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アイディオクス~i-Deox~  作者: ヨウ化カリウム
真冬の流れる水の音
3/50

調査部報告会議

 次の日、朝からアイディオクス特攻隊の本所で報告会があった。

 今日は学校が休みなので、朝からなのだ。

 本所は谷保駅から七つ目の駅で乗り換えて、二つ目の駅、未来都市駅周辺にある。

 未来都市駅はたくさん本数がある駅でかなり大きい。駅も綺麗で、未来都市駅を通るみらい線はドーム型のホームで、壁と天井はガラス張り。そして、乗車口となるところはガラスの自動扉となっている。

 みらい線はリニアモーターカーで、かなりのスピードが出せる。

 未来都市駅周辺はかなり発展していて、高層ビルが林立している。自然はほとんどなく、人工物で埋め尽くされている。しかし、景観はよく、道にゴミ一つ落ちていないほど綺麗である。

 K2は未来都市駅を降りるとまっすぐ本所に向かった。


 本所は高層ビルになっていて、東西南北、四つある出入り口前は階段になっていて、階段を登りきった外の踊り場はベンチやビルの中に入ってるカフェのテラスがある。

 そこを通り抜けて北の出入り口からビルの中に入るとフロントとベンチと中央に受付があり、右の方に階段があった。

 ベンチでは本を読んでいる人や楽しく話している人がいた。

 右の方の階段の前には駅の改札口のようなものがあり、アイディオクス特攻隊関係者しか入れないようになっていた。

 K2は階段の方に向かい、カバンから承認カードを取り出すと、改札口のようなものにあるカードタッチにカードを置くと小さな扉が開いた。

 通り抜け、階段を登ると自動扉があった。

 扉の右横の壁にカードタッチがあったので、カードタッチに承認カードを触れさせた。扉が開いたので、そこをくぐる。

 今回報告会議があるのは23階の会議室。

 廊下を進みエレベーターに乗ると扉の右側にある23の数字を押した。


 会議室の前に来ると焦げ茶色の木製の両開き扉を押した。

「おはようございます」

 軽やかな挨拶に、会議室にもうすでに来ていた調査部の人が挨拶を返した。来ていたのは部長と都記奈と同級生で今回の調査で聞き込みをしていた竹富出井子だった。

「よう、都記奈、出井子。聞き込みの二人が揃ってどうしたの?」

「いや、たまたまだよ。ねえ、都記奈」

「ええ。でも、どうせなら打ち合わせしておけばよかったね」

「そうだね」

 話が二人の世界になり、入る隙もなかったので向かい合わせになった机の端のほうの席に座った。

 二人とは対面している。扉とは反対側の電子ホワイトボードがある方の二つある議長席の一つに部長が座っていた。

 椅子は彫刻のある高そうな木製の椅子で、K2が座るには少し疲れてしまうような感じだった。

「K2、今回のことはよくやってくれた。素晴らしかったよ」

 いきなり部長から声をかけられたので驚いて、数秒止まったままでいた。

「和也と二人で退治に挑ませたことは悪かった。もっと早く駆けつけることもできただろうに……」

 長い髪で顔が少し陰った部長がそこにはいた。

「いえ、そんな。むしろ謝るとしたらこちらです。退治できずに逃げられてしまって。もう少しかんばっていれば……」

 最後の一つを焼き切って、核を壊せたかもしれないのに。

 しかし、それを言うことができなかった。言葉が詰まってしまった。

 K2も顔を下に向けたところを、いや、いいんだよ、よく頑張ってくれたね、といって部長はK2の頭に手を乗せた。

「確かに、逃がしたかもしれない。君の実力なら、駆除も可能であったかもしれない。でもね、アイディオクスの胎内に入ろうなんて勇気はなかなか出ない。最大限のことをしたんだろう? なら、いいじゃないか。よくやってくれたね。ありがとう」

