第2話 桜並木の下で
「はぁ…はぁ…」
俺は学校まで続く道をひたすら走る。距離的には近い方なので歩いても20分程で到着する距離なのだが今はその時間さえもなく、一分一秒が惜しいところまで来ている。そしておまけにヘンテコな少女付きでだ。
「なんでついてくるんだ!?あんた学校は!?」
俺のスピードに涼し気な顔をして追いつく少女は晴れ渡る空と太陽に手で日陰を作りながらにこやかに語る。
「あっはっは!学校なんてもう60年くらいいってないけん!楽しみやなぁ!」
相変わらず、ばあちゃん設定を続けるその言葉に違和感が走った。
「えっ!?あんたまさかとは思うがどこの学校に行こうとしてるんだ!?」
すると少女は笑顔を絶やさぬまま続ける。
「そら、涼介の学校に決まっとるやない!涼介が学校にいっとん見たことなかったけん、この機に見に行こうと思ったんや!」
冗談じゃない…こんなわけのわからんやつが来たら絶対クラスの連中に問い詰められまくる。
仕方ない、この子には大人げないけど俺はここで離させてもらう!!この俺の全力疾走でな!!
唸れ!!俺のトップギア!!
そして俺は、一段、また一段とスピードを上げ地上を駆け抜ける。
「はっ…はっ…はっ」
少女は不思議な顔で死に物狂いで走る俺を見て云った。
「なんでもええけど、そんなゆっくりしょったら間に合わんのちゃん?さっき唸れ俺のトップギア!!とかよったんはなんやったんや…」
え?ゆっくり…てゆうかさっきのセリフ声に出てたか?やだ恥ずかしい
「このままじゃいかんけん、ちょっとこば走るで」
そうゆうと少女は俺の手を掴み先頭に躍り出て俺を引っ張るようにして走る。
その時幼少の頃遊園地に連れて行ってもらった時初めてジェットコースターに乗った時の嬉しさの後最上階で落下した時の絶望に似た感覚と同じものを味わうことになる。
「ちょ…はや…まって…ひゃう…」
余りのスピードに変な声が出る。それなのに自分の足はまるで暴走列車のようにブレーキが効かない。きっと前方車両の燃料投下のしすぎだ。
「ほんまに、おとっちゃま(こわがり)な奴やな…」
少女は先頭で少し苦笑いを浮かべそうゆうと走り続ける。
2人は朝の桜並木の遊歩道を走っていた。朝日に照らされ舞い落ちる鮮やかな景色を楽しむ暇もなく、先頭で俺を引く彼女は本当に楽しそうに額に汗をかきながら、まるで本当に久しぶりに身体を動かしたようにこの時間を謳歌しているようだった。
俺はそんな彼女を自分の瞳に焼き付けながら本当に桜のように美しく綺麗だと思った。
本当に一瞬のことだったかも知れないけれどこのまま時間が止まったらいいのに…そう感じるほどだった。
二人はそのまま、学校へと続くこの淡紅色の並木道をただひたすらに駆けていったー
学校前の通学路では多くの生徒が集って登校している。そんな中に情けない悲鳴を上げた在校生を引っ張る私服の美少女が割って入る。
「はい!到着!!」
「ぜぇ、はぁ、はぁ、とゆうより何で俺がこの学校って知ってたんだ?」
俺は額から大粒の汗を落とし息を切らしながら尋ねる。
「そら、孫が通う学校くらいばあちゃんなら知ってて当然や」
彼女は優しい目で俺を見つめていた。俺はそんな吸い込まれそうな瞳をしばらく見つめていると周りからふと視線を感じた。
「おい…あいつ朝っぱらからどっかの女と手ぇ繋いで登校してるぞ」
「てゆうか、あの子めちゃくちゃ可愛くね?」
「マジだ…素朴で…自然な感じが大和撫子つうか…今の子からはない清楚な感じが…めっちゃいい」
「つか誰だよ、あの冴えないやつ…朝っぱらから気分わりー」
周りからの男共からの視線が痛い。早々にこの子に帰ってもらわないと。
俺は彼女の方に向き口を開く。
「じ、じゃあ、俺学校だから…ここで」
「うん、よく学んできぃや!」
そうゆうと俺はそそくさと校内に入るが再び声がかかる。
「あっそれと、今日の晩ごはんは涼介が好きやった肉じゃがやけん、寄り道しいひんと帰ってきーまいよ!」
ブンブンと校門で手を振る彼女。
「通い妻だ…」
「いや、あれは同棲だろ…」
「あの歳で!?あいつやべぇな…」
俺は泣きながら耳を塞ぎ一刻も早く教室に向かう。
この日を境に俺の知名度は爆上がりし、学校内では俺のことを「意外性の獣」という何ともニュータイプなあだ名で呼ぶものが現れだした。ちなみに女子の彼氏にしたくないランキングでは堂々の1位となりしばらく他の女共から避けられるようになった。




