真冬の流れる水の音 13
フリスビーを終わりにすると、次は公園内にある体育館に向かった。
体育館では、今、男子バレーの試合が行われている。満場一致で見に行きたいということなので、そっちの方に向かった。
全員、自転車に乗った。そして、漕ぎだした。人はあまりいなかったので、横になって、話しながら走っていた。
「バレーかー。俺できないや」
「ここで一番上手なのは和也じゃない?」
「でも、和也、投げる専門だよ?」
「確かに水球とバレーは違うけど、人をボールを投げるしか能がないみたいに言わないでよ」
「別にそこまで行ってないけどな」
「まあね」
そう言ってみんなで笑った。
「あ、そうそう。この前ね……」
K2が話している流れのまま、自分の話を始めた。
「友達と体育館で、あ、違うとこね、そこで、バレーやったの。それでね……」
ブロック敷の幅1.5mほどの道ができていて、その周りは土になっている道を走っていた。広葉樹の並木道で、木漏れ日が優しく降り注いでいた。
「サーブをしたんだけど、その時にボールに貫手しちゃって、突き指しちゃったんだよねー」
「馬鹿じゃねぇの?」
「えぇー! ひどい! 結構頑張ったんだよ?」
「その結果突き指でしょ? ボールとの相性悪すぎだろ?」
えぇー、というK2に、みんなは笑った。自転車はとてもゆっくり進んでいて、歩いている人ですら追い抜いていくくらいだった。
「俺、サーブ得意だったのになあ」
「前世の話?」
「なんでだよ!」
「だって、突き指するやつがサーブが得意とか、なんかの冗談にしか聞こえないじゃん」
「いや、俺ね……」
ガコン!
K2の言葉はとあるトラブルによって途中で止まった。
「「「えっ?」」」
K2はそうして、自分のチェーンを見た。チェーンは見事に外れていて、歯車の意味を果たさなくなっていた。
「うわー、めんどくせー! ちょっと待って、すぐ直しちゃうから」
K2はチェーンに手を掛けると、上に持ち上げて、ペダルを手で回しながらかけていった。
作業は順調に進んでいった。
と、思われた。
「いて!」
勢い余って尖っているところに指を刺してしまった。
K2の手は赤と黒に染まっていた。
「うわぁぁぁぁ!! 血だ、血だぁぁぁぁぁぁぁ!」
「流血したくらいで大袈裟だろ。いつもアイディオクスと戦うとき怪我してるんだろ?」
「最近してないよ?」
「まあ、なんでもいいけど」
「ねえ、誰か絆創膏持ってない?」
「なに、そのリアクションの変わり方。激しすぎだろ。さっきまで騒いでたくせに、なに、馬鹿に冷静になってんの?」
「なんでだろうね?」
そう言ってK2は頬のあたりをかいた。そのせいで頬に血がついた。
チェーンをかけて直すと和也が持っていた絆創膏を貼り、立った。そして、前に自転車を押すと、いつもとは違う抵抗が生まれた。
カコンカコン
後ろのタイヤがそう音を立てていた。タイヤを見ると地面との部分が潰れていた。パンクした。どうやら、押したときにタイヤに画鋲が刺さったらしく、タイヤには画鋲が一本刺さっていた。
「うわぁぁぁぁ!!」
「またその悲鳴かよ」
「ついてねえな、今日」
「厄日なんじゃね?」
「それはない。厄日だったら今日このメンバーで遊べないでいた」
「そ」
うなだれたK2。体育館は近かったため、そこまでパンクしたタイヤを押していった。
カコンカコン
うざいと思った。
駐輪場に自転車を置くと、体育館の中に入っていった。
声援が遠くまで聞こえてくる。体育館の出入口を多くの人が行ったり来たりする流れの中でK2たち四人は体育館の中に入っていった。
見てもいないのに、もう興奮していた。心臓は跳ねるよう。三人もまた同じだった。
冬なのに、体育館の、コートの中は暑かった。いや、熱かった。
サーバーはボールを回転させながら高く上げると、それを追うようにして飛び、ネットギリギリの軌道で飛ばした。
鋭いカーブがかかったボールを取ると、ラリーを続けた。
鋭いアタックをしっかりと取る。
ルールも知らないし、バレーが上手という訳でもないK2だったが、その迫力は伝わってきた。この競技に魅了されていった。
「おぉ、すげーな」
となりからそんな声が聞こえる。この三人もバレーを競技としてやっているわけではないが、K2と同様、この試合に感激していた。
こうして、一つの目標に向かって努力して、今ここで頑張れていること、そのことがとても素晴らしく見えた。きっと、たくさんの時間をかけてきたのだろう。たくさんの苦難を乗り越えて来たのだろう。だから、ここに立てる。それはかけがえのないものであると思った。