 K2はただただ頷いた。顔を上げられなかった。

 今顔を上げたら泣いてしまいそうだったから。泣くのを必死に堪えた。

 反対側に座っていた二人は黙ってひたすら何かを書いていた。


「おはようございまーす」

 数分後、扉が開く音と共に、気持ちがいいくらいの高い声が聞こえた。

 その時にはもう顔を上げていたK2は挨拶を返す。

「アクア、おはよう。ユーキャンもおはよう」

「おはよー」

「ああ、K2、おはよう。みんなもおはよう。部長、おはようございます」

 もうすでに部屋に入っていたアクアとちょうど扉を押しているところのユーキャンが挨拶をした。二人はK2の隣に座る。

「二人、一緒に来たんだね。どうせなら誘ってくれればよかったのに」

「いや、途中で会ったんだよ。別に待ち合わせとかはしてないよ?」

 カバンを置き、椅子に座ろうとしているアクアがそう答えた。

「なーんだ、そうなんだ。でも、一人でここに来たのは少し寂しかったよ」

「ふふっ、それは悲しいよね。アクアと一緒に来れてよかった」

 悪戯な笑みを浮かべながら、ユーキャンはK2にそう言ってきた。

「ユーキャン、俺の事可哀想とか思っただろ?」

「そうでもなかったらこんな言い方しないよー」

「あーそう、そういう事言っちゃうんだー。知らないよー? 後で絶対復讐してやるから」

「さてさて、何をしてくれるのかなー。楽しみだなー」

 ユーキャンと笑顔になりながらそんなことを言うと、周りも一緒に笑っていた。


 報告会議に出席するメンバーが全員来た時にはいつの間にか都記奈が居眠りをしていた。

「おい、都記奈を起こしてやってくれ」

 部長の言葉に出井子が反応した。

 出井子が肩を揺らし起こすが起きる気配がまるでない。

「起きて! もう始まるよ!」

 さらに強く揺らし、耳元で声をかける。

「……うぅん、もう会議は終わった……」

 これからだから!

 というみんなのツッコミが入ったところで出井子がいよいよ本格的に両肩を揺らし始めた。

「起きなさい!」

 やっと目を覚ました都記奈はえ、もう始まるの!? といって慌てて机の上を整理した。わたわたしていた。

 やっと目を覚ました都記奈を含め八人と部長で会議が始まった。

「よし、都記奈も起きたところで始めよう。分かる通り、昨日の件についてだ。じゃあ、河村、よろしく」

 部長の隣の、議長席のもう一つに座っていた河村は、はい! といって立ち上がった。入れ替わるようにして部長は椅子に座る。

「と、いうわけで、まずは……」

 河村が軽快に話し始めた。

「昨日の調査で目立つことは何と言ってもアイディオクスが出現したことです。では、まず、全員タブレットを出してください」

 調査部に配られてある、A4サイズの調査部専用の電子タブレットをカバンから取り出した。取り出すと新着メッセージが来ている。送られた日時は今、河村からだった。

「今みんなに送ったメッセージは、昨日のアイディオクスの属性、形態、出現時間、消滅までの時間、場所、そして添付ファイルで写真と出現から消滅までの動画です。今、一通り目を通してください」

 送られてきたものはアイディオクスの体長や物質など、細かいところまで表記されていた。写真はあらゆる角度から撮影されていて、動画は水保駅からズームで撮った一部始終であった。

