真冬の流れる水の音 11
目覚まし時計が鳴る。朝7時。
今日は学校があるため、支度をするとすぐに家を出た。
学校に着くと、すぐに教室に入った。教室にはまだ数人しかいなかった。
教室に入れば、おはようという言葉が飛び交う。
これが求めている平和なのなら、壊れて欲しくない。
「おはよう、航ちゃん」
結構な人が教室に来ていたところで、今登校してきたと思われる佐紀ちゃんが声をかけてきた。
「おはよう」
そう返事をすると、佐紀ちゃんがK2の席の隣にずっと立っていた。
「あのね、あれからずっと考えたんだけど……」
一昨日話したことについての話だ。学校ではあまり特攻隊の話はしないので、他の人に聞かれてもいいように、その話の内容は出さないことにしている。
「やっぱり私、まだ分からないんだけどね、航ちゃんの話で行く勇気が出せそうなの。改めてありがとう」
「いいや、俺は思ったことを言っただけだから」
「ううん、それでも、だよ」
その言葉はK2にとってありがたかった。
「ところで、この前の航ちゃんが逃がしちゃったやつ、次は私たちでしょ?」
「多分ね」
「対策とから練った?」
「いや、まだだよ。でも、なんか、今日父ちゃんに呼ばれちゃって。なんか、渡したいものがあるって。それによって対策は変わるかな」
「へー。どんなものなんだろうね?」
「さあ?」
二人で笑っていると、チャイムが鳴った。ホームルームの始まる時間になっていた。
佐紀ちゃんはじゃあね、と言って自分の席に行った。
そして、先生が教室に入ってきてホームルームが始まる。
最後の授業が終わると、クラスメイトの原政弘と松永裕翔と旗本和也が話しかけてきた。
「ねえ、明日空いてる?」
「いや、まあ、空いてるけど」
「遊びに行こうぜ」
「和也も行くの?」
「行くよ」
「オーケー、じゃあ、行くよ。どこに行く予定なの?」
三人のうち、和也以外の二人はe波を使えない。K2にとって、数少ないe波を使えない友達だ。K2にとっては大切な存在で、彼らはいつも楽しい場所へと連れて行ってくれる。それはとても嬉しいことでありがたいことで貴重なことだと、K2は分かっていた。
「うーん、そうだねー、ノープラン」
「なんだよー」
「ノープランがプランなんだよ」
「なにそれー」
そうして、みんなで笑う。それが楽しい。それこそが楽しい。K2はそう思った。
「川渡ろうぜ?」
谷保町と未来都市や西府都市は一本の川によって隔てられている。谷保町はあまり栄えていないのに対して、川を渡ったそれらの都市はかなり栄えている。だから、この辺の学生はほとんどそっちの方に遊びに行ってしまうのだ。
「いいね!」
「賛成」
「なら、地下鉄谷保駅に自転車で集合?」
「まあ、それは明日決めようぜ?」
「そうだな」
そう言って四人はカバンを持つと学校を後にした。
「それにしても、二人大変だな」
マッツーこと松永がそう言ってきた。
「え?」
「え? じゃなくて。だって、この前も出たんでしょう、アイディオクス?」
e波を使えない人たちにとってはアイディオクスの出現の情報はあまり来ない。だから、噂でしか知らないのだ。
「え、うん、まあね。でも、それが任務だから」
「まあ、任務だろうが、そうでなかろうが、大変なのには変わりないだろうから、こういう時くらいには肩の荷を下ろしてよ」
「ありがとな」
気遣ってくれたことに感謝をした。
思ってくれるというのはとても良いことだ。そう、K2や和也は思っていた。
その後、K2は三人と別れて、谷保駅で電車に乗った。
父親に呼ばれているからだ。
開発部の部署は中野駅近くにある。
中野駅はこの線の終点だ。結構栄えている。
K2が電車に乗ると20分程で中野駅に着いた。
駅に降りると、近くのデパートを通って外に出る。
そのデパートは、道幅1.5m程で、結構小さい。デパートと呼べるかどうかも不明なほどに。
人はあまりいない。それにより、この建物はどこも静かだった。
あまり新しいとは言えない、むしろ、古いこの建物は、至る所がさびていた。だから、怖いと言う雰囲気を醸し出す。
デパートには地下から入るので、上に上がって外に出る。しかも、一度二階に行ってから隣の建物に繋がる渡り廊下を渡って一階に降りないと外に出れない。
K2はエスカレーターで一階に上がる。
二階に上がるためのエスカレーターは反対側なので、廊下を歩いてエスカレーターに行こうとした。
すると、廊下の真ん中あたりにフードを被った灰色のパーカーを着た少し背の高い人がいた。
