↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/42

第37話 最悪の最善


 「お母さん?ねぇ!お母さん!」


「うっ…うう…」


 私は涼介と電話を切った後、ひたすら弱りゆくお母さんに声をかけ続けていた。一応反応はあるがいつ途絶えてもおかしくはない、そんな状況だった。

 鳴り止まぬ轟音は途絶えることなく、ドアの木の木片には小さな穴が空きはじめ隙間から男の歪んだ顔がちらちらと映りその度に私を畏怖させる。

 私はもう間もなく破壊されそうなボロボロの扉の前に部屋の中に設置していた本棚で急いで扉を塞ごうとする。


「んんっっ!!はぁ…くぅっ!!」


 現役女子高生1人が動かすにはかなり無茶な重量であったがそれでも何とか扉の前へゆっくりと本棚は動いていった。そしてどうにか扉が見えなくなるまで塞ぐと少し安堵する。

 これでまだ暫くは大丈夫だろう。そう思った矢先



ガァン!!



「え?」


 塞いだはずの本棚が突然、自分の方に向かって倒れ込んでくる。私は咄嗟にそれを両手で押さえ込むと必死に耐える。あと一瞬遅れていたら確実に下敷きになっていた。


「くぅぅぅぅっ!!」


 私は必死に本棚の体重を支えそれに加え後ろから絶え間なく振り注ぐ、重い衝撃に耐えていた。

 普通の人なら一瞬で耐えきれず力負けするところだったが幸いなことに中学の頃までやっていた部活のおかげで鍛えられた体幹と人並み以上の筋力がそれを可能にする。しかしそれもそう長くは持たなかった。


「ぐっ…もう…限界ッッ…!!」


 私は自身の限界を感じると瞬時に手を離し後ろに飛んだ。そのおかげで雪崩のように転倒する本棚の下敷きにならずに済んだ。しかしそれは同時に、この部屋の最後の砦を突破されたことを指していた。

 目の前には達成感に歪む邪悪な笑みを浮かべた男が汗だくで立っていた。私はその状況にただただ絶望し目を大きく見開き、呼吸が乱れ軽いパニック症状を起こす。


「…はっ…はっ…いや…嫌ぁ」


 そして涙ながらに首を横に振り後ずさりをする雪音に男は逃がすまいと彼女に覆いかぶさるように倒れ込み抵抗できないように腕を掴み馬乗りになる。


「やだっ!離してッッ!!」


 私はジタバタと必死に抵抗したが流石に大の大人の力には敵わず軽く抑え込まれる。


「はぁはぁ…雪音ぇ…お父さんね、これでも前々から我慢してきたんだよ?」


「…が……我慢?何のこと?」


 突然訳の分からないことをいう男に、私はそのことについ質問をしてしまう。


「やっぱり世間体もあるし、これだけ歳が離れていると流石の私でも抵抗があったんだ…けどね…もうこうなったら仕方ないよな?お前を従順にさせるにはもうこうするしかないよなぁッッ!」


 そうゆうと男はいつの間にか鈍器を床に置いており自由になった手で私の服を上に勢いよくずらした。


「えっ…ちょっと冗談でしょ!!…嫌ぁぁぁぁぁ!!」


 そこからは健康的でよく引き締まった肌色の身体と薄いベージュの青い下着が露わになる。


「ハァ…ハァ…高校生のくせに…こんな…身体つき…あ…実はパパのことずっと誘ってたんだなぁ!」


 私の拒絶の声など全く耳に入ってないというように男は息を荒げながら私の身体を舐めるように見回しひどい言葉を口にするとそれに対して強い吐き気を覚える。



「本当に…気持ち悪い…」


「あ」


 その言葉に先ほどまで一切聞く耳を持たなかった男が短い低い声をあげ、私の顔を何回も平手打ちする。



バシッ!バシッ!バシッ!バシッ!


