第19話 帰路
夕暮れに照らされ、涼介と八重は元来た道を辿るため朝よりも少なめの乗客のおかげで2人並んで座ることができていた。
俺は久しぶりに友人と長時間遊んだ影響かどっと疲れを感じ後ろの窓ガラスに顔を向けると激しい光に照らされオレンジ色に染まる街並みをぼーっと眺めていた。
「今日はすごく楽しかったなー涼介♪」
俺とは裏腹にあれだけはしゃいでどこにそんな余力があるのかというくらい同じテンションで少女が俺に問いかける。本当は無視したいくらい疲れ果てていたのだが、何となく少女の悲しむ顔が見たくなかった俺は無理やりに顔を少女に向ける。
「ああ、そうだな」
「また、一緒に…今度はみんなで海にでもいきたいもんやね!!」
今日これだけ遊んでもう次の計画を立て始めてていた少女に呆れを通り越して少し羨ましくもなった。
「ああ、そうだな」
俺は少し笑いながら低めの声でそういった。確かに久や、女木とは昔からの付き合いだったが、こうして休みの日に一緒に遊んだのなんていつぶりだろうか?
そしてもう一度少女の方を見ると目を閉じて楽しそうに微笑んでいる。恐らく今日あった事を早速思い出しているんだろう。
その様子を眺めながら俺は本当に何となくだが今年は色んな事が起きるような、そんな予感がしていた。
電車を降り家に続く道を歩く頃には辺りは薄暗くなってきており、近所の明かりもちらほらと灯りだしていた。先程まであれだけ元気だった少女も今は瞼をこすり大きな欠伸をしていた。
「おーい、家まで頑張れよ」
俺がそう忠告すると少女は小さく返事をする。
「ふぁぁ…もう、限界かも知れんなぁ」
すると少女は急に俺の背後に立つと背中にしがみつく。
「のわっ!?」
「へへ!楽ちんやね」
急に飛び乗られた衝撃で少しふらつくが、何とか体勢を立て直し足を支える。
「おい、降りろ」
「なんや、その言い草は!昔はばあちゃんがよくおんぶしよったんやで!おばあちゃん孝行せんか」
「知らねぇよ!そんなこと!!大体今は見た目を気にしろって!!近所で変な噂立てられたらどうすんだよ!」
「そりゃおもっしょいな!」
上でケラケラと笑う少女に俺は呆れていると急に静かになり囁くように口を開いた。
「…あのな涼介…なんで、こんなことになったんかは本当にわからんのやけど、こうして元気な孫に会えて自由に身体が動かせて、外の空気とおいしいご飯が食べられてあの家でみんなと暮らせてることが私は今とっても幸せなんや。でもそれと同時にこんな奇跡みたいなこといつ終わるかがわからんのがたまらなく怖くもあるんや」
その言葉を聞いて俺は暫く無言で歩き続けていたが自分達の家が見えてきたところで俺は立ち止まり云う。
「じゃあそれを忘れさせるくらい毎日楽しく生きなきゃな…そうさせるくらいには俺も頑張ってみるわ」
「そう…やな」
その言葉を聞いて安心したのか、少女は寝息を立ててすやすや眠り出した。
「全く、手のかかるばあちゃんだよ…」
俺はふっと微笑み家に到着すると、おぶっていた彼女を起こさないように寝室のベッドに寝かしつけ腹に何か入れようと思いキッチンに向かおうとするとリビングの明かりがついている事に気付きそちらに足を向けた。
「おお、帰ってたのか」
そこには早く仕事を切り上げた父親がビールグラスを片手に一杯やっていた。
「父さん、今日は早かったな。母さんはまだ…だよな」
「ああ、俺も大概だがあいつの仕事っぷりにも困ったもんだよ。おかげで息子との間に亀裂が入り始めてる」
父さんは冗談混じりにそう云うとビール瓶を俺に差し出した。
「俺まだ飲めねぇよ…」
「バカ…お酌しろっていってるんだよ」
そう云うと俺を小馬鹿にしたように笑いこっちに誘導する。
俺は気に入らなかったが父さんが意味もなくこんな事をするとも思えなかったので渋々ビール瓶を受け取るとグラスに注ぐ。
「プハァ!!やっぱ息子に入れて貰う酒は格別だなぁ!!」
俺は溜息をつくと無言でソファに座る。そしてグラスを置いた父さんが話しを切り出した。
「で、今日はどうだった?母さん楽しそうだったか?」
「ああ、休む日もなく笑ってた。俺のばあちゃんって昔からあんな人だったのか?」
「そりゃもう、俺が小さい頃なんか休みの度に外に連れ出されて誰よりも自分が楽しんでるから俺も、俺の親父も大変だったんだぞ!!」
その光景が悔しいが何となく目に浮かんできて乾いた笑いが出る。
「あん時は滅茶苦茶楽しかった。俺がまだガキだったてのもあるが本当に地元で一番笑い合ってたくらい笑顔の絶えない家族だったかもな」
そう云うと父さんは過去を思い出すように天井を見上げると残っていたビールを飲み干し机に置いた。
「まぁでも俺がこっちに就職して親父が先に亡くなった時くらいかな。母さんの身体も悪くなってだんだんと大人しくなっていったのは」
俺は悲しげな表情をして語る父を黙って見据える。
「でもな、暫くしてお前が生まれて連れて行った時は本当にあの頃の母さんのように笑顔でいっぱいで迎えてくれて、本当に嬉しかったな」
「俺が生まれて?」
「そりゃあそうさ!自分を大切に育てた息子が孫を作って見せに来てくれたらそりゃあ何よりの親孝行だろうよ!…てゆっても俺がそれに気付いたのもその瞬間だったけどな……母さんにとっちゃ俺もまだまだガキだったんだなって思ったよ」
「ごめん、さっぱりわかんねぇ」
俺はそんな自分に情けなくなり、下を向くとそんな俺を励ますように口を開く。
「大丈夫さ、お前もいつかもっと大きくなって好きな人ができて結婚して子供ができたら、この気持ちが分かるようになってくる。人間なんてそんなものだ」
「…そんなもんかな」
こんな根暗で閉鎖的な俺に誰かが寄り添ってくれる未来は視えないが今はそんな父さんの言葉に力を貰った気がした。
「だからそのためにも涼介、母さんから学べ!俺がこんな立派になったのもあの人のおかげだ。こんな機会滅多にあることじゃないからな!!そしてここにいる間は母さんをできるだけ笑わせてやってくれ!これは…まあ俺からの個人的なお願いだけどな」
「…わかった」
珍しく真剣な面持ちでお願いする父さんに俺は答えたいと思った。
俺はその後父さんと別れ台所で簡単な物でも作ろうと冷蔵庫を開けると、中には少女が作っておいたであろうラッピングされたおかずが並んでいた。
俺はそれをおもむろに取り出すとあたため、机に食器を並べ手を合わせた。
「いただきます」




