第1話 俺の初恋の相手は…
居ても立ってもいられず、彼女の待つリビングに向かう。すると―
「おふくろぉぉぉぉ!!!」
父さんが、わんわん泣きながら、先程の少女の膝を抱え泣いていた。
俺の初恋の相手は俺の実の父親をまるで泣き止まない子供をあやすように優しく包み込んでいた。
絶望する俺にその子が気付くと父さんをまとわりつかせながらこちらに笑顔を向ける。
「おっ!やっと起きてきたんか、ほら私が久しぶりに腕によりをかけて作ったご飯たべてみいや」
俺はそう云われ複雑な気持ちのまま父さんとその子と俺で卓を囲んだ。
モグモグ
「どうや?おいしいやろ?」
少女が、俺の方を向いて感想を求めてくる。
「うまい…うまいけど、ちょっと色々説明してほしいんだが…」
俺がそういうと少女と父さんは不思議そうに目を合わせしばらくすると納得した。
ズズズッッ
父さんは味噌汁をすすりながら答える。
「涼介、この人はな、母さんだ」
は?
「は?」
何?俺の新しい母さんとかそういうこと?確かに今日、本物の母さんいないけど、そういうことだったの?ねぇ父さん、今俺とアンタの中で親子の縁が切れかかってるんだぜ?だったら早く気づけよ?その状況に―
俺は白い目でかつて父さんと呼んでいた男に視線を送る。
すると隣の少女が腹を抱えて笑う。
「ちがう、ちがう、確かに良二からしたら母さんで間違いないんやけど、涼介からしたら私は孫なんよ」
?
ますます意味がわからない。良二 りょうじ てのは父親の名だ。つまり、俺の父親の母ってことになる。俺からしたらばあちゃんだ。
「いや、朝から何言ってんだよ?どんな方法使ったら同い年のばあちゃんができるんだよ!!てゆうかばあちゃんは先週死んだだろ!」
俺は朝の回らない脳みそをフル回転させながら必死に思考するが答えには遠く及ばなかった。
「ほうよ、だから私がそのあんたのばあちゃん、八重やってようるやん!」
彼女はそう名乗ると貧相な胸を反らしながら鼻を鳴らす。
八重…それは確かに俺のばあちゃんの…先週亡くなったばあちゃんの名前だが、なんでそんな嘘をつく?こんな子を呼んでまでなんで…そんな…
俺は箸をおき下を向く。
「なんでこんなことするんだよ」
父さんは首を横に振り、少女は少し考えこむと、ニヤッと笑い俺に語りかける。
「なぁ、涼介ぇあんた昔家に遊びに来た時夜怖いからばあちゃんよんでよくトイレ一緒にいったな。近所のガキンチョにイジメられてばあちゃんがほうき持って助けにいったり、家の近所のショッピングモールで迷子になって迷子センターいったら泣きついてばあちゃんの胸に飛び込んできたりしてたりしたな。ほんと昔から泣き虫でおとっちゃま(怖がり)やったな」
「そ、そんな昔のこと…」
俺は恥ずかしさを覚えつつ、遠い欠片の断片が少しずつ重なりあい、遠い日の光景が思い出される。
「……………」
俺は考え込む。いや、違うこれはよくあるデジャヴみたいなものでありもしない記憶がまるであったかのように思い出さられる現象だ。
「仮に…仮に俺のばあちゃんだとして、どうしてそんな姿で、どうして死んだはずの人がここにいるんだよ…」
その問いに俺の自称ばあちゃんは
「わからん」と答えた。
なんだよそれ…
そうこうしているうちに時計の針が時間ギリギリのところを指していた。父さんはいつの間にか出勤しておりもぬけの殻だった。
「やべっ遅刻!!」
俺は残ったご飯をかき込むと急いで出る準備を進める。
「ほう、学校か…そういえば涼介が学校に行くようになってから一度もその姿を見とらんかったな。よし…」
俺は制服に着替え、顔を洗い、歯を磨き、寝癖を直しすと急いで外に出るため走る。
「えっと、あんた何者かは知らないけどとりあえずここ人んちだから出てけよ!」
そうゆうと俺達は外に出て持っていた鍵で戸締まりをする。
「いや何で、お前が家の鍵持ってんだよ!?」
「そら朝、茅さんに家のスペア渡されたからやで。ちなみにこの服も茅さんのやつやね」
茅 かや というのは俺の母さんの下の名前でありその母さんがこいつに既に鍵を渡されていたということは…
「え?まさかあんたここに住むの?」
俺が恐る恐る尋ねると彼女はニコッとし元気に答えた。
「ふつつか者ですがしばらくお世話になります」
そして深々と丁寧にお辞儀をし顔をあげると大きな瞳が俺を覗いていた。
俺はスマホを取り出すと母さんに電話をかけた。すると速攻で留守電サービスに切り替わり俺は眉をひそめる。
「クソ!いつになったら息子の電話にまともに出るんだよ!!」
俺が携帯を持たされてから数年が経つがその間まともに母親と連絡を取れた試しがない。
父さんもかなり多忙な人だが母さんに至っては最早異常の域で、出張にいったっきり数カ月帰ってこないなんてことはザラだ。
もし帰ってきたとしても次の日にはまるで自分の家を遠ざけるようにどっかに行ってしまう。最近では仕事のために新たに自分用のマンションを契約した程で最早悪意すら感じさせる。
「相変わらず忙しい人やなぁ。まあその分家事はばあちゃんがきちんとやってあげるけん、安心しとき」
そうして得意げに鼻を鳴らす少女をよそに俺の平穏な日々に終止符が打たれる音がし、俺は絶望しその場に崩れ落ちる。
「最悪だ!!」
「それはそうと、学校間に合わんのちゃうん?」
余りのショックに本来の目的すら忘れていた俺は慌てて立ち上がると走り出す。
「ああっ!?クソがぁぁぁぁぁ!!」
「全く、騒がしくなりそうやな」
呆れ顔で少女は溜息混じりに呟いた。




