広がる闇に煌めく光 10
K2は緊張していた。足が震え、心臓もはちきれてしまいそうなほど鼓動が強く早い。舞台裏に待機していたK2は今すぐ逃げ出したい気持ちになった。
連絡が来たのは五日前のこと。西府都市のアイディオクス特攻隊所有の野外ステージにてオノラリーナイトの授賞式を行うという旨のメールが調査部部長から届いたのだった。
そして、その日がやってきたということだ。今は待機室というところで待機しているところである。時間が経てば経つほど気持ちがそわそわしてくる。
さて、壇上には最高司令官が立っている。そして、ありがたきお言葉を聞く。
「……このオノラリーナイトは……」
やがて、授与式に入る。K2は準備室から壇上に入る。緊張した足取りで、しかし、体を安定させて一歩一歩正確に歩く。息は確か、荒れることなく、しかし、静かな状態でもなく。容姿が酷くないよう、顔に余計な力を入れないように心掛ける。
「おめでとう、柿川君。これからも君の活躍に期待するよ」
最高司令官の言葉にK2は、はい! とはっきり答える。そして、賞状と小さな木箱を受け取る。そして、最高司令官に促され、回れ右をする。すると、数百人はいるだろう観客から盛大な拍手を受けた。K2は嬉しくてたまらなくなり、大きな声でお辞儀をしながら叫んだ。
「ありがとうございます! これからも、このアイディオクス特攻隊で人類がアイディオクスの脅威から逃れ、再び安定し、安全な生活が送れるようになるよう、日々努めてまいりますので、どうか、応援、よろしくお願いします」
用意していた言葉ではない。即興だ。普段ならこんなことをスラスラ言えないが、今は違った。
最高司令官の指示により、壇上の端まで歩いて、観客を向いて立つ。
「今回オノラリーナイトを授賞した柿川航太君は次のような功績を残しています……」
長々と最高司令官が台本をチラチラ見ながらK2の功績を発表していく。
終盤の方になってきて、静まり返る野外の観客席に突然女性の悲鳴が響く。観客席の後ろの方、壇上からずっと離れた場所。
その女性の悲鳴が聞こえると、続いて男性の悲鳴、他の女性の悲鳴と広がっていく。すると、そこにアイディオクス特攻隊の者が集まって、一人の男を取り押さえ、どこかへと連れてかれた。
その後、何も起こらなかったかのように式は続けられた。
K2が後になって特攻部部長教えてもらった。あの時何があったのか。女性の悲鳴がなんだったのか。
このことについて聞いたのが特攻部全体会議。
話によると、式の途中に乱入した男は今まで真面目な会社員だったようだが、ある時を境にまるで理性を忘れてしまったかのように狂い出したらしい。それ以降、殺人未遂を繰り返し、警察に追われていた者であったという。
そして、今回、その男は刃渡り30cmほどのナイフを振り回しながら式に乗り込んだところを取り押さえられたという。その男は最初こそ精神科の病院に連れてかれたが、あまりにも異常すぎるということに加え、男から微少な軌跡が見られたということで研究部に引き取られたと聞かされた。
その後はまた追って聞かされるとのこと。
K2はこの後何かあるのではないかと勘を働かせ、胸騒ぎがしていた。
特攻部の全体会議が終わり、廊下を歩いていると、一番最初に部屋を出たはずのアシュリーが前から歩いてきた。K2が前方のアシュリーに気づくと、同時にアシュリーもK2に気づく。
「よう、先に部屋を出たのになんでここにいるんだ?」
アシュリーは不機嫌そうな顔をしてK2を見る。それは鬱陶しいと思っているようにも見えた。どちらにしても、見ていて不快に思う表情だった。
「別にどうだっていいでしょ? ところで、あんた、オノラリーナイトになったようね。ふんっ、どうせ、名誉や権力に溺れるでしょうね。名誉ある称号を手に入れて不名誉になるなんて、皮肉ね。せいぜい頑張ることね」
そう言われたK2は当然ながら黙ってはいなかった。
「なんなんだよ、お前は! 嫌な感じだな! 権力に溺れる? んなことになるわけねーだろ! アシュリー、お前はほんっとうに最低なやつだよ!」
そう言ってK2はアシュリーの横を通って駆けていった。怒りに満ちたその声が木霊する。K2の残像が残るかのように印象強い発言をして、見えなくなっていった。
アシュリーは首を下に傾けながらとぼとぼと歩いていったのだった。