そういう事をK2は思って見ていた。自分の生き方と照らし合わせて。自分の立場を見直して。
K2はバックに入っていたペットボトルを取り出し、それを飲んだ。
「あ、俺、この近くに家あるから、そっちに行くわ。三人はどうする?」
「もうそろそろで暗くなっちゃうから帰るよ」
「分かった。じゃあ、また」
「ああ、明日なー」
「じゃねー」
「また」
そう言うと三人は自転車を漕いで谷保町の方へ帰っていった。
結局四人はバレーの試合を最後まで見ていた。太陽はちゃんと傾いていて、見事な夕焼けとともに、道を朱色に染めていた。
西府都市のこの公園の近くにK2の家がある。パンクした自転車もあるため、谷保町に歩いて帰るよりは西府都市の家に一度この自転車を預けてから、西府の家に置いてある自転車で帰った方がいいと思ったのだ。
自転車を持ち上げて西府の家に向かったK2は公園から出た。
西府の家は四階建ての一軒家で、周りも同じように一軒家で囲まれている。川のある方角に芝生で埋め尽くされた庭がある。夏になると黄緑色によく映えて、そこで昼寝するのがとても気持ち良いのだ。
K2は家のドアを解錠すると、ドアを引いて、家の中に入っていった。
玄関で靴を脱ぎ、家の中に上がる。
「ただいま」
思えばこの家に帰ってくるのも久しぶりだ。今K2の通っている学校があるのは谷保町。だから、最近はそこに帰っている。登下校は谷保町にある家からなのだ。
この家も、もう、半年ほど来ていない。家の中は深々としていて薄暗い。
……ん?
今物音が聞こえた、ような気がした。
歩きながらも警戒しながら、リビングの扉を開く。
「あ、おかえり」
「え?」
母親がいた。横になってテレビを見ていた。くつろいでいた。
物があまりないこの部屋でテレビ以外の他の物は音を立てない。上の階からも物音はしない。母親以外はいなかったようだ。
「なんでここにいるの?」
K2はそう問う。
「なんでって別に、昨日は谷保だったけど、一昨日まではここだったよ?」
「ふーん」
「それで?」
「ん?」
「なんでこの家に?」
「あー、自転車がパンクしたから。ここが一番近かったから、持ってきたの」
「今日も谷保?」
「もちろん。明日も学校あるし。あれ? 他、誰もいないの?」
「いないよ」
「ふーん」
そう言うと、K2は階段を上った。
K2の部屋は三階にある。窓から指す光はもうほとんどなくなっていて、街灯も光を放ち始めていた。
部屋のカーテンは閉まっていた。部屋の電気を付けると、そのまま部屋の中に入っていった。カバンを下ろし、必要ないものを取り出す。そして、お金を少しと他、必要になりそうなものをバックに詰めると、それを背負った。フリスビーなどの遊び道具を持って下に降りると、じゃあ、俺行くから、と言って玄関を出た。玄関を出るとすぐに倉庫にその遊び道具を閉まって、ここに置いてあった、パンクのしていない自転車を持って、漕ぎ出した。
向かったのは商町。西府都市の隣にある町で、駅前にはあらゆる店がある。
最初はもう谷保町に帰ってしまおうとも思ったのだが、まだ遊び足りないと思い、行くことにした。
街灯だけが光っている暗い住宅街を一人自転車で走っていた。
10分ほど走ると、すぐに商町に着いた。駅前は、三本の道が合流したところにあり、それらの道と道の間に大きな店や駅がある。
K2は何かして遊ぼうとここに来たのだが、いざとなると何をしようか迷ってしまったので、結局カフェで一人お茶でも飲むことにした。
買ったのはホットのロイヤルミルクティーとシナモンロール。もうそろそろ夜ご飯の時間だというのにも関わらず、ここでおやつを食べていた。ソファーのようなイスのあるテーブルに一人で腰掛けると、ただひたすら、少しずつシナモンロールを口にしていた。たまにミルクティーも飲んだ。
ぼうっとするのも暇だったので、シナモンロールを食べ終えたK2はバックからノートパソコンを取り出すと、作業を始めた。内容はこの前出た銅属性亜巨獣型アイディオクスと水属性巨獣型アイディオクスのデータを自作の生態書に載せていくことと、新しいスキルの開発をしていた。そして、それと同時にここ最近の予定も立てた。
結局全て終わったのが夜の8時頃だったのでK2はレジに行き、オレンジジュースとサンドウィッチを頼むと、カフェで夜食を済ませた。
K2が谷保の家に帰ったのは夜の9時過ぎのことだった。




