やっぱり、僕は壊れている
清雅は、失神した陽華を抱き抱えて
空いている部屋のベッドに寝かせた。
一切外に出されたことない陽華の素肌は
絹のように滑らかで白く
顔にはシミひとつなかった。
【興味本位さ】
清雅は心の中でつぶやいた。
【そう、ただの興味本位】
動物は可愛い。
何も知らない純粋な目で、もぐもぐと餌を啄む姿は
あまりに無防備で可愛い。
愛おしい気持ちは変わらない。
だが、その気持ちと共に
【握りつぶしてしまいたい】
そんな衝動に駆られることがある。
当然そんなことはしない。
愛しさのあまり意地悪したくなる
そんな気持ちになるだけだ。
どうせ、小動物は犠牲になる。
‥‥‥僕の身代わりになって。
清雅は家の1番奥の部屋の前で立ち止まる。
此処は鍵をかけてある。
清雅は鍵を刺して開けた。
部屋にはあちらこちらに
お札、結界、蝋燭、塩、酒、水晶
怪しいものが置いてある。
清雅は部屋の中に入った後に内側から鍵をかけた。
毎日届く依頼。
それは【呪い返し】
決して清雅の方から
誰かを呪うようなことや依頼は受けない。
あくまで【依頼者】にかけられた【呪い】を
【跳ね返す】ことを生業としていた。
昔から清雅は、悪意を向けられることが多かった。
クラスメイト、近所の子供、意地悪な大人‥‥‥
清雅に悪意を向けたもの、みんな
非情な最期を迎えた。
清雅はだから、やり返さない。
自ら手を下さなくても【自分を護る何か】が
報復してくれた。
変な村があると聞いた。
少女を閉じ込めることで【快晴】を操る村。
すぐに興味が湧いた。
一度、夜に下見に向かった。
人ひとり外におらず、加えて草木が多い村だったために、
こっそり歩くのは容易だった。
異様な小屋を見つける。
お札、厳重な鎖が巻かれている。
自分自身、もうどれほど【呪い返し】をしてきたことか。
呪詛の類は見れば大体わかる。
お札や鎖の巻き方からして、
すぐに【神様】クラスの強い力が関与していることは分かった。
ある日、一件の依頼が来た。
その依頼は、初めて清雅を危険に晒した。
自分を護る何かですら、太刀打ちできないほどの強烈な呪詛だった。
呪い返しをしようとすると、
体が引き裂かれるように痛む。
自分の家の周りを飛ぶ鳥達が、朝、見るも無惨な姿で何羽も横たわっていたのだ。
危うく、自分の身を持っていかれるところだった。
そこから清雅は、自分の家で大量の小動物を飼い出した。
【身代わり】にするためだ。
まず、清雅の周りの命が奪われるのなら
小動物を飼育することで
どれくらいの力を持つ呪いかがすぐに見てわかるようになる。
ある日突然、動物が不審な死を遂げたなら
おそらく自分を護る何かよりも強い力だ。
加えて、自分の守護者を
強くする必要があった。
酒は上質なものを常に揃えた。
お社を祀った。
毎日手を合わせて感謝をした。
清雅の守護者への思いは、
本当だったからだ。
いつも助けられていたから。
ある日、噂を聞いた。
神子の血に触れれば
その女子の力までも手にできると。
神様同士の融合の技だった。
自分は、呪い返しを続けていく。
人に呪いをかける者を、許さない。
幸い自分には力強い守護者がいた。
姿も見たことはなかったが
この力を使って、卑怯者を全て
祓ってやりたかった。
矛盾している、と清雅は思う。
そのために小動物の命を身代わりにしているのだ。
それでも構わなかった。
自分は【初めから】どこか壊れているのだから。
陽華のことはどうでも良かった。
【陽華の力】が欲しかった。
彼女を封印から解いたら、本当にあの村に大雨が襲った。
きっと今頃、滅びているだろう。
だから、追っ手は決してやってこない。
もう、皆死んでしまうのだから。
陽華のことはどうしようと考えた。
直接危害を加えるつもりなどない。
だけど、何も知らない純粋な娘。
彼女の瞳は【小動物】のように美しかった。
自分の顔に惚れて近づいてくる女はたくさんいた。
この深い森にいても、女に困ることはなかった。
向こうのほうから寄ってきた。
適当にあしらって笑顔を浮かべておけば
勝手に頬を紅に染めていた。
実につまらない。
陽華は違った。
何の邪もない瞳を持っていた。
あの小屋の中しか知らない
【箱入娘】そのものだったから。
【僕だけを見ていてくれるのも悪くない。】
清雅はフッと口角を上げた。
【あの純粋な瞳が、どこまでー‥‥‥
濁っていくのか見るのも、悪くない。】
清雅は今度は、声を出して笑った。
【やっぱり、僕は壊れている】
扉の外から、何かの声が聞こえた。
清雅はすぐに部屋を飛び出した。
『ギェェェ!』
それは鳴き声だった。
小動物の部屋から聞こえてくる。
ガサガサ、バサバサ、と抵抗するような音も聞こえてきた。
清雅は走って、扉を開けた。
清雅『はっ‥‥‥何!?』
清雅は目を見開いて叫んだ。
見ると100匹以上いた小動物が、
一瞬のうちに 全滅していたのだ。




