第34話 最悪の事態
トゥトゥ トゥトゥ トゥトゥルトゥトゥ トゥルン トゥトゥ トゥトゥ トゥトゥルトゥトゥ トゥルン
「出ない」
俺は目の前の少女に激動された後、すぐに女木に連絡をしろと云われ、降りしきる雨の中、校門前で先ほどから連絡をとっていた。
暫く濡れないように傘を自分よりも身長の高い俺の上で支えていた少女は一向に出る気配のない女木に痺れをきらしたように口を開く。
「あんた…ほんとに雪音ちゃんになにしたん?」
「なんもしてねぇ…ちょっと相談に乗ろうとしたら向こうが勝手にキレて飛び出してったんだよ…」
そんな俺の棘のある言い方に少女は溜息をこぼし、俺の脳天にチョップを叩き込む。
「いて!」
「あほう、滅茶苦茶心当たりあるやん。乙女心ズタズタに引き裂いてしもうとるやん」
「……………」
そして一向に進展しない状況に2人して肩を落とし、とりあえず一旦家で作戦を練ろうと提案していた時、校庭の方から、俺達2人をみつけた教師が傘をさしてこちらにやって来ていた。
「根来寺、お前また他校の生徒とうちの学校の前でいちゃつくってのはどういう了見なんだ?新手のスクールハラスメントなのか?」
そこには春先にこの少女と初登校デビューを果たした際、あらぬ誤解を受けて俺に熱心に指導して下さった生徒指導の先生が立っていた。
「いや、これはその……先生お勤めご苦労さまです」
俺は上手い言葉が見つからず、咄嗟に労いの言葉をかけてみた。
「お前…全く反省してないな」
それはどうやら逆効果だったようで、目の前の大人は苦笑いを浮かべながら笑っており、大人が本気で怒る時のテンプレのような状態だった。
そう俺が冷や汗をかいていた矢先、隣で立ちすくんでいた少女が一歩前にたった。
「涼介の学校の先生ですね。どうもうちの涼介がいつもお世話になっております」
そうゆうと彼女は笑顔でペコリと頭を下げた。 俺の冷や汗は最早、洪水状態だった。
「お前ら揃いも揃って大人をバカにしてんのかぁ!!」
その反応に少女は疑問符を浮かべ俺の顔を不思議そうに見つめてくる。
「涼介?なんでこの先生はこんなに怒っとんやろ?」
まるで煽りにも捉えられるその発言は目の前の教師の導火線に油を注いでいく。
俺はすぐに深々と頭を下げついでに横の少女の頭を掴み一緒に下げさせた。
「すんませんしたッッ!!実は俺の友達の…その女木のことで少々入り組んだことがありまして…」
その言葉に先程まで怒りの沸点を迎えようとしていた教師が眉間にシワをよせて真顔に戻る。
「女木の…そうか…確かお前は女木と同じクラスだったんだったな」
そう呟くと生徒指導の教師は唸るように考え込んだ。
「…さっきあいつ呼び出されてましたけど大丈夫だったっすか?」
俺はもう取り繕うのをやめてストレートに聞いてみた。そのほうが俺の性に合っている。
俺の真剣な瞳に教師は少し考え込むと、重い口を開き現状を語りだした。
「大丈夫…か…本人は大丈夫だといったが…俺もこの仕事に就いてから暫く経つが、何か大きなもんを抱えてるやつは大体そういうんだ…だから俺個人の見解としては限りなく黒だと思う。おそらくその時にいた周りの先生方も同じ意見だろう。もちろん今日女木があんな状態でやってくる前からあいつの家庭のことは気にかけていたんだ…お前も知っていると思うが…かなり噂になってたからな…そして最近あいつの母親が再婚して新しい男が住み着いているとわかった。まあ、親権者に動きがあったら学校に報告するのは基本だが、母親は電話口で丁寧に相手の会社名、電話番号まで伝えてきた」
「女木の母親が再婚…!?そんなこと今まで一度も…」
動揺する俺に教師は冷静に答えた。
「云えなかったんだろう…ただでさえそれについて悪い噂が流れているのにましてや友達である君を巻き込む訳にはいかなかっただろうからな…勿論学校側としてもそのことは守秘してきたんだが、今回のははっきりいって異常だ…早めに手を打っておかないと手遅れになる。そう学校側は判断した」
「判断した?手を打つ?一体何をするんですか?」
「万が一のことがあったらうちの生徒を保護しないといけない…だから先ほどその相手側の男の会社に電話をかけた」
その瞬間、強い光が辺りを照らすとどこかで稲光りが舞い落ち、振り続く激しい雨はより一層勢いを増したように思えた。
「で…相手の男はなんて?…」
「…駄目だ…穏やかな丁寧な口調で今回の件について否定されたよ。きっと勘違いしているだけだから今度改めてこちらに伺うとだけいって、早々に電話を切られた」
「それで?」
「それで?これがついさっきあったことの全てだが?まあ明日改めて連絡して、都合がついたら家庭訪問させて貰うよ」
その言葉を聞いた瞬間俺は背筋がぞくっと震え、そのまま教師と少女を置いて雨の中走り出した。
「涼介!?ちょっと!?」
少女は目の前の教師に一礼をしすぐに涼介の後を追った。
「おい!?風邪ひくなよ!!お前ら!」
そして首を傾げると教師は校内へと戻っていった。
「ハァ…ハァ」
豪雨の中肩で息をしながら全力で走る俺の後をいつもの如く当然のように追いついた、少女は俺の横で叫ぶ。
「ねぇ!?どしたん!?急にどこむかいよん!!」
「ハァ…女木の家だ…考えすぎかもだが、さっきの教師の話しといい…女木があれだけ電話をかけても出ない辺り、かなりまずい…ことになってるかも知れねえ!」
俺はそうゆうと、濡れたスマホを服でこすり何とかタッピングさせ、いつしか教えてもらっていた女木の母親の電話番号に電話をかける。
プルルルルル プルルルルル
そして画面をしきりに確認するが、暫く経っても呼び出し中のままだった。
クソ…出ないか…
通話中
「!?…あの…もしもし…突然おかけしてすいません!…ハァ…女木のお母さんですか?…ゼェ…お久しぶりです!涼介です。…ハァ…ハァ…すみません!今って時間ありますか?」
俺は繋がったことに安堵しその場で立ち止まると呼吸を整えることもなく早口で喋った。
「……………」
しかし、通話中であるはずの向こうは一向に無言で応答がなかった。
「…あの…もしもし…?」
「……う……ぐ……」
微かに向こうから小さな声が聞こえてくる。
「あの…女木のお母さん?ですか?」
「……ひぐっ…うぐっ…りょうすけぇ……たす…けて」
「ッッ!?女木!?」
電話口の向こうでは喋るのもやっとそうな女木が俺に助けを求め訴えかけていた。




