第28話 女木雪音 ⑤
私は無事その高校に入学することが叶い、今日から晴れて普通の高校生になった。ちなみに中学の時まで続けていた部活は高校では続けるつもりはない。理由は……特にない。まあ強いて云うなら欲しかったものを手に入れられたから必要なくなったというべきか…
そして登校初日、私はブレザーに袖を通してあれから何度訪れたかわからない遊歩道を一人で歩いていく。但し今はお母さんも安定する職が見つかってここには住んではおらず、この場所自体はすごく久しぶりだった。私は舞い落ちる鮮やかな桜を通してここで亮介達と遊んでいた日々を脳裏に焼き付けながら歩いていく。
そして何事も無くたどり着くと、少し錆びついた校門の前で辺りを一瞥する。やはり地元ということだけあって周りの生徒も顔馴染みの人間が多い気がする。
「普通だなぁ」
私はぼそっと呟くと今日から3年間を共にする学校の校門を跨いだ。正直この学校自体に興味はなかった。確かに家から近いという利点は大きいが本当にそれだけだった。私は中に入ってもぼーっと辺りを見渡し歩きながらクラス分けの掲示板の方へ向かう。
えーっと私のクラスは……
そして彼女は自分の名前が記されたクラスとそこに並ぶ他の生徒を一瞥すると口元が緩んでいた。
「あれ?女木?」
その時名前を呼ばれた私は今思えば少しあざとくその声の主に振り返った気がする。それは入口付近に植えられた申し訳程度の数本の桜の木から花びらがこぼれ落ちまるで偶然の出逢いを連想させるような光景が広がった。
「あっ涼介おはよう。あんたもこの学校受けたんだ?」
その声は冷静で落ち着いており、一切動揺した様子を見せない表情はまるで作り物のようだった。
「お前…なんでこんな学校に…お前ならいくらでも他にあったろうが」
女木とは逆に驚きと困惑を混ぜ合わせたような彼は何故か不満気だった。
「別に…近いからいいなって思っただけよ。何か文句ある?」
私は依然として淡々と答えると彼は威圧されたようにそのまま掲示板を確認し顔に手を当てる。
そして突然、私達の背後から勢いをつけてこちらに加速し私と涼介に片方ずつ覆いかぶさるように重みがのしかかる。
「よお!!久しぶりだな!!卒業式の時話したっきりだよな!?まさか同じ学校だったなんてなぁ!!」
涼介と私は後ろを振り返ることもなくそのツンツン頭に口を開く。
「離せ」 「離して」
そんな2人の拒絶の言葉を無視した久はクラス分けの掲示板を見て更にやかましく吠える。
「おいおい!!しかも同じクラスじゃねぇか!こんな偶然ってあるんだな!!これでまたつるめるな!」
久は嬉しそうに笑いながら私達の背中をバンバンと叩きながらそう云った。私と涼介は相変わらずそんな能天気な久を見て安心するように静かに笑った。
私はその日久しぶりにあの頃の3人に戻ったような気持ちに包まれ嬉しかった。もしかしたら本当にここから止まっていた時間が進むかも知れない、そんな気さえしていた。
しかしそんな私の期待とは裏腹に入学後間もなく私には大きな隠しごとができてしまった。それがあの男の存在だった。




