性亜巨獣型アイディオクスの時に使ったのだ。父親からもらった笛。アイディオクスを誘うという、そして、実証済みのそれをK2は使った。

 すると、不良改めウイルス属性寄生型アイディオクス感染者はすくっと起き上がると、最初は千鳥足で、やがて、猛ダッシュでK2の方へ走ってきた。

 K2は暗くて誰もいない方へ走る。フェンスを飛び越え、走る。数十メートル走ると、K2は後ろを向きながら止まった。

 K2が止まったことにすぐに気づいたウイルス属性寄生型アイディオクス感染者はまるで獣のように飛びかかって来た。K2は右手で感染者の左手首を掴み、後ろに引っ張りながら、後ろに回って右手で背中を押した。感染者は数歩勢いで前に駆け足で進み、止まった。そして、後ろを向く。

 二人の距離は約1mというところまでK2は歩いた。感染者は振り向く。と同時に回し蹴りをしてきた。蹴りの狙いはこめかみ。瞬時に見抜いたK2は少しだけ顔を引く。K2の顔の目の前ギリギリをかすめた蹴りは、K2の左側に弧を描いて落ちていく。半身になっている感染者の太ももの裏をK2はすくい上げるように蹴る。それと同時に感染者の足元にe波を展開する。摩擦力を0にするという空間系のe波だ。感染者はK2が蹴った反動で転ぶ。

 K2は感染者の頭を掴んだ。そして、衝撃波を出す。感染者は脳しんとうを起こし、その場で倒れ込んだ。

 倒れ込んだK2をまるでシェルターのようなe波の壁を感染者を囲うように展開した。これによって、中に閉じ込められたアイディオクスや一般人はそのe波以上の衝撃を与えない限り壊れることはない。

 一件落着、とK2が携帯端末を取り出そうとすると、どこからか呻き声と足音が聞こえた。気づくと、周りにはフラフラと歩き、死んだような目の男性が数人、あらゆる方向から歩いてきていた。

 まさかと思い、ヘックスに聞くと、歩いてきている者は全員、ウイルス属性寄生型アイディオクスに感染した者だという。

 そう、あの笛の音に誘われたのだ。

「おいおい、マジかよ……」

 K2に少しずつ少しずつ近づいてくる不気味な男らを見て、K2はそんな風に言った。K2はどうにかこの状況を覆せるようなことができないかと考えた。もし、e波を流してしまえば、殺してしまう。かと言ってロープなどの捕獲できるものは持っていない。さっきの不良と同じことをしていてはきりが無い。それならば……。

 K2にはひとつだけ、策があった。しかし、今までやったことのないことで、成功するかどうかは定かではないのだ。しかも、失敗すれば、最悪、殺してしまう。

 K2は酷く悩んだ。その間にも刻一刻と感染者は近づいてくる。時間はもう、数秒。襲いかかられればもうわずかしかない。

 やるか、やらないか。K2はヘックスを強く握りながら、葛藤した。

 ザッ!

 地面を蹴る音が聞こえた。その音を聞くと、K2は決意した。

「ヘックス!」

 そう叫ぶと、ヘックスはK2の胸の前に躍り出た。

「スーパーノヴァエクスプロージョン」

 e波を使って衝撃波を生み出す。それが、K2を中心に広がっていった。その衝撃波は次々と感染者を呑み込んでいく。衝撃波に触れる度、バタバタと倒れ込む。そして、近寄ってきていた最後の一人が倒れると、K2はため息をついた。

 K2は安否を確認しながら、倒れた者を一ヶ所に集める。もちろん、手作業で。死んだ者はいなかった。

 K2はその後、他の調査部の者を呼び、その後の対処を頼んだ。

お久しぶりです。ヨウ化カリウムです。

9月に入り、忙しくなってきてしまったため、次話投稿が遅くなります。ご了承ください。

これからもこの作品を楽しく書いていくつもりなので、どうか楽しく読んでいただけたら幸いです。

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