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アイディオクス~i-Deox~  作者: ヨウ化カリウム
広がる闇に煌めく光
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広がる闇に煌めく光 5

 ずっと家に帰らずにどこかに泊まっていると、自分の家に少しばかり変化があることに期待をするものである。どんな些細なことでもいい。例えば、新しい置物が置いてあるとか、部屋の模様替えをしたとか、正月の飾り物が置いてあるとか。

 どうして、期待するかって、それは、きっと、いつも見慣れた風景が少しだけ変わることが楽しいからだろう。変わらないものに変化を起こすと、変化が起きると、やはりそれは、楽しいものがある。ドキドキするモノがある。

 そして、K2もまた同じだった。


 谷保町のK2の家。グランディアスという名前の、ひとつは100階建て、ひとつは四階建ての二つの建物で成る大きなマンション。その「裏」と呼ばれる100階建ての建物の門の前に車が止まった。

「ほら、着いたぞ」

 いつの間にか寝ていたK2は部長のその言葉で目を覚ます。

「あ、着いたんですか。ありがとうございます」

 そう言って、体を起こすとK2は軽くお辞儀をし、自動車から出ようとした。

「あ、荷物は……そこでずっと待ってる女の子が運んでくれるのかな?」

 自動車のドアに手をかけたまま、動きが静止したK2は、えっ? と言って、ドアの窓から門の方を見た。そこに立っていたのは一人の少女。肩より少し下くらいまで伸びる黒い髪。水色のTシャツにジーパン、そして、灰色のパーカーという着合わせ。K2の下の部屋に住んでいて、一つ年上の幼馴染み。そして、特対部議長の高村ちながそこにいた。

 K2が自動車のドアを開ける。

「やあ、航ちゃん。退院おめでとう」

 にこやかにそう言った。ドアが開いたまま、K2が自動車から完全に降りると、ありがとう、とチナに返した。

「ところで、どうしてここに?」

「そろそろ帰ってくる時間帯かなーと思って」

「いや、そうじゃなくて、なんでここで待っていてくれたの?」

 その言葉を聞くと、チナがにこやかに笑う。冬だというのに眩しく見えた。

「きっと、荷物多いだろうなーと思って。一人じゃ部屋まで持っていくの大変でしょう?」

 K2は驚きながらも、気を利かせてくれる幼馴染みに感謝をした。

「では部長、お送りいただき、ありがとうございました」

 荷物を降ろし終えて、部長にそう挨拶をすると、部長は一つ頷き、自動車は発車した。道を曲がって見えなくなると、さて、と言ってK2とチナは大きなカバンを一つずつ持った。


 部屋に着くと、そこはいつも通りだった。正月だというのに、置物一つ置いてない。

 まあ、予想はしてたけどね……。

 K2はそんな風にため息をついた。今日、もう、K2は変化に期待することはしなかった。

「ありがとう、ここまででいいよ」

 部屋の扉の前で大きな荷物を降ろしながら言う。すると、扉の隣、すぐ近くにチナは荷物を置いた。

 荷物の中から鍵を出して、解錠し、扉を開ける。電気のついていない部屋の中に光が差し込んだ。ドアを開けたまま、二つの荷物を持って、中に入る。それに続いてチナも家の中に入っていった。そして、チナが扉を閉めて、玄関に立つ。

 K2は玄関からまっすぐ伸びる廊下を数メートル歩いたところで、振り向いた。

「上がりなよ」

 チナは頷くと靴を脱いで揃え、ゆっくり歩きながら廊下をリビングにつながる廊下を歩いた。

 リビングと廊下の間に一つドアがあり、そのドアをK2は右腕で頑張って開けると、両手に荷物を持ったままリビングに入り、テレビの前にそれを置いた。そして、チナもまたリビングに入ってくる。

 K2はカバンを置いた後、キッチンの方へ歩いて行った。

「ああ、テーブルに座ってていいよ」

「ありがとう」

 キッチンからそう言うと、チナからそう言われる。

 K2はその言葉を聞くと、食器棚から二つコップを出した。そして、冷蔵庫を開けてお茶の入ったポットを取り出す。閉めようとした時、ふと冷蔵庫の中に白い箱があることに気がついた。K2はなんだろうとその箱に目を移すと、そこには貼り紙が貼ってあった。

 退院おめでとう。全部食べちゃっていいから。

 の文字。K2はその白い箱を取り出し、中身を確認する。その中身はホールケーキ。生クリームといちごの紅白で彩られた大きなケーキがそこにあった。

 全部なんて食えねーよ、と苦笑したが、K2は内心とても嬉しかった。退院祝いがあったというのはそうなのだが、期待することをやめた変化がここにあったというのも大きな理由の一つである。

 K2は一回閉じた食器棚の扉を開けて、皿を二つ取り出し、下の方の食器棚からフォークを二つ取り出した。それらをキッチンから外のカウンターに置くと、カウンターからまたテーブルに運んだ。

「これ、なんか冷蔵庫に退院祝いとして入ってたんだけど、一人じゃ食べきれないから一緒に食べない?」

 K2はそう言いながら、取り出し忘れていた包丁を取りに行った。

「ありがとう。それじゃあ、いただきます」

 そう言うチナは目がキラキラしていたのをK2は見逃すことはなかった。


 その後、二人は雑談を混じえながら、この数週間で起こったことを語らった。

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