第5話 孫に甘いばあ
食事を済ませるとあの子が風呂を沸かしてくれており、云われるがまま湯船に浸かる。
「ふぅ」
今日はほとんど休む間もなかったからどっと疲れた気がする。 俺は頭をなるべく空っぽにして今日の疲れをできるだけ取り払うように全身の力を緩める。
全く、あいつのせいで散々な一日だった…いきなり俺のばあちゃんとか言い出すし、学校の奴らにはあらぬ誤解をかけられるし……あの反省文どうすんだよ…
俺は呆れながら浴槽の天井を見つめる。すると今日始めて遭ったあの少女のコロコロと変わる表情が自分の脳内を埋め尽くす。
「だぁぁぁぁぁ!!!」
邪な心をブンブンと頭を揺らし振りほどく。
「……まぁ、飯はうまかったな…飯は…」
すると再び割烹着姿で尽くしてくれていた少女が頭をよぎる。
ガララッ
「涼介ぇ?バスタオルどこにあるんな?」
「キャアッ!!」
するといきなり同い年くらいの少女が俺の領域に顔を出す。そして咄嗟に女子みたいな声をあげ、身体を隠すようによじる。
その様子をみていた少女はいぶかしげな表情を浮かべている。
「…何を、やっとるん」
「お、おまっ!?き、急に入ってくんなよ!!後ろの戸棚の下だ!」
俺は慌てふためきながら場所を伝える。
「ほう、じゃあ置いとくけん、湯冷めせんようにな」
そうゆうと扉が閉まり、戸棚が開閉される音が聴こえる。
「………………」
ちょっと過保護すぎやしませんかね?俺を5歳児かなんかと思ってるんだろうか?
ガララッ
「ほうじゃ!パンツの場所はーーー」
「もうええてッッッ!!」
結局俺は更に疲労を重ねふらふらと2階の自室に逃げ込むように入る。そして自分の机で無実の罪で書かされることになった反省文を睨みながら思考を巡らせる。
ええっと、
(朝目覚めたら謎の美少女が、僕を起こしに来ました。なんとその正体は先日死んだはずの僕の祖母だったのです。そしてその子が作った朝ごはんを食べて一緒に学校まで送ってもらいました。だから僕はただ自分の身内と登校しただけだったので、皆さんが想像するような淫らな関係では断じてありません。
2年3組 根来寺涼介)
うん、我ながらスマートでわかりやすい文章だ。俺は爽やかな表情で自分の文章力に感動すると、すぐに紙を丸めて、ゴミ箱に捨てた。もう知らん。
そして結局一文字も書かぬ内に睡魔に負け、ベッドにダイブし意識を失う。
木造造りの古い大きな家、そんなだだっ広い空間で割烹着を着用し台所に立つ女の人が居た。
その人は曲がった腰でゆっくりとした動作で一つ一つ丁寧にそして笑顔で数人分はあろうかという量の料理を作っている。
そしてガラガラと玄関の引き戸を開け、誰かが床を軋ませ走ってくる。
「ばあちゃん!!」
その少年は優しくこちらを振り返り微笑むその女の人に飛び込むと頭を撫でられニシシっと悪戯げに笑っていた。
「…もう晩御飯ができるけんな。今日は涼介の大好物の肉じゃがやけん」
すると少年はめをキラキラと輝かせながら口を開く。
「やった!ばあちゃんの肉じゃが大好き!!」
そこにはとても幸せそうな、祖母と孫の姿が映り、ゆっくりとその情景が白いモヤと共に色褪せ消えていった。
ピロリロリン ピロリロリン
「ん…んんん」
アラームの音が部屋中を鳴り響く。なんか夢を見ていたみたいだ。とても遠くて懐かしい夢をー
まだ半分夢を見ているような気分で寝言のように囁く。
「…ばあ…ちゃん」
するとそれを間近で見ていた、少女が耳元で囁く。
「ん、どうした?涼介?」
まるで小鳥のさえずりのような美しい音色と吐息が聴覚を優しく刺激する。ああ…幸せだ、もしもこんな素敵な目覚しがこの世にあったならおそらく毎日健やかに朝を迎えれるだろうに…
俺はだんだんと頭が冴え、ゆっくりと瞼が開いて、違和感に気付く。
身体を横にそらし顔を上に向けるとそこには、透き通るような白い肌と大きな瞳が特徴の美少女がほぼゼロ距離の状態で俺を覗いていた。
「やぁぁぁッッ!!?」
思わず気合が入ったような叫び声を上げてしまい、俺はベッドから勢いよく落下する。
少女はそんな俺を見て高らかに笑う。
「今日も一段と元気でええことやね!」
地面から這い出るようにして起き上がると彼女を睨んだ。
「朝っぱらからあんたは目の前でなにしてたんだ?」
「いやぁ、普通に涼介を起こしにいくつもりやったんやけど、孫の寝顔があまりにも可愛いからつい悪戯してしもた」
少女は自分の頭をさすりながらそういうと昨日と同じくご飯の催促をして下りていった。
俺はため息をつくと、落下した箇所を押さえながら一階におりた。
今日は母さんに加え父さんも既に出かけた後だったため結局目の前の少女に対する絶対的信頼を聞けずじまいにいた。
「で?あんたは何の目的があって今ここにいるんだ?」
少女は味噌汁をすすり口の中を片付けてから話し始めた。
「目的?なんちゃないよ?私は気付いたらもうここにおったからなあ。実家も暫く入院しとったから荒れ放題やろうし、今はこんな姿になってしもたからな、良二や茅さんが気にしてここに住まわせてくれとんよ」
「なにもないって…」
本当に両親はそんな理由だけで漫画やアニメみたいな設定を信じて、この子を本当にばあちゃんだと信じたのかよ。こんなの普通に考えて何か裏があるだろ…
俺は朝食を食べ終わると、身支度をし家を出ようと玄関まで差し掛かる。
「今日も帰りおそいん?」
後ろに手を組んで少女は見送りながらそう云う。
「わかんね」
一瞬、反省文のことがちらつくが、何となくその事を彼女に伝える気にはなれなかった。
「…ほうか気おつけてな」
少女は小さく手を振って送り出すが、少し悲しそうな表情を見せる。
バタン
「さてと、みんながおらん間に部屋の片付けでも…」
八重はふと思い出す。
「あっ」




