広がる闇に煌めく光 6
部屋に日差しが指す。K2はゆっくりと覚醒していく。目が少し開くと、途轍もない眩しさを感じた。それで一気に目が覚める。
そうか、カーテン閉め忘れたのか。
開いてるカーテンを見て、そう理解する。そして、自分がベッドにいないことにも気づく。リビングのソファに寝ていたK2は体を起こし、伸びをした。リビングは昨日持って帰ってきた荷物の中身が散らばっていて、惨憺としていた。どうにか踏み場はあり、そこをゆっくりと歩いていく。
どうにかキッチンまでたどり着くと、お茶漬けを作った。それをテーブルまで運び、ゆっくりとほおばる。
昨日佐紀ちゃんからもらったメールで、今日の終業式に必要なものは分かっていた。身支度を済ませたK2はすでに用意してあった荷物を持って部屋を出た。
外は肌を刺すような寒さで、K2は一回、身じろぎした。K2は歩き出す。いつもはこのグランディアスの友人と一緒に行っているのだが、今日は学校に早めに行ってやらなければいけないことがあったので、待たずに先に行った。通学路は流石に誰もいなかった。すると、後ろから声がした。
「航ちゃーん!」
その声にK2は後ろを振り返る。そこにはとてとてと可愛らしく走る佐紀ちゃんの姿があった。
佐紀ちゃんが目の前に来ると、お互いに挨拶をする。そこから、二人で学校に向かって歩き出した。
学校の横、正門の正面にある道に直角に伸びている梅並木道を歩いている。そこは流石に人は数人いて、たまに、同窓生に会い、退院祝いの言葉をもらった。
「じゃあ、俺、行くとこあるから、また教室で」
下駄箱前の廊下でK2は佐紀ちゃんにそう言うと、それぞれ、違う道を行った。佐紀ちゃんは階段を上り、K2は廊下を左へと進む。
職員室の隣、会議室に行った。そこにいたのは担任の先生。K2はそこに入ると、数分ほど体の調子等々のことを聞かれた。
質問の最後に、お使いを頼まれ、職員室でプリントをもらい、二階にある放送室までそのプリントを届けた。そして、K2は教室に入る。
「退院おめでとー!!」
パン!パン!
扉を開けると、クラスメイトがその扉の数メートル離れたところでクラッカーを鳴らした。
K2はそのことに大いに驚いた。と、同時に、目に何か熱いものが込み上げてくる感じもした。
「それにしても、終業式だけでも出られてよかったね!」
K2はそう言われて、初めて来てよかったと思えた。
小さく、聞こえないようにK2は言う。
「……ありがとう」
その後は終業式が始まるまで柿川航太退院おめでとうの会と称し、遊んで騒いだのだった。
終業式も終わり後は帰るだけとなった。……はずだったが、K2はまたもやたんにんに呼び出された。放送室で待ってると言われ、K2はその通りに二階の放送室に行く。
「朝と今と悪いね。すぐに本題に入るけど、終業式ってことで学校に置いてある私物は持って帰らないといけないんだよね。でも、柿川君は入院してて全然持って帰ってないから、一人で全部持って帰るのは大変だろう? だから、特別に先生が車を出して手伝ってあげるよ」
ワックスで髪の毛がツンツンしてる男性の担任の先生は、椅子に座って振り向いた状態でそう言った。
「え? いいんですか?」
K2は驚いた表情でそう言う。担任は依然として笑っていた。
「まあ、持って帰らなくなるのも、こちらとしては困るし、特別だよ。ああ、でも、今、少しやることあるから、それが終わったらにして。一時間ちょっとで終わると思うから」
そう言うとK2はただ頷いた。
K2はその一時間を潰すため、放送室の横、行き止まりの廊下を行く。そして、その右側にある重い扉を開けた。そこには大きな空間に、階段があった。目の前にある階段は螺旋を描いて対にある螺旋階段と合流し、一つの階段となって地面へ足を下ろしている。上から見ると、それはまるで消防署の地図記号のような形をしている。階段の幅は3mほどあり、合流したところからは6mはあった。壁や階段は白塗りで、ガラスから白い太陽の光が差し込む。
