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第24話 女木雪音 ①


 私は17年前母と父の間に一人娘として生まれた。その頃父の会社も軌道に乗っていたため普通よりは少し裕福な家庭環境だった。

 父さんも母さんもとても仲がよく、私もそんな2人の愛情に育まれすくすくと成長し、ご近所からも理想の家族と云われるほどだった。

 私はそんな2人の事が大好きで家で父さんが仕事中でも構って欲しいがためによく邪魔をし母さんを困らせていた。それでも父さんはそんな私に嫌な表情1つ見せず大事な仕事を後回しにしてでも私に構ってくれていた。どれだけ仕事が忙しくても夏休みには時間を作って遊びに連れて行ってくれたり、授業参観にも父母両方が来てくれていた。今思えば私と母さんはそんな完璧すぎる父さんに、甘えすぎていたのかもしれない。

 私が小学校に上がって間もない頃、学校に連絡が入り担任の先生からすぐに帰宅するよう云われた。理由は父さんが職場で倒れたからだ。

 私はすぐに家に帰宅し母さんと一緒に病院に着いた頃には既に父さんは帰らぬ人となっていた。死因は脳血管疾患によるもので過度の過労が原因ではないかと診断された。私と母さんはその日、日付が変わるまで泣き止むことはなく私はそのまま塞ぎ込んでしまった。

 何故なら私は幼くも父さんの死の原因は自分の我儘、私の存在自体が父さん自体を死に追いやった原因ではないか?そう思ったからだ。

 父さんが亡くなって数日後3人で住んでいた家は売り払われ塞ぎ込んでしまった私を連れ母さんはこれから2人で暮らしていくマンションへ引っ越すことになった。         

 口も利かなくなった私にも母さんは愛想を尽かすことなく、父さんの残したお金でやり繰りしながらパートを始め、朝早くから夜遅くまで働き帰ってくると私のために毎日ご飯を用意し優しい言葉をかけてくれていた。


「ごめんね、こんなことになっちゃって…でもね雪音だけは絶対に幸せにしてみせるからね」


 父さんを失って1番辛いのは母さんのはずなのに私を勇気づけるために母さんは無理やり笑顔を作って仕事に出かけ、私は何もない部屋の片隅でずっと震えてただ母さんが帰ってくるのを待つだけの時間が続いた。


 そんなある日のことだった。私はいつものようにマンションの部屋で1人留守番していると外から賑やかな声が聞こえてきた。私は興味本位でベランダから覗いてみると遊歩道の方に同年代くらいの子供がランドセルを背負い楽しくみんなで下校していた。

 今日1日の学校での出来事や、明日のことなどを話しながら帰宅するその様子を見て私は妬ましくもあり、同時に羨ましくもなった。少し前までなら私もそこにいるはずだったのに…何故か今は暗い部屋の中でじっとしているだけの生活。嫌だった…自分だってみんなと一緒に遊びたい。けれど自分の心が…身体がそれを拒絶した。

 結局私は何もできず毎日同じ通学路を通って登下校をする生徒を羨ましくベランダから眺めることが多くなった。 


そして父さんが死んでから約半年が過ぎた頃の事、私は1つの決心がついていた。いつも楽しく下校しているあの子達と話してみたい。仲良くなりたい。そしてもう一度学校に通いたい。

 その気持ちは日に日に強くなっていき、ある日私は下校中の時間を見計らい思い切って声をかけてみようと思った。そしていつもの下校の時間が近づくと私は玄関の前に立つ。あれからほとんど外に出ていなかったが私が外に出られる日を願ってなのか新品の靴が既に置いてあった。私は少し戸惑いながらもそれを履くと重い玄関の扉を開く。

 だが照りつける光と外の空気を肌に感じた瞬間私の歩みは止まってしまい強い拒絶反応を起こした。


「はっ…はっ…」


 駄目だ、やっぱり私には無理だ。強い動悸が体中を駆け巡ると私は外に出る勇気をなくし扉を閉めただ大人しく今日も母の帰りを待とうと考えた。

 しかしその時ちょうど空けていた窓から声が玄関まで聞こえてきた。それは間違えようもなく、いつもこの時間に下校しているあの子達のものだった。

 私は再び扉の方に振り向き、葛藤する。もし今日を逃したら私は二度と外に出られないかも知れない…ずっとこのままここで…1人で……そんなの嫌だ。私は今日あの子達と話すんだ!そして友達になってまた学校に通って…母さんに少しでも心配かけないようにするんだ!!


 そう決意すると私はいつの間にか走り出していた。


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