「…お前一体誰のおかげで飯が食えてると思ってんだ!!ああッッ!!子供だからって調子に乗りやがって……お前は黙って私のご機嫌とっときゃいいんだよ!!」


「ひぐっ!…いっ…あぐっ…」


 男は怒声を浴びせながら、その大きく太い手で何度も雪音をぶつ。


「や…やめて…おねがい…雪音には…手をあげないで」


 その様子を見ていた母が何とか身体を起こし娘に手を伸ばしながら必死に訴えていた。


「お前もよく見ていろッッ!!私に逆らうとどうなるかをッッ!!」


 そうしておとなしくなった雪音のズボンに手をかけそれを下に下げていく。母はその光景を涙を流し唇を震わせ見つめることしかできなかった。




―――――― ピンポーン――――


 突然のチャイム…そして扉を強く叩く音


「…きねッッ―」



「…ッッ!!?」


 私は必死にその声のする方へ目を動かし耳を澄ませる


「……雪音―雪音ッッ!!」


 間違いなどではない、確かに声が聴こえる。かなり遠くからだったが間違える訳がない。彼の声だ。

 こんな絶望的な状況だというのに彼の声が聴こえるだけで、近くにいるというだけで何故か心がぐっと軽くなった気がした。そしてそのまま彼を求めるように何度も何度も叫んだ。


「…りょうすけ…りょうすけ!涼介ぇ!!涼介ぇぇぇぇぇッッッッッッ!!!!」


「雪音ッッ!!?そこにいるんだな!?雪音ッッ!!安心しろ!直ぐに助けにいってやるからッッ!!」


 私の存在を確認すると涼介は腹の底から声をあげて私の呼びかけに反応した。そして私はいつの間にか大粒の涙が溢れていることに気づく。


 だが突然の状況に男は少し焦った顔をしたがすぐに元のうすら笑いを浮かべていた。


「雪音?あの男の声は誰だ?もしかしてお前の男か?お父さん一言もそんなこと聞いてないぞ?全くお前はどこまで私を悲しませれば気が済むんだ?純粋だと思っていたのに既に中古品だったなんてな。がっかりだ…どうせその彼氏もお前の身体目当てだったんだろう?」


 本当に同じ人間の言葉とは思えないような下劣な言葉を繰り返すこの男に私は怒りをぶつける。


「違う!!涼介はあんたみたいに他人を道具としてしか見ていない人じゃないッッ!こんな私にいつも優しくしてくれて前を歩けなかった私を今までずっと支えてくれた大切な人なんだ!!だから彼を悪く云うのは許さないッッ!!」


 私は鋭い目つきで目の前の男を威嚇するように叫んだ!!すると男は突然吹き出すように高らかに笑った。


「…雪音ぇ…正直お前の男のことなんてなぁ…これっぽっちも興味なんてねぇんだよッッ!!まあその口ぶりからしてまだ未経験ってことは確かみてぇだから、まずは俺がじっくり味わって終わったらお前の具合を外の男に報告でもしてやるよぉ!!」


は?この男は何をいって…まさかこの状況でまだ諦めてないっていうの?私は尚も男を睨み続けると何とか抜け出そうとジタバタと抵抗を試みるが、既にそんな余力は残っていなかった。


「どうしてまだやめないの?って顔してるなぁ。なぁ雪音?少し考えてみてごらん?ここには密室でこのことを知るのは外の奴を含めて4人しかいないんだ。それに私にはこれくらいの状況ねじ伏せるくらいの権力はあるんだよ?もしここに警察が来たとしてもどうとでもなるんだよぉぉぉぉぉ!!ばぁぁぁぁぁぁかー!!!」


 そういい終わると次に男は私を抑えながら首を外にあえて聴こえるように曲げると続けて叫んだ。


「彼氏くぅぅぅぅぅんんん!!!お前の彼女先にブチ犯しとくから、そこで指を咥えて終わるまで喚きながら見てなよぉぉぉぉッッッッ!!あー(笑)見えないんだっけ?じゃあ音だけで楽しんでくれ!!」