階段を降りたところにエレベーターがある。そして、エレベーターを取り巻くように幅1m程の螺旋階段がある。それらはガラス張りで少し怖い。屋上に繋がっており、普通の学生はあまり使用しない。
K2はエレベーターに乗り、1と10の二つあるボタンのうち10のボタンを押して、屋上へ上がる。
屋上からの景色は郊外と言うべき景色で自然と人工物の程良く混ざった素晴らしいと言える町だった。もちろん、自然が全くない方がいい人もいれば、自然だけがいいと言う人もいるので、人によっては素晴らしいとは言えないのかもしれないが、ここではちょうど良いものが素晴らしいと言っておこう。
さて、屋上で十分空気を吸ったK2は再びエレベーター乗って、一階へ行った。もし、このエレベーターに2~9階も存在するのなら、九階辺りだろうか、そこに帽子を深くかぶった同じくらいの年の男子がいた。K2は帽子の影で顔はよく見えなかったものの、その者がなぜだか、恐ろしいような狂気じみたものを放っていた気がした。
八階辺りまでエレベーターが降りたとき、ふと上からカンカンという音が聞こえる。不思議なような恐怖のようなそんな感情に包まれながら上を見ると、さっきの少年が全速力で階段を下ってるのが見えた。K2は動く鳥かごの中で恐怖に怯えながら開けるのボタンを連打する。
カチャカチャカチャカチャ……。
もちろん、開くわけもなく、エレベーターは着実に下へと移動する。狂気じみた走りを見せる少年との距離は少しずつ遠くなってはいるが、それでも、K2の恐怖は収まることを知らなかった。驚いたことに少年の体力は落ちていないようで、さっきと同じペースで走り続けている。
やがてエレベーターが一階に着きドアが開くと、K2は全速力で飛び出した。階段を駆け上がり、分裂しているところで左の階段に上る。ちょうど分裂しているところの踊り場のところで少年が階段を上り始めた。依然として走る速さは変わらないが、逃げ切るには十分な間隔は保ってあった。しかし、K2は外に出る重たい扉の方に階段を駆け上がりながら手を向けると、そこからe波を放って扉を開けた。その開いた扉をすぐにくぐり、また扉をすぐに閉めた。
ダンダンダン……。
数秒後、扉を向こうから叩く音が聞こえたが、それもつかの間、すぐに音が止み、少年が扉の奥から現れることもなかった。
気づくとK2は四階の教室前廊下にいた。窓から外の下の道を見下ろすと、通学路の梅並木道が見える。数人の生徒が下校していた。
「あれ? こんなところでどうしたの? 忘れたもの?」
ふと、女性教員が声をかけてくる。
「あ、いえ、今担任が用事が済むまで待っていてくれと言われたもので、こうして校舎内を徘徊して時間を潰してたところだったんです」
女性教員は笑顔で話に頷いた。
「そうなのね。ならどう? 美味しいコーヒーでもいかが?私が担任する教室はちょうどあそこなの。私の教室は別にカフェって訳じゃないけど、安らぐにはいい場所よ、きっと」
そう言って少し先にある教室を指した。
「ああ、そう構えないで。別に私は魔女でもなんでもないから、なにかしようなんて思ってないわ」
冗談ぽくそう言う。
K2はさっきの件もあり、少し体が強ばっていたのを自分でも感じられたので少しリラックスでもしようとこの誘いを受けることにした。
まあ、コーヒーではなく人に惹かれたといえば嘘ではないが。もちろん、下心無しで。
「では、コーヒーいただきます」
一層笑顔を増した女性教員は、結構若いこの女性教員は自分の教室へK2を案内した。
教室は結構綺麗に片付いていて、無駄なものなくさっぱりしていた。窓際にあるコーヒーの作るためのあれこれ以外は。
いつからここはカフェに?