 一通り見たところで、河村が話し始めた。

「そろそろ、確認し終わったかな。じゃあ、こっちのホワイトボードを見てください」

 そう言うと、ホワイトボードに映像が投影された。

「これは添付した動画と同じものです。まず、見てください」

 そう言って動画を進めると、少し再生したところで一時停止した。

「ここのところを見てください。小さな水の山が見えると思います」

 と言って指したのは、田んぼだった。

 確かにそこには最初はなかった水の山ができていた。

「もう少し再生してみます」

 と言って、さらにまた進めると、少し経ったところでまた止める。

「先程よりも大きな水の山ができていることが分かります。そして、地面付近、水が吸い上げられているのが確認できます」

 またコマを進めた。

「そして、徐々に山が大きくなると、水の柱ができ……」

 そして、アイディオクスが形を成したところで動画を止める。

「アイディオクスが姿を現しました。そして……」

 動画を早送りすると、動画が終わる数分前で止めた。

「地面のところを見てください」

 と言い、そこを指差す。

「倒れたあと、この部分で地面に向かって水が流れ出しています」

 というと、動画をまた再生した。再生させながら、

「そして、徐々に水装甲が小さくなっていき、やがて消滅しました」

 と言った。河村が動画を消すと

「この水属性巨獣型アイディオクスはおそらく一定量の水を得ることにより活性化し、一定量まで水を失うと不活性化するのだと思われます」

 と自身の考察を言った。

「これで指令班、監視班の今回出現したアイディオクスについての報告は終わりです」

 二班合同の発表だったんだーと思ったK2は次は自分たちの班が来ると思い、和也と目を合わせた。同時に頷くと、河村が案の定K2たちの班を名指しした。

 今回の発表は和也がすることになったので、和也が立って話し始めた。

「今回出現したアイディオクスについてです。今回僕たちはアイディオクスの駆除を試みました……」

 和也が話しているとき、隣ではアクアがタブレットに接続したキーボードを叩いていた。

 書記の仕事を見て、よくやるなぁと思った。

 報告されたことをタブレットにメモしていく。

 アクアのかなり早いタッチを見て、少しばかり感動していた。

 いつの間にか和也の話は終わっていて、みんなはなにか考えている。

「なるほど、やっぱり、逃げられたんだな、あれは……。じゃあ、次現れるときは核膜が一枚の状態なのかな……?」

 河村が自分に問うように言っていた。K2はそれに自分の考えを答える。

「いや、一枚で出現することはないと思う。きっと、再生して核膜が四枚になって現れると思う」

「厄介だね……」

 今までキーボードを叩いていたアクアがそう答えた。

 話を切り替えて、河村が事情聴取班を名指しする。

 事情聴取班の都記奈が近隣の方から聞いたことを話していたが、K2はさっき送られてきた動画と画像を見ていた。

 気づくとどの班も報告は済んでいて、全体からの意見を聞いているところだった。

「これまでの報告から何か意見等はありませんか?」

 K2は静かに、しかし鋭く手を挙げた。

「ん、何かあるのね。どうぞ」

 K2はゆっくり立つと自分の思っていたことを言った。

「水保駅周辺の警戒レベルを上げるべきだと思います。もしかしたら、またあの周辺で出現するかもしれないからです。というのも、情報部が手に入れた情報は水属性巨獣型アイディオクスと考えていいでしょう。そして、今回現れたアイディオクスとはおそらく同一でしょう。二回も同じ場所で出現したのです。またこの場所で出現する確率はかなり高いと考えられます」

「なるほど。確かに、そう考えられるね。それで、具体的にはどのような対応を?」

 河村がそう反応した。

「対応について考えたのは、監視部によるアイディオクス発生感知機の設置と近隣の住民の一時的避難です」

 みんなは驚いた顔をしていた。

「ほんとにそこまでする必要はあるの!? 出現する確率だって100%じゃないのに!」

 都記奈は立ち上がってそう言った。

 そうなのだ。監視部によるアイディオクス発生感知機の設置というのはよっぽどのことがない限り行われない。なぜなら、それの設置はその場所の磁場を大きく狂わせてしまうことがあるからだ。それにより、アイディオクスの活性化を誘発する可能性も出てくる。

 相当のことがない限り、この対策は行われない。

 そして、住民の避難も同様だ。アイディオクスが出現する確率が低いのに、しかも、いつ現れるか分からないのに避難させることはできない。

 しかし、K2にはそれらをしなければならないと言える理由があった。

「必要あります! それを証明するために、先ほどみんなが見た動画を見てみたいと思います」

 と言うと、K2はホワイトボードの前に来て、河村にさっきの動画を出してもらうよう頼む。動画を出してもらうと、アイディオクスが消滅するところまで早送りした。

「この部分を見てください」

 そう言ってアイディオクスが消滅した場所の地面あたりを指さした。

「このあたり、極微小ですが風が吹いてます。しかも、この部分だけ。風の吹き方はこの部分を中心に円形に外に吹いています。しかも、このあたり、陽炎のようなものか見えます。しかも、ここ円状に直径1mあたりのみに。そして、少しずつですが周りの土が乾いたような黄土色になってゆくのに対し、この部分だけ湿ったような焦げ茶色になっていっています」

 すると、K2は再生したままの動画を早送りし、止めた。再生したままの動画を指しながら、また話し始める。

「これは、さっきのところから20分経った時点です。先ほどの現象が見られる部分は場所として全く動いていません。しかし、湿った土は広がっています。これはアイディオクスがこの場所で成長していると言えるでしょう」

 ここまで言うと、部長が立って、K2の話に肯定するように言った。

「なるほどな。確かに、またここに出現する確率は非常に高い。実はこの水属性巨獣型アイディオクスは数年前にもここで現れたことがあったんだ。そして、今回もここで現れた。しかも、この動画を見る限り、アイディオクスの再生時間もそう遅くないだろう。不活性化時のアイディオクスにはe波も効かないし、見えもしない。なら今できる最高の対策をするべきというK2の考えを採用することにしよう。今回のこのことの報告に加え、監視部、対策部に私から依頼しておこう」

 全員揃って、はい! と答えると、河村が次に繋げた。

「他、意見等ある人はいますか?」

 手を挙げる者はいなかった。

 そして、会議は終わり、解散となった。

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