第4話 ご馳走
俺はその後も休み時間、昼休みとクラスの連中はもちろん他のクラスの奴らにまで質問攻めを受けていた。
男「おい!どこの学校の子だよ!!なぁ俺達親友だろ!?あの子を俺に紹介してくれよ!!」
女「ねぇ?2人とも、どこまで進んでるの…通い妻っていうくらいだから…もしかして…キャッ♥」
教師「君か!?校内に他校の生徒を連れ込んで不純性交友を働いたというのは!!」
噂というのはすごいもので、他学年、教師含めこんな平和な日常をぶち壊すのに今日の俺のエピソードは強すぎるものであり、半日もかからず、校内に筒抜けになった。
「…失礼しました」
俺は生徒指導室の扉を閉め、顔を塞ぐように手で覆う。
そして大きなため息をつき何とか停学を免れたもののそのかわり片手には分厚い反省文用の用紙。
「…不幸だ」
俺は茜色に染まった廊下をとぼとぼ歩いていると、教室の前で腕組みをし、こちらを睨む奴の姿があった。
俺は一瞬立ち止まったが、相手は何もいってこないのを確認するとそのまま立ち去ろうとした。だが
「ねぇ、さっきの話し本当なの?」
俺は女木の言葉を軽く受け流すように教室に入るとバッグにノートを詰め込みながら答える。
「何が?」
質問に質問で返すなと誰かが云っていた気がするがまさにその通りで、女木は眉間にシワを寄せ俺のところに怒りの足音を立てやってくる。
「は?決まってるでしょ?その…か…通い妻の子のことよ!!」
はぁ…そんなに顔を真っ赤にして恥ずかしそうにするなら云わなきゃいいのに…
「俺にもわからん…朝起きたら既に家にいて、その子に腕を引っ張られて登校したら、無事通い妻になってたんだよ…」
俺は大量の反省文をちらつかせながら語る。
「は?もっとマシな嘘ついたら?」
相変わらず蔑むような、人を見下したような表情が似合う女だ…そのおかげで一部の男子からは人気があるようだが残念ながら俺の守備範囲外だ。
「ま、信じられないのも無理ないな…俺もまだ信じられてないことが沢山あるからな」
俺は女木に意味深な発言を残したままさっさと教室を後にする。
「ちょ、ちょっと!?まだ話は終わってないわよ!!」
女木が制止を促そうとするが、俺は歩みを止めず、片腕をあげてせめてもの挨拶をし立ち去る。
「…何よそんなのって…ないじゃない…」
俺は校門を後にすると遅れを取り戻すように歩幅を広げ早歩きで帰路に着く。
別にあいつに逢いたいから急いでるんじゃない。肉じゃが…そう好物の肉じゃがが俺の腹の空腹を促すだけだ。
俺は自問自答をしながら朝、あいつと駆けた桜並木の道でふと立ち止まる。
あれ…あいつなんで俺が肉じゃがが好きだって知ってたんだ?まさか…本当に
いや、それはない。そんなの事前情報でどうとでもなるさ。両親に聞いたりとか、親戚や、俺を知る学校の連中のツテとかかも知れない。
でも、そうだとしても何で遭ったこともなかった俺にそんなことを…
ふと夕暮れに散りゆく桜を見上げていた。その花びらは強い風に吹かれると淡い空の中に溶けていった。
「ただいま」
家の玄関を開け、帰宅すると部屋中に香ばしい香りが包み込む。
この匂いは…あいつ本当に俺のために肉じゃがを作ってくれたのか。その香りに包まれるようにキッチンに急ぐと、家の台所で今朝の少女が洗い物をしていた。
割烹着姿で、長い髪をヘアゴムで結びポニーテールで結んでいる。そしていつの間にかそんな彼女の姿に見惚れ言葉を失っていた。
そんな俺の気配を察知し少女が水道を止めこちらに振り返る。
「お!おかえりなさい!だいぶ遅かったけどどっかいっとったん?ご飯すぐ用意するけん、待っときぃ」
少女は俺と目線が合うと目を細め、優しい笑顔でそういいながら濡れた手を割烹着の裾で拭いていた。
「ッッ……」
その仕草に言葉を失い、口を開け呆然としていると、少女は不思議そうに下から俺を覗く?
「どしたん?」
「…あ、いやなんでもない」
両親達は帰りが遅く、ほとんど自炊もしないため最近はジャンクや宅配に頼りっきりになってしまっていたため、こうやってテーブルに食器を使って物が並べられていく光景を見るのは久々だった。
そして漫画盛りの茶碗を少女が、よそってくれ、配膳が完了する。
「えっと…その多すぎない?」
机には肉じゃがの他に、煮豆、おひたし、卵焼き、魚の塩焼き、冷奴と、とても1人で食べきれる量ではなかった。
「いやあ、久しぶりに孫に遭ったけんちょっと張り切り過ぎたんよ」
少女は手を後ろに回し苦笑いを浮かべる。
「そんなことより、はよ食べてみまい」
「あ、ああ」
料理に視線を戻すと、手を合わせる。
「いただきます」
そして、熱々の肉じゃがを箸でつかみ口に放り込む。
「んっ!」
俺は夢中で、食べ進める。具はほろほろでよくしゅんでおり、素材の旨味を引き立てる。
視線を横に逸らすと、腕を前に組んでにまあっとした少女が立っていた。
「おいしいじゃろ?」
少女の得意げなその反応に急に気恥ずかしくなり顔を逸らす。
「…ま、まぁ食べられないことはないな」
すると少女は人を小馬鹿にしたようにため息をつく。
「はぁ、これやけん思春期の男は…」
「はあ!?あんただっておんなじくらいの歳だろうが!!」
そう反論すると、少女は目を見開き少し驚いたような表情をする。
「そう、やったな…」
少女はそう云うと少し悲しそうに笑った気がした。
「てゆうか、いくらなんでもこの量は多すぎて食いきれねぇからあんたも座って食えよ」
俺は話しを切り替えるようにそう云うと少女はまた明るい笑顔で微笑み、久しぶりに食卓を一緒に囲んだ。