フードを深く被っているせいで顔は見えない。
右手にはナイフが握られていた。ざっと刃渡り20cmほど。
「!?」
殺人鬼のように見えた。
K2は立ち止まり、様子を伺った。
数秒後、その人は無言で走ってきた。ナイフを持った右手に左手を添えている。それはもう、そのナイフを刺してくるフォームだ。
「なっ!」
いきなりの攻撃で焦ったK2はしかし、冷静に右手をナイフに向け、e波を放った。
しかし、そのe波は弾かれた。
「え?」
そして、距離は5mまで縮んでいた。
フードの男は未だ無言でかなりのスピードで走っていた。
フードは勢いでなびくが、脱げることもなく、顔は見えないままでいた。
K2は構えると、残り数メートルのところで、少し前進し、ナイフを突きつけてくる手を右手で払い、受け流し、相手の勢いをそのまま、K2の後ろに流した。
しかし、このくらいでやられるわけもないあの殺人鬼はK2の方を向いた。
この狭い廊下でe波を使えると思われる者と、しかも、ナイフを持つものと戦うのはK2にとっては不利であった。
そのため、K2は逃げた。廊下を走る。反対側のエスカレーターに着くと二階へと駆け上がった。
そして、渡り廊下を走り渡り、またエスカレーターを駆け下がる。
一階に着くと、そのまま外に出た。
今まで気づかなかったが、外はもう真っ暗で、空には綺麗な星が瞬いていた。
K2は走って外に出る。後ろからはまだあの殺人鬼が追ってきていた。
一目散に逃げる。もう、目から体から必死さが伝わるほどにK2は逃げていた。
K2はなぜ自分が襲われているのか分からなかった。
そのまま、ひたすら、ただひたすら、走った。駅の、そして、建物の横にあるブロック敷のテラスの方へ向かった。殺人鬼とはかなりの距離ができ、やがて見えなくなった。
K2はテラスへ向かう途中のベンチに隠れた。ベンチは端にあり、テーブルに木でできた固定のイスがある。K2はその、テーブルの脚の陰に隠れていた。
テラスの方へ誰かが走っていく人影が見えると、K2は少し安堵した。
はぁ、はぁ、はぁ……。胸の部分が膨らんだり縮んだりする。
完全に体の力は抜けていた。立てなかった。
「何やってるの?」
「!?」
急に後ろから男性の声が聞こえた。
K2は心臓がはねた。もはや、止まるかとも思った。同時に体全体に力が入り、身が小さくなった。
そして、後ろを向く。すると、そこにいたのは父親だった。
ベンチの下を覗いていた。
「え? あ、いや、なんでもない」
そうK2が言うと、ベンチの下から出た。
そして、K2と父親はテラスに行った。
テラスは段々になっていて、囲むようについている手すりの下にはいくつもの白色ライトがあり、綺麗だった。テラスからは、中野駅が見えた。光る電光掲示板と幾本の線路。それが大きな建物の奥に見えた。
「悪いな、ここまで来てくれて」
父親が話始めた。
「それで、渡したいものって?」
「ああ、これだ」
そういってカバンから取り出したのは、握れるほどの黒曜石のような黒の立方体と少し大きめの試験管だった。
「なにこれ?」
そうK2が言うと、父親はまず、試験管の方から説明してきた。
「まず、これはまあ、見てのとおり試験管だ。だけど、ただの試験管とは違う。なにが違うかって言うと、溶けないんだよ。どんなに熱を加えても、どんな液体につけても」
「なんで、これを俺に?」
「おまえ、今、この前逃がした件で少し落ち込んでるんだろ? なら、それを取り返すためにも、アイディオクスの染色体を取ってきてくれ。そのための試験管だ」
「はあ? 何言ってるの?」
「あれ、違うの?」
「いや、違かないけど……」
「研究部で使うんだよ、頼むよ!」
「そこまで言うなら……」
「よし!」
つい、引き受けてしまったK2は少し後悔していた。
「で、そっちは?」
「ああ、こっちは、やっと完成した超高能爆弾だ」
父親は少し前からその開発を目指していた。そして、今、やっと完成したということだ。
「なに、試せと?」
「まあ、そんなもんかな。使い方は、ここにe波を流す。流した強さによって爆発する時間が決まるんだ。弱ければ早く爆発するし、強ければ遅く爆発する」
「なるほどね。使ってみるよ」
「ああ、よろしく」
そう言うとK2に試験管と爆弾を受け取ると、父親は駅の方へ行った。
K2はその後も少しだけテラスにいた。テラスはとても幻想的で、綺麗だったから。
先ほどの殺人鬼は父親で、父親の悪ふざけでそんなことをしたなんてことはK2には気づくよしもなかった。




