広がる闇に煌めく光 12
「ご無沙汰しております」
K2の曾祖父に挨拶をする。他にも従兄弟に再従姉妹、祖父母など、親戚が集まっていた。
K2のオノラリーナイト受賞をきっかけに祝いをしようと集まったのだった。小さい頃から何度も顔を合わせてはいたが、K2はいつまで経ってもこの少し重い雰囲気に慣れることはできなかった。隣にいる二つ下の弟もまた同様で、挨拶がいつになくぎこちない。
挨拶も済み、とうとう全員来たところで、食事会となった。K2は重苦しい中で食事をする。高級料理なのか、珍しい、見たことないものが運ばれてくる。味もとても良い。のだが、リラックスして食べたいと思った。手は休まず、休めず、料理を口に運ぶ。段々、それが定形であるかのようになってきたところで、料理は終盤、デザートとなった。気づくと、相当満腹状態であることに気づく。少しずつ、場も緩いでいき、元々会話はあったが、賑やかになるまでに話し声は大きくなっていった。それに連れて、K2も質問攻めに逢う。
ようやく話も終わり、食事も終わったということで、最後、記念撮影ということになった。食事会場を出てすぐの廊下にホテルの従業員が置いたひな壇の台にK2の親戚一同が並ぶ。
今日の主役であるK2はもちろん真ん中……だと思ったのだが、そこは最年長の曾祖父が立つこととなった。そして、K2はその隣。
廊下をはさみひな壇の向かいは窓になっている。その前にホテルの従業員が立つ。カメラマンだ。いくつか持ったデジタルカメラを次々と構えて撮っていく。
いきマース。はいチーズ。はい、次いきマース。はいチーズ。
何回続いただろうか。すべてのカメラで撮り終わったあと、K2は一歩前に出て後ろを向く。
「今日は……えっ?」
ひな壇の後ろの壁、取り付けられている小さな窓の奥に人影が見えた。着物姿の……天狗? しかし、格好は確かに天狗だった。そして、両手で持つは日本刀。刃先を左下に向けている。それを円を描くようにしてゆっくりゆっくり上へ持っていく。
「えっ、なにこれ?」
窓を凝視するK2。天狗がこれから何をしようとしているのか。それは直感ですぐに分かった。これはこれから「切る」モーションだ。
刃先が上に向く。
切る? 何を?
そして、K2は目線を下ろす。窓から一直線、そこに立ってたのは曾祖父。
刃先は少し右に倒れる。
「まずい!」
その言葉に親戚一同、K2が窓を凝視していることに気づき、窓を見る。しかし、対策を取る余裕なくして、天狗の日本刀は斜め一直線へと一瞬にして払われた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ……」
天狗が切ったのに合わせて、曾祖父は悲鳴をあげながら倒れ込んだ。体には服越しに斜めに切られた跡があった。肩から背中と胸腹そして脇腹。つまり、線を描くようにして斜めに切り傷があったのだ。
天狗はすぐに窓の縁の外に走るようにして逃げた。窓を向かって左、食事会場の方へ。
窓の方、この廊下の隣は厨房に繋がる廊下になっている。そして、その廊下を抜けると、食事会場がある。つまり、その天狗は食事会場を必ず通らなければならない。そうK2は考えた。
さて、あの天狗の正体だが、あれはおそらくああいうタイプのアイディオクスだろう。あんな怪奇的で魔法的なことはヒトには不可能だが、もちろん、e波を使える者なら別だが、そういうタイプのアイディオクスなら可能だ。
K2がそう考えると、厨房に逃げられないよう、廊下に厨房に行けぬようe波の壁を作った。
K2は食事会場の方へ走ろうとする。
「航太! 頼む!」
曾祖父を手当てする父親がそう言ったので、K2は振り返って頷いた。
「ヘックス!」
走りながらK2がそう叫ぶと、ズボンのポケットから立方体のそれが出てきた。
ドアのところまで走る。
「うわっ、と」
いきなり部屋からホテルの従業員が出てきた。何食わぬ顔をしている。
「すみません」
会釈をすると、従業員も同じく会釈をする。そして、食事会場に躍り出る。しかし、そこには誰もいなかった。食事も全て片付けられており、もはや何もないと言うべきだろうか。
「くっ」
逃がしたと諦めかけ引き返そうとしたとき、外に走る人影が見えた。手には長い棒のようなものを持っている。
「あれだ!」
そうか、窓に映ってたのは外の景色だったのか!
やっと、合点が言ったかのように事を理解すると、K2は再び走って引き返し、外に出た。途中、展開中だったe波の壁を解除する。外はもう真っ暗であった。
前方100m。長い棒を持つ人影を発見。
K2は四肢にe波を流し、宙に浮く。四肢にはe波の刃ができていた。
「よし!」
そう言って走り出した。滑り出すと言った方が的確だろうか。距離は80、50、30と近づいていく。
「うああぁぁぁ!」
K2は右手を引く。K2の雄叫びに走る者は振り向く。その顔は先程と同じ天狗。天狗は振り返り止まり、日本刀を構える。
「遅い!」
K2は一足早く引いた右手を前に突き出した。e波の刃を突き刺した。K2のe波は天狗の胸を貫通する。
「ヘックス! アイディオクスの反応はまだあるか?」
アイディオクスは死ぬと、その独特な「軌跡」は消える。そのため、軌跡の反応次第でアイディオクスの生死が分かるのだ。
「ワズカナガラソンザイシマス」
「そうか」
ヘックスの言葉にK2は右手のe波を増幅させた。すると、天狗は何も言うことなく、その場で崩れるように倒れた。
その後、対処部が到着し、ホテル内では少し大事にはなったものの、死者ゼロ、曾祖父も命に別状はないとのことで事は過ぎた。
しかし、K2と父親はあれが何者であったのかということについて引っかかるものを感じたのだった。




