第36話 一石二鳥
降りしきる豪雨は道路に水たまりを作り、視界を遮り進行を妨げている。もちろん命綱などはなく、その状況の中かなりのスピードでバイクを走らす久の運転技術に全てがかかっていた。
「おい、涼介大丈夫か?」
「おう、問題ない」
口ではそういいながらも先ほどから力いっぱい久の腰に手をたぐり寄せ、カーブで曲がる度に身体の節々を痛めていっている。明日からはしばらく筋肉痛で動けないだろう。
「久、俺が先についたら警察を呼んでくれないか?その間に俺は時間を稼ぐ」
「了解、てか今ってそんなにやばい状況なのかよ!?」
「ああ…はっきりいって最悪だ。全てが終わったらちゃんと説明する。だから今だけは俺を信じてくれないか?」
「そこんとこに関しては心配してねぇよ」
そんな心強い言葉に本当にこういう時は頼りになる男だと思った。
「本当に…ありがとうな」
「だから気持ちわりぃって!」
なんにせよ久の助力のおかげもあり女木のマンションまで残り数分のところまで大幅に短縮できていた。
「よし、あいつん家までもう少しだ!気ぃ緩めてケガすんなよ涼介!!」
「ああ!既にあちこち痛えけどな!!」
「あとな、涼介…どうやら警察は呼ばなくて良さそうだぞ!!」
突然久は俺にとんでもないことを言い出す。
「は?それどういう―」
「「そこの、バイク止まりなさい!!」」
突然背後から大音量のマイクが俺達に浴びせられた。
「警察!?」
「ははっ!!ちょっと飛ばしすぎたな!!まぁちょうどいいじゃねえか!このままついてきてもらおうぜ!!」
「お前…マジか…」
そうゆうと久は止まるどころか、バイクを加速させ警察車両との距離を離していく。その瞬間、真っ赤なパトランプとサイレンが鳴り響き、向こうも本腰を入れた。
これ仮にうまくいったとしても余罪がつくんじゃなかろうか?俺は今後の学校生活の見直しを検討しながらバイクに身を預けることにした。
そして数分後無事に?警察を振り切った久と俺は、女木のマンションへとたどり着いた。どこか遠くの方でサイレンは鳴り響き幸か不幸かこの悪い視界のせいで俺達の発見に手間取っているようだった。
俺は先にバイクから降り、ヘルメットを外しマンションの上階を見つめた。
「涼介!ほれ」
久はバイクに跨りながら俺に向かってスマホを投げてきた。俺は無言でキャッチすると涼介に尋ねる。
「これは?」
「もし、八重さんと連絡取ることになったら必要になるかもしんねぇだろ。一応持っとけ」
そして久は前に向き直るといつまで経っても近づいてくる気配のない警察に苛立ち始める。
「たくっ、本職が情けねぇな。悪い先いっててくれ!ちょっとパトカー捕まえて一緒に連れてくるわ」
聞き慣れないフレーズに俺は少し戸惑ったが久は真剣な様子だった。
「ああ、まだ捕まんなよ」
「まだって何だよ…何も悪いことしてねぇだろ」
そういうと彼はバイクのエンジンをわざとふかせ音のする方へ消えてしまった。
「ありがとうな久」
俺は三度そう云うと全速力でマンション内部に入る。中には人の気配はなくどうやら少女よりも先に到着してしまったらしい。俺は一応部屋番号を押し呼び出しをするがもちろん返答はない。
「さて…と」
俺は計算通りといった様子で辺りを見渡すと、ちょうどいいところに設置されていた消火器を手に取り、助走をつけエントランスのガラスを叩き割った。
すると一瞬凄まじい金属音が聞こえたが、その後は以外にも静寂に包まれた。正直警報装置とかそんなんが作動するかと思ったが、その様子はなかった。どうせなら派手に鳴って欲しかったものだ。
俺は消火器を置くと、別のプランに切り替え、エレベーターに乗り込む。
「女木…頼むから無事でいてくれよ」
涼介は疲労と緊張が混ざり合った心臓の音を躍動させるとエレベーターは上昇していった。




