第3話 人気者
それからそそくさと、靴を履き替え逃げ込むように教室にたどり着くと、窓際に存在する自分の席に顔を埋める。
クラスの連中は一瞬俺を視界に捉え視線を向けていたがすぐに興味をなくし自分の世界に帰っていった。
あいつ、一体何がしたいんだよ…俺は平和な学園生活を謳歌したいってのにこれじゃ遅かれ早かれウチのクラスにも知れ渡っちまう。
俺は机に突っ伏したままうんうん唸っているといつの間にか俺の横に立っていたクラスの一人に声をかけられる。
「朝からキモ」
俺が自分の机で悶えていたのがよほど我慢ならなかったらしくわざわざここまで足を運んで俺に直接罵声を言いに来たのだった。
それにしても第一声からドギツイな…流石にちょっとムッとなった俺は少し反撃に出ることにした。
「うっせ、万年百合お花畑…」
俺はこっそりと呟いたつもりだったが無事に本人の耳に届いていたようでそのまま思いっきりバッグで頭をどつかれる。
「いだッッ!」
周りの連中はそんな俺の現状に目もくれず最早いつもの日常として受け入れているまである。実際いつもこんな感じなのだが…
それにしても発言に対しての仕返しが強すぎる気がする。
「ってえな!!」
俺がそういい両手をついて席を立ち上がりそいつを睨むと青髪ショートの女がまるで俺をゴミでも見るような顔で蔑んでいた。
「ゴミ」
見るようなじゃなくて本当にゴミ扱いだった。
コイツの名前は女木 雪音 めぎ ゆきね 俺の小学校からの幼馴染でクラスメイト。
俺というか、男に対しての扱いがひどく、ほとんど口を聞かない。唯一幼馴染である俺だけには喋ってくれるが、扱いはご覧の通りでもしかしたら、地球上で一番嫌われてるかも知れない。
しかし同性に対しては優しく、面倒見もいいので女友達は多い。その様子を見ていた男共からいつしか百合なんじゃないかと疑いをかけられているが本人は気にしていない。
「おい、今幼馴染の俺の事をゴミってゆったか?」
本当に一応だが俺の聞き間違いの可能性が1%ほどあったので聞き直してみる。
「大丈夫、幼馴染のあんたのことを寸分のくるいも、誤差も、間違いも、人違いも、空耳も、言い直しもなくゴミってゆったから」
聞き直したことにより、そのことは確実性を帯びるまでに至った。ここまではっきり云われると逆に清々しいくらいだ。
そうゆうと女木はとっとと俺の側から離れる。俺はその後ろ姿を確認すると溜息を吐き席に座り直すと窓の外の校門を見る。もちろんそこには誰もいない…だがさっきまであそこであの子が俺を見送るために手を振っていた光景が蘇る。
長い眉毛、童顔で整った輪郭、大きくてパッチリとした目、そしてあの透き通るように綺麗な長い黒髪…
口ではああいっても今日俺は帰ったらまたあの子の手料理を食べられる。しかも俺の好物の肉じゃがを作ってくれて待ってくれている……彼女がまだ誰かもわからずずけずけと俺の日常に介入してくるのはとても嫌だったが、それよりも俺の目を見て笑ってくれるあの子の姿が自分の脳にしっかりと刻み込まれていた。
「通い妻か…」
そうボソッと呟いた自分でも気持ち悪いことはわかっていたがつい言葉にしてしまう。でも…もしあいつの云う通りあれが俺のばあちゃんなんだとしたら…
俺は複雑な心境の中まだ自分のクラスでは先程の事件は広まっていないようで少しホッとしている。このまま何事もなく嵐が過ぎれば尚良しだが…
そんなささやかな願いを祈ったその時、教室のドアが勢いよく開かれる。
「おいッッ!?涼介、お前いつの間に通い妻なんて作ってたんだよ!?俺に内緒ででどんだけ先にいってんだ!お前ェ!?」
その言葉は俺に集中砲火で浴びせられ、あいつのクソでかい声のおかげで教室にいる全員が認知してしまう。
教室が俺をみてざわめき出す。そして一直線に奴はズカズカと目の前に来る。
「おい!?涼介いつからだよ!?今まで女っ気なんて全然なかったじゃねえか!」
今、俺の目の前で唾を飛ばしながら必死に抗議している奴は 小土 久 しょうど ひさし 赤髪のツンツン頭が特徴的でガタイもよく運動もできるが帰宅部で時々色んな部活に頼まれ助っ人で試合に出るほどの実力者だ。だが見ての通りガサツで、基本バカだ。
女木と同じく小学校の頃からの幼馴染で昔は3人でよく遊んでいたりもしていた。2年続けて一緒のクラスになったこともあり最近はコイツによく絡まれている。
「なぁ、久」
「おっ?どうした?」
俺は激昂する気持ちを抑え代わりに限界までの笑顔をむけて言い放つ。
「俺達今日限りで友達やめようぜ?」
「何で!?」
既に周囲では俺の話しで持ちきりになっており、女木に至っては遠くから口を開けて驚いたままで硬直し、教室は一気に変貌を遂げた。
「ははっ」
俺はもう逆に吹っ切れてどうでもよくなり春先の風を感じたくて、窓を開けると優しい春のそよ風とほのかに桜の匂いがした気がした。
くしゅん
その頃涼介を無事に学校へ送り届けた帰りのついでに最寄りのスーパーで八重は今日の献立の食材を調達に勤しんでいた。
「花粉症なんかな?陽春は気ぃつけんといかんね…お!これお買い得やね〜こっちも!」
そして店から出る頃には、パンパンの袋を両手に抱え込み、八重は苦笑いを浮かべた。
「はは…ちょっとこば…買いすぎたかも知れんね…」