そう思わせるほど手馴れた女性教員の後ろ姿にK2は少し安らいだ。
「はい、お待たせ」
白いカップに黒の液体。そして、コーヒーのほのかな香り。出されたコーヒーを一口啜る。
「うん、美味しい」
K2はコーヒーの味を称賛できるほど味を知ってるわけではないが、その辺のジャンクフードで買うコーヒーより何千倍も何万倍も美味しいのは明らかであった。
「そう、よかった」
女性教員は変わらず笑顔のまま。
その後も会話をし、数十分したところで話しにオチがつき、K2は担任の元へ行くことにした。
「では、そろそろ」
「そうね。またコーヒーが飲みたくなったらいつでもいらっしゃい」
「はい!」
K2は教室から出て放送室に向かった。途中、梅並木道には未だに下校中の生徒がいた。
「せんせー!」
放送室で担任を呼ぶK2。それに応答したのは蚊の鳴くような担任の返事。K2は放送室の奥に入る。ちょうど資料をまとめているところであった。
「あと、これをしまったら終わりだからちょっと待って」
担任はそう言って棚にその資料をしまうとK2の方へ歩いて来た。
「待たせたね、じゃあ、行こうか」
そう言って担任はK2を教室まで促す。着いて、すぐにしたことはK2の荷物を持ってきた大きなバッグに詰めること。しかし、あまりに多過ぎる私物にバッグには収まりきれず、バッグはK2が入りきれなかったものは担任が持った。
階段を降りて駐車場へ行った。自動車に荷物を乗せ、K2は助手席に乗る。自動車は動き出し、やがて家に着いた。
荷物を下ろすと、担任も部屋まで運んだ。
「ありがとうございます」
K2がそう礼を言うと、担任は頭を掻きながら少し照れるように、いやいや、いいんだよ、と言った。そして、担任は自動車に戻り、学校へと帰って行った。
「ふー、ただいまー」
K2はそう言いながら靴を脱ぐ。
「あれ?」
しかし、その感触は慣れたものではあったが、いつも履いてる靴ではなかった。自分の履いているものを確認すると、K2が履いていたのは上履きだった。
俺、これで自動車乗ってたのかよ! 恥ずかしいー。
そう思いながら靴に履き替え、家を出た。停めてあった自転車に乗り、再び学校へと向かったのだった。
「あれ? 先輩? 何してんの?」
梅並木道にて自転車を漕いでいたK2は後輩のサンタマ=ツ=バリアンと出会った。
「いや、忘れ物したから学校に向かってんだよ」
「ははっ、先輩不注意だなー。ダサい」
そう笑うサンタマにK2は少しムカついた。しかし、何も言い返すことはなかった。
「ところで、最近どうだ? 指令とかあるか?」
K2は問う。
「いや、特にないけど?」
「ふーん、エキスパートじゃ指令ないのか」
同じ調査部のサンタマは頷いた。
「そういや、トップランカーはあったらしいね」
「まあね」
少しだけ沈黙が訪れる。それを破ったのはサンタマだった。
「あ、俺、そろそろ行くわ」
「そうか。またな」
そう言って二人別の方向に進む。通り過ぎたときチラッと背負ったカバンに付いている帽子が見えた。K2はそれがさっきの少年と同じものに見えたが、ただの偶然だと気にしないようにした。
さて、正門に着いたK2であったが、昇降口玄関の扉が閉まっていたことを知ったK2であった。流石にどうしたものかと考えていると、おばさんの教師が声をかけてきて、教師玄関を開けてくれるということで校舎内に乗り入れた自転車の向きを変え、教師玄関に向かったのだった。
K2は教師玄関の隣にある教師用の駐輪場に自転車を置き、教師玄関まで歩いた。先ほどのおばさん教師がドアを開けてくれ、K2は校舎内へと足を踏み入れる。寄り道もせずに下駄箱に向かうとすぐに靴を取ってきて、K2は家に帰ったのだった。




