静寂は遠く遥か
K2は無断で中野駅の次の駅の中野町特攻隊総合病院前という駅から乗り換えをして、水保駅まで来ていた。
今はリハビリ中で外出禁止になっていたのだが、つい水保駅がどうなっているのか気になってこうして足を運んだ次第である。
水保駅はアイディオクスによる危険がないと判断され、再び使用できるようになった。流石は処理部と言ったところだろう。対応が迅速であった。
ここに来るのも数週間ぶりであった。
K2のここの最後の景色はこの駅を囲むようにして噴水のようなものが吹き出ていた。道の真ん中には巨大な水の塊もあった。アイディオクスのことだ。
しかし、今は違う。すでに噴水はなくなっていた。水道管を修理したのだろう。当然ながらアイディオクスもいない。
しかし、未だに変わっていないことがあった。
K2は駅のホームに立って水保駅周辺を眺める。ホームからは周辺の景色が一望できる。
こんな過疎地域にも発展していない地域にもいいところはある。
青い空に浮かぶ白い雲。そして、まるで広いプールのように水を張った地面がずっと奥まで続いていた。
水は空の景色を反射して、上にも下にも雲が浮かんでいた。太陽は少し東に傾いている。キラキラ光る水、そして、青く澄んでいる空。
その景色は圧巻で身を投げ出してしまいたいくらいに美しかった。
アイディオクスが現れたからこそこうなったのだが、アイディオクスなど存在しなかったくらいに綺麗だった。
このどこまでも絶対的に自然的な景色の中に紛れ込むこの古いホームは風情があった。
肌に指すような寒さすら忘れてしまっていた。
風の音が聞こえる。鳥の鳴き声が聞こえる。そして、風に吹かれて動き、流れる水の音が聞こえる。
あの無音空間だったこの場所はこうして静かな柔らかい優しい音を奏でていた。
それはK2の心を打つ。
写真など撮らない。記憶以上の素晴らしい写真がこの世に存在するだろうか? K2は広がる音と景色を記憶に焼き付けた。
やがて、電車が来ると、それに乗って病院に帰っていった。
風と共に音を残す水保駅を後にして。
数十分電車に揺られていた。まだ少し歩くのはままならなかったが、それでも良い景色を見たと思っていた。
「ここまで来た甲斐があったなー」
ふとK2がそう呟く。
病院の最寄駅に着いた。
病院の前で腕組みをして待っていたのは看護師である。
扉の前で笑顔だった。ニコニコしていた。
その笑顔につられてK2も笑顔で歩き出す。
その後K2がこっぴどく怒られたのは言うまでもない。
一章真冬の流れる水の音いかがだったでしょうか?
もしも、楽しく読んでいただけたのであれば幸いです。これからもこのアイディオクスを楽しく書いていこうと思っています。是非また読んでいただけたらうれしいです。
次章はグロテスクなシーンも出ますのでご了承お願いします。