「やだっ…!!やだよぉぉ!助けてッッ!!りょう―」


 ゴンッッ


 私の最後の抵抗を遮るように男は手にした鈍器で私を叩いた。すると突然世界の音は止んだ。先ほどまで確かにあった意識が不安定なものになり脳が揺れていた。


 その言葉を一字一句聴いていた涼介は外で叫び続けていたがその声は男は愚か私にさえも既に届かなかった。

 そして男は愉快に伝え終わると持っていた鈍器を横に置くと私に向き直り、行為を開始する。


「じゃあ…お楽しみの時間と行きますか…」


私は薄れゆく意識の中で現実を実感する。


ああ…終わる…私の全てが…この男に…全て汚されてしまう。嫌だなぁ、こんなの…私はお母さんと平穏に暮らしたいだけなのに…どうしてこうなっちゃったんだろう…あーあ、もう学校にもいけないな…みんな私が来なくなったら心配してくれるのかな?そういえばミサキにちゃんと話せてなかったな…あんなに心配して相談に乗ってくれてたのに…本当…私…バカだ…今度逢えることがあったらちゃんと話そう。そしてちゃんと謝ろう。


 久もバカで空気読めない奴だけど…いい奴だったな…本当まっすぐで私がこんな状況になってるって知ってるのに後先考えず助けようとしてくるんだもん。私だったら絶対にできない、幼い頃からの付き合いだけどあんないい奴、私にはもったいないよ…本当いい友達を持ったなあ。もしあいつにも今度逢える時があったらその時はまた昔みたいにバカみたいに笑って一緒に遊んでくれるかな?うん、あいつはきっと何一つ変わらずに私に接してくれる。それくらいわかる。親友だもの。


 突然現れたあの少女…最初は涼介につきまとう悪い虫だと思ってたけど実際会ってみると全然そんなことなくて…優しくて…どこか大人の魅力があって…無邪気で…出逢う人全員を幸せにしてくれるような存在だった。私とあんまり変わらない見た目なのに本当にすごい人だ。そして私はいつの間にか八重さんに憧れを抱いていたんだ。あんな素敵な女性になりたいと思った。

 もし今度逢えたらあの日一緒に食べたオムレツの作り方教えてくれないかな?きっと私一人じゃあの優しい味は一生かかってもできそうにないや。


 彼女は強い衝撃を与えられたせいで、暫し先程とは違う世界で走馬灯のように永遠のような時間を彷徨い、これまでの事を思い浮かべそして友との時間を思い出していたのだった。そして最期に―


 いつも、ムスっとした表情で私の顔を見ると嫌な顔をして私を怒らせるようなこというアイツ…本当に腹が立つ…そのせいで高校に入ってからはほとんど毎日喧嘩してたよね…ほんと、昔みたいに素直でかわいいあいつに戻ってくれないかなってしょっちゅう思ってた。そうすればあの頃みたいにまた一緒に遊べるのにって……でもね…私ね、あんな毎日喧嘩ばっかりしてたけど、あんな日々でさえ私にとってはすごく楽しくて、充実してて、大切な宝物だったんだよ?だって態度は変わってもやっぱり君は君だもん。私からしたら何も変わらないんだよ。自分は傷ついても他の人ことはほっとけないくらいお人好しで、人が悲しむ顔を見るのが何よりも嫌いで…でもそのおかげで君と出逢えたよ。本当に嬉しかったよ。あの日暗闇で死の淵を彷徨ってた私を助けてくれた君は私には王子様に見えてた…って何いってんだか…恥ずかしいな…私……こんなときだっていうのにね…………ねぇ…………………………………

…………………涼介?…………今度またあなたに逢えたら必ず伝えたいことがあるんだ。いつになるか分からないけどその時は必ず云うからちょっとの間待っててくれるかな?この地獄が終わったら絶対にあなたに会いにいくから―


根来寺涼介君…私、初めて会った時からずっとずっとあなたのことが



大好きでした。




そして心の中で彼女は決心すると覚悟を決める。まずはこの状況を終わらせよう。終わらせてまた一からリセットしよう。そして最後にちゃんとみんなに伝えよう。


 既に男は私の下着に手をかけるとそれをゆっくりとずらそうとしていた。しかし先ほどまで慌て喚いていた自分はもういなかった。そして男は私の身体に夢中で周りに一切警戒をしていなかった。

 既に私の左手には例の鈍器が握りしめられているとも知らずに…私は自分と、何よりお母さんを解放するために最後の手段に出る。そしてその先に待つものがまた新しい地獄になることはわかっていた。

 もう余り身体は動かなかったが何とか頭を少し横に傾けるとベッドから私を涙目で見つめる母と目が合った。


 さようなら、みんな



 そして雪音は行動を実行に移そうと最後の力を振り絞った…はずだった………


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。