第6話 八重再来
いつもの通学路、昨日までほぼ満開で咲いていた並木道はちらほらと枝木を見せ始め、地面を桜色に染め上げている。
昨日よりも登校時間が早いせいか、俺と同じ生徒もちらほらと見受けられるが一つ失敗したことがある。それはこの時期に限りここは巷では有名なデートスポットになり、わざわざここをカップルで歩くために待ち合わせまでして通学の時間でさえいちゃついていることだ。
おかげで周りは若い男女のカップルがひしめき合い場違い感が半端ない。
まぁそんな俺も昨日は傍から見ればここを手を繋いで学校まで駆け抜けた若い男女になるのだが…今日はもちろんそんなペアなんているはずもなくただただ青春カップル+モテない男一匹という形で学校まで同伴になる訳だ。
朝から深いため息をこぼすとこの地獄のような空間を練り歩いた。
そしてやっとの思いで校門前に差し掛かったところでまたしても惨劇が起こった。
それは遠くから全速力で謎の居候がこっちめがけて、道の真ん中を走ってきていることだった。
「涼介ぇぇぇぇぇ!!」
耳にまで響くその声に自分含め周りの人間達も一斉に振り向く。
「ハァ…何とか間に合ったわ。ほい、これ」
俺の手に差し出されたのは桜柄の風呂敷に包まれた四角い物体だった。
「これは…」
「何ってお弁当に決まっとるじゃろ、朝渡そうと思っとったけど、忘れとったけん追っかけてきたんや」
俺は昨日のデジャブを感じ、無意識に抵抗を見せ、冷や汗を掻きながら首を横に振る
「いや…これは…ダメだ」
拒絶反応を見せる俺に少女はジト目で睨み口を開く。
「いけんよ、男の子はよく食べておっきいならないかんのやから、いっぱい食べて力つけんと!ほんなら私は帰るけん!!」
そう云うと彼女は太陽のように笑顔で微笑み颯爽と元来た道を引き返していった。
そして一瞬の静寂の後、やはり恐れていたことが起こるように周りがざわめき立つ。
「おい、あれ愛妻弁当だぜw」
「さっきの子の方言可愛いい」
「あれよく見ると昨日の通い妻の奴じゃね?」
俺は1人取り残されると周りの奴らに格好の餌食にされ持たされた風呂敷の弁当を隠すように大事に抱え、走り出す。
ああ…終わった
そして自分のバッグの奥隅に弁当を隠し教室に入る。一瞬立ち止まりクラスの連中を一瞥するとそそくさと自分の席に着席する。
そして机に両肘をつくと口元を隠すように手で顔を固定し思考を巡らせる。
なるほど、今日もクラスの連中にはバレてないようだ。ここまではいい、だが遠くない未来俺は絶望の淵に叩き落とされることになる、もう学んだ。
ガラララ
「おい!?涼介ェ!?さっきのーー」
そして狙ったように突然現れ、大声で暴露し始めた赤髪の男がそれを言い終わる前に、俺は席から立ち上がると無言のアイアンクローで顔を掴むとそのまま、教室の外まで連れて行く。
「もごっ!?もがががが!!」
突然の行動に一瞬クラスの連中は固まったが何もなかったかのように再びいつもの雰囲気に戻る。しかしただ一人だけそれに興味を持った奴が2人の後を追って教室を後にした。
「ってて…何だよ!急に」
「それはこっちのセリフだ。俺の平穏な学校生活を搔き回しやがって」
俺と久は昇降口でいがみ合う。
「あのな…平穏な学校生活を送りたい奴が毎日校門前でいちゃついてんじゃねぇよ」
「違う、あれはそういうんじゃねぇんだよ」
「どう違うってんだよ」
久は呆れたように尋ねると、俺は思考を巡らせた。
いっそ本当のことを打ち明けてあれは俺のばあちゃんですってゆうか?……いやいやいや、それはない。いくら久でもそれで納得するほどメルヘンな頭じゃないはずだ。大体自分自身が信じてないのにどう説明すんだよ。
唸るように悩むと一番の安全牌でこの場を乗り切ることを決意した。
「…親戚」
「は?」
「家庭の事情で今親戚の子と一緒に住んでんだよ」
久は真顔で口を空けたままこっちを見つめていた。流石に無理があるとは分かってる。どこの世界に2日連続一緒に登校する同い年の親戚がいるだろうか?けれど俺は昔からよく知るこの久という男に賭けた。
「…………………………………」
「そう…なのか?ただの親戚か…」
すると、久はポンッと肩を叩くと笑い出す。
「何だよ!!ただの親戚かよっ!そういうことはもっと早く言えよ。おれはてっきりもういろいろ済んだ後の関係なのかと思ったぜ?」
久は純粋だ。超がつくほどの純粋男だ。基本的に人の云ったことを疑わない。今時の人間には珍しい人種でありそのおかげなのか周りの人気もひにくれた俺と違って高い。
そして俺は心の中でホッとすると本題に入る。
「ははっ!いいってことよ親友。けどなそんなお前の軽口のせいでクラスの連中にもあらぬ誤解を招いてんだわ。だからお前から火種になることはしてくれるな。わかったな?」
「なッッ!?」
その言葉を聞くと久は絶望しその場で崩れ落ちる。
「久?」
「俺は親友であるお前になんてことを…」
「いや、まあ過ぎたことは仕方ねぇから、このことは黙っておいてーーー」
「涼介、ここは俺に任せておいてくれ!!お前のその誤解クラスの連中や学校の奴らにも違うって証明してきてやるから!!」
そして久は勇ましい顔でグッドサインを俺に向けると走り出す。
「いや、待て待て待て!?久!!ストップ!!止まれってッッ!!!」
慌てて追いかけるもその距離はどんどん離れていった。
その2人の会話を聞いていた女木が頭を押さえながらため息を吐く。
「なにやってんだか」